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第45話・殿下、おかわいいですわよ

 ここなら良いだろう、と殿下がわたしを連れてきたのは、高等学校の敷地内で一番高いところにあって学内を睥睨するよーな偉央を誇る、時計台の内部だった。

 そのうち説明する機会もあるだろーけど、時計といっても機械式のものじゃなくて、例によって対気物理学の応用の一つとして、そーゆー道具があるのだ。

 で、触媒を働かす機構の都合で、時計というのは今のところ大がかりな道具になってしまっているので、こうして大仰な施設が要る、というわけ。説明終わり。


 「ちょうどいい、というのはだな。コルセア、お前の口から聞かせてもらいたい話があるのだ」

 『わたしに?わたしの話せることなんて、お嬢さまのことくらいのモンですけど』

 「それだよ」


 どれだよ、と振り返ってみてもカビ臭い時計台の室内が見えるだけ。時計盤の裏側と繋がってる、触媒を複雑に組み合わせた機構がいくつも転がってた。


 「……冗談を言って和ませようという気遣いはありがたいのだがな」

 『さーせん』


 重っ苦しい空気に耐えきれなくて道化を演じたら皮肉を言われてしまった。真面目な話みたいなので、大人しくする。

 そしたら殿下は深くため息をついて、普段の俺様とゆーか豪放磊落を絵に描いたような気性が鳴りを潜めたように肩を落とし、こんなことを言う。


 「お前に尋ねたいのはな、アイナハッフェが俺との婚約をどう考えているのか、ということなのだ」

 『そりゃもちろん……』


 と、簡単に答えようとして、ハタと詰まった。

 よく考えたら今までと今回でイロイロと状況変わってんじゃん。

 ていうか、前回の時点で親友ルートの分岐イベだったじゃん。

 悪役ルートばく進中なら、殿下とお嬢さまの関係が違ってて当然じゃん。

 むーん。


 『……えーと、それに答えるにあたり、一つ確認しておきたいんですがー』

 「なんだ?」

 『殿下はお嬢さまのどこが気に入って婚約を申し込んだんです?』

 「おかしなことを聞くのだな。我が祖父より伯爵家に申し入れがあってのことで、俺の意志で決まったわけではない。お前もその場にいただろう?」

 『………あーあーあー、そーでしたそーでした。わたし、うっかりしてましたー』

 「……?」


 なるほど。この辺のいきさつは本当に悪役令嬢ルートに則ってるのね。その割にブロンくんが生まれたり、いろいろごっちゃになってるのはさておき。

 ……でもまあ、そうなると、お嬢さまとネアスをくっつけるにあたり、殿下とお嬢さまがラブラブとゆー障害は一つ排除されることに……なるのか?なんかお嬢さまが気の毒なことになってんだけど。皇帝位の継承順の低い第三皇子と、帝国屈指の実力がある貴族家の長女を娶せよう、なんてあからさまに政略結婚だもんなー。


 「……で、どうなのだ?」


 ただねー…わたしにこんなことを尋ねてくる殿下ってのも、これまた歳相応に世慣れない様子もあって、それだけじゃない、って気もするのよね。わたしこー見えて、人生経験豊富なので。世捨て竜を数百年やってますし。


 『いや、殿下が気にするよーなこっちゃないでしょ。言うたらなんですけど、帝国とブリガーナ伯爵家の繋がりのためのご婚約でしょ?殿下の方から破棄したりしない限り、ふつーにご成婚、てことになるのでは?』

 「無論、政治の領域に踏み込んだ話であることは分かっている。だがそれだけに、アイナハッフェが気の毒でもあるのだよ、俺は。時折、他に思い人でもいるのではないか、と思える節もあるしな」


 ぎくり。

 …いや、ぎくりとするよーな心当たりがあるのか、ってーと別に無いんだけど、パレットに言われたこともあるしなあ。

 でもわたしとしては、それもあるけどそんな気遣い出来る殿下のことも心配なんだけどね。


 『それを言うなら殿下こそどーなんです?ご留学中になんぞ良いお嬢さんと浮名を流したりしたんじゃないですか?』

 「失礼なことを言うな、馬鹿者。婚約者のいる身でそのような真似が出来るわけがないだろう」


 ですよねー。乙女ゲーの攻略対象ですもん、ってこととは別にこの人はそんな器用なこと出来る人じゃないし。


 「正直に言うのも面映ゆいが、俺はアイナハッフェのことは帝室と伯爵家の間で約したこととは関わりなく好ましく思っている。彼女の方で厭う理由が無いのであれば、今の関係は望ましいのだがな」


 増して、無自覚に照れながらこんなことを言われて、好意的になるなってのも無理な話ってもんでしょ。


 「……なにが可笑しい」

 『いえ、殿下にも男の子っぽいところがあっていーなー、と思ってました』

 「生意気だぞ、アイナのペットの分際で」

 『もしかしてお嬢さまのことを「アイナ」って呼んだの初めてですか?』

 「貴様、重ね重ね無礼だぞ!」


 あははーと笑いながら、わたしを捕まえようという殿下の手を逃れて、梯子口から出て行くわたし。

 まあ「思い出の卵」とやらがどんな働きをしてるのかはまだよく分かんないけど、お嬢さまとネアスを取り巻く人たちの中に、わたしがキライじゃない人が増えたのは悪いことじゃないなー、と素直に思うのだった。

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