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第59話・なつがっしゅくっ!! その8

 お外で実習に励む時は、いつも別荘屋敷の裏手にある船着き場でやっている。

 そこは舟が着けるように少し掘り込まれているので、砂浜みたいな浅瀬が本来の地形なのだ。

 で、泳ぎに適した場所として浅瀬のまま整備された海水浴場…湖水浴場?まあどっちでもいいけど、そういったところも整備されていて、ネアスとわたしはそこにやって来たというわけ。

 ちなみに、当たり前の話でこの砂浜はブリガーナ家専用の場所で、一般には開放されていない。だから他にひともいなくて、ネアスは初日に着けていたのと同じ水着でのんびり湖水に漂っている。

 ……ところで着替える前に見せてもらったんだけど、この世界の水着ってどーなってんの。流石に化学繊維ほどしっかりしたものではないにしても、思ってたよりもちゃんとした造りになっていて、ご都合主義もはなはだしー、と呆れたわたしだった。ネアスは「なんで?」みたいな顔になってたけれど。


 『あ、ネアス。ほら沖の方。おっきな船が来た』

 「ほんとだ。あれもアイナ様のお家のものなのかな」

 『さあ?お嬢さまは何も言ってなかったけどね』


 ネアスは浮き輪代わりの木の板に両腕を預けた格好で、わたしはその側で宙に浮いたまま、湖の沖合を横切るように渡っていく帆船を黙って見つめる。

 (ファメル)は直接海には繋がっていないから、この大きな水たまりを出て行くことはないけれど、それでも大きく湖畔を遠回りするより湖を突っ切った方がずっと早いから、こうした大きな船の往来は結構多い。

 そういえば三周目の旅行の時も帆船に乗って対岸の街に遊びに行ったりしたっけ。あの時は大騒ぎになったもんなあ。


 『……わたしが水に落ちてお嬢さまとネアスが大変だったもんね』

 「そうだねえ…」


 ………え?

 驚いてネアスの方を見下ろす。

 なんだか眠たそうにしていて、わたしが何を言ったのか理解してないのだろうか……そりゃそうか。つい口にしてしまった三周目の記憶にネアスが同意するわけなんかないもんね。

 そう思い直すと、わたしの視線に気がついたネアスは顔を上げてこちらを見る。そして、何か思いついたのか、少しイタズラっぽい笑みを浮かべて言った。


 「ね、コルセア。帰りは船で帰るっていうのも悪くないんじゃないかな。アイナ様におねだりしてみようか?」

 『んー、悪くないけれど、お嬢さまのことだから「時間の無駄ですわ!」とかいって叱られそう』

 「そんなことないと思うよ?仕方ないですわね、って渋々聞いてくれそうな気がするもの、わたしは」

 『あはは、ありそう。しかも実はお嬢さまが一番楽しんだりしてね!』

 「うん、アイナ様って素直じゃないものね!」

 『それはワカル。お嬢さま、ネアスのこと大好きなのに全然態度に表さないもんねー』

 「そ、そんなことないとは思うけど……」


 あら、照れちゃった。

 ぶくぶくしながら鼻から下を水に沈めてくネアスなのである。耳は真っ赤だから全然隠せてないところがまたかわいい。


 『ネアスはさ、お嬢さまのことどう思ってる?』


 なので、もうちょっといじってみたいなー、と思って隣に着水。海水と違って真水だから浮力はそんなに無いけど、羽を上手いこと操って浮かぶことはそんなに難しくない。

 お嬢さまやバナードにはからかわれるけど、わたしはそんなデブってるわけではなく、皮下脂肪の下はがっしりした筋肉質なのである。だから何もしないで浮いていられるほど浮力は得られないのだ、この体は。


 「どう……って言われても……」

 『お嬢さまってネアスには当たりがキツいじゃない。ネアスがそんなにそれを気にしてる風じゃないのは分かってるけど、やっぱりどう思っているのかな、ってのは気になる。二人ともわたしの大切なひとだもの』

 「うん……」


 で、やっぱりちょっと冷たく感じる水の中で軽く訊いてみたら、ネアスはちょっと難しい顔つきになっていた。そんなに深刻にならなくてもいいんだけどなあ。


 『あの、そんなに答えにくいこと聞いちゃった?なら答えなくてもいいけど…』

 「ううん、そうじゃないの。ただ、コルセアにはそろそろはっきりさせておかなくちゃね、って思ったから」

 『?』


 冗談めかして振った話題だったけど、妙に真剣な声色。

 冷たい水のせいじゃなく、なんだか背筋が緊張で冷ややかになっていくのを覚える。


 「うん。ここじゃちょっと落ち着かないね。コルセア、上がって静かなところで話をしない?」

 『……いいけど』


 じゃあ、はい、と手が差し出される。爪で傷つけたりしないように気をつけながらその手を握ると、わたしは水から上がり、まるでボートを曳航するみたいにネアスを引っ張り、砂浜を目指していった。

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