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第63話・紅竜の家出(竜も歩けば面倒にぶち当たる)

 「おねーちゃーんってばーっ!ほら、あそこーっ、空飛ぶトカゲー!」


 誰がトカゲやねんこちとら帝国を一人で滅ぼせるコワいドラゴンだぞ、と子どもに言っても仕方がないし、関わり合いになってもろくなことは無いのだ。そもそもわたしは子どもが好きではないのだし。幼女時代のお嬢さまとネアス?あれは天使だからいーのだ、と言いたいところだけれど、最初は相当手を焼いたもんなあ。わたしがしゃべれるようになってからは大分楽になったけど。

 てなことをブツブツ言いながら飛び去ろうと振り返ったとき。


 「あーっ!ほんとだねー!……トカゲさーん、降りてきてーっ!!」


 ……だから誰がトカゲやねん。イワしたろかこのガキ。

 二人目の、多分「おねえちゃん」と言われた子どもの声が、振り返ったわたしをもう一度振り向かせる。ややこしい。その場で一回転しただけじゃない。


 「トカゲさん踊ってるねー」

 「だねー」


 違うっちゅーに。

 ええい、ここでもう一回振り返ったら喜ばせるだけだ。一言文句言って立ち去ることにしよう。


 『ちょっとそこのガキども…もとい子どもたちっ!今からそっち行くからそこ動くんじゃねーわよ!』

 「え?……わーっ、しゃべったーっ!」

 「すごーい!」


 喜ばせてしまった。思わずデカい口の端がヒクつくわたし。まあこんなお空でイラだってもしょーがないので、女の子二人の側に着地する。逃げ出すかと思ったら、なんか興味深そうにこっちを見ていた。


 『……双子?』

 「うん、そうだよー。ね、おねえちゃん」

 「あたしがニモアでこの子がルクナ。トカゲさんのお名前は?」


 見てるだけでは飽き足らず、怖々とではあったけど近寄って来て手を伸ばしてきた二人連れの女の子は、確かに双子のようで顔つきはそっくり。ただ、その表情はわたしに興味津々なキラキラした目をした方と、多少は警戒している風な様子の方と、対照的ではある。

 見たところ、興味を示しているのが妹のルクナ、って子でもう一方が姉のニモア、って子なんだろう。


 『名乗られて答えないのじゃあ、紅竜の名折れ、ってもんよね。わたしはコルセア。見ての通り、トカゲじゃなくて竜よ。ドラゴンなのよ』

 「トカゲじゃないの?」

 「……お口おっきい」

 『信じられないってんなら、これでどうよ』


 おっきい、と言われた口を開いて天を仰ぎ、わたしは大人の身長程度の長さの火を噴く。


 「わーっ」

 「すごーいっ!」


 ふふふ、どうだ凄いだろう。

 素直な感嘆の声に悪い気はしなくて、わたしは口を閉ざすと、不敵に笑んで胸を張る。いや、子ども相手に何やってんだ、わたし。


 『……それよりこんな夜に子どもが出歩いたら危ないでしょ。人さらいにつかまらないうちに家に帰りなさい』


 まあトカゲ呼ばわりを訂正出来たことで気が済むと、小さい子どもが出歩いていい場面じゃないと気がつき、わたしは大人の良識に従って極めて常識的な提言をする。

 比較的治安の面では帝都はマシとはいえ、あくまでも他の国や街に比べれば、の話だ。お嬢さまがさらわれそうになった事実の示す通り、一歩裏に入れば子どもなんか半日も無事でいられるとは限らないのだ。増してもう夜になるんだし。


 『なんだったら送ってあげるから。家はどこ?』


 そして、ここで別れて後になってから後悔もしたくなかったので、おせっかいだとは思ったけれど双子の姉妹を家まで連れていこうと、両腕というか両前脚を差し出したのだけれど。


 「…………やだ」

 「………」


 妹の方が、わたしから隠れるように姉の背中に逃げ込んでいた。

 そして姉の方も、そんな妹を庇うように立ち位置を少し変えている。


 『……わがまま言わないの。怖い目に遭いたくないでしょ?家のひとが心配しているよ?』


 って、わたしもあんまり人のこと言えないんだけどなあ、と思っていたならば。


 「……あたしたち、いえでしてきたの」


 なんかどっかで聞いたことある話だなー、と思わずにおれないことを言い出していた。おーい、やっぱりこれ面倒事になってんじゃないのー。家出なんかするもんじゃないわ。ほんと。

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