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第42話・光と闇の校外実習 その6

 『お嬢さまー、着きましたよー』

 「こんんんんの……おバカっっっ!!」

 『あいたぁっ?!』


 ……うーん、前回と同じ出だしになるとはわたしもお嬢さまも進歩がない。勢いにおいて明らかに上回ってるけど。


 「何を考えているんですのあなたはっ!」


 お嬢さまそれ二回目ー、と思いつつも肩を掴んで前後にがっくんがっくん揺さぶってくるお嬢さまの為すがままにされるわたし。


 「お、おち、落ちて死ぬかと思いましたわよっ!飛ぶにしてもあの勢いでかっ飛んで行くのならあらかじめ知らせておきなさいっ!!」

 『あのー、知らせておいたら喜んでくれるんですか?』

 「喜ぶわけないでしょうっ!あなたをぶつ力を多少抜くくらいのものですわよっ!!……いたたた…」


 と、わたしの石頭(自分で言うのもなんだけど)をどついた右手の甲を撫でさするお嬢さまだった。あー、痛そう。


 「アイナハッフェ、それよりこれからどうするんだ?」


 そういえばあなたもいたんでしたっけ、のバナードが至極真っ当な提議。そうねー、いくらなんでもお嬢さま乗せてバナードぶら下げてとかは無理だろうし。


 「……そうですわね、ここで助けを待つのが良いとは思うのですけれど。コルセア、先生方はどうされておりました?」

 『あー、お嬢さまたちが戻ってこないのでそろそろ騒ぎ初めてたトコでしたけど。ネアスが一番慌ててましたね、そういえば』

 「……そう。それならここで待ちましょうか」


 暗い中、わたしの口の先に灯される火に照らされたお嬢さまの横顔は…。


 『お嬢さま、もしかして嬉しい?ネアスに心配されて』

 「なっ……そ、そんなわけないでしょうっ?!知りませんわよあんな下賎の娘のことなど!……なんですの、にやにやして」

 『してませぇん。ネアスに心配されてちょっとほくほくしてるとか思ってませぇん』

 「コルセアっ!」


 あはははー。なんか、今世ではお嬢さまは悪役令嬢してるんじゃないか、って危惧してたのよね、わたしは。

 でも、四周目が始まってここまで。お嬢さまは、やっぱり根の所では三周目で長い時間を一緒に過ごしたお嬢さまのまんまだ。

 これからどうなるのかなんて分からないし安心も出来ないけれど、やれることをやって、わたしの大切な親友が二人とも幸せにしたい、って思う。


 「コルセアーっ!降りてきなさい今の発言の訂正を求めますっ!!」

 『お嬢さまー、照れ隠しはみっともないですよー』

 「コルセアーっっっ!!」


 お嬢さまの手の届かないところまで舞い上がって、わたしは尻尾をふりふりしながら尾根伝いの山道を望む。まだ遠くにだけれど、松明やランプの明かりが見えて、どうやら助けが向かってるみたいだ。

 ……そうだ。ここでじっとして救助を待つっていうのも、あまりみっともいい真似じゃない。

 わたしは憤慨してるお嬢さまから逃れるようにして高度を下げると、体を起こして座っているバナードの隣に降りて言った。


 『ね、バナード。ここで助けに来てもらっても実習としてはかっこつかないと思わない?』

 「……何が言いたいんだ?」

 『少しでも自力で下山した方が、良くない?』

 「………」


 黙り込んでしまった。

 まー、バナードは本質的に熱血バカだし、何かと目の敵にしてるお嬢さまのペットに煽られてどう思うかなんて想像も出来ないけれど、男の子なら多少は意地を見せるべきなんじゃない?


 「……そうだな。立ち上がれるかどうか分かんねーけど……」


 っていうわたしの本意が伝わったのか、ケガをした脚を庇うようにして立とうとする。


 「ちょ、ちょっと。無理しない方がよろしいのではなくて?」

 「いいよ。少しくらい無理した方が実習らしいだろ?わり、手貸してくれ」

 「……まああなたがそう言うのなら構いませんけれど。ただ高くつきますわよ?」

 「ほどほどに頼むよ。俺、お前の家みたいに金無いからさ」

 「そういう意味ではありませんわ。一つ貸しにしておきますわよ、という意味です」

 「はは、ありがとな」


 平民の憎まれ口をお嬢さまは特に気にもせず、お嬢さまは割合がっしりしたバナードを支えて立ち上がらせる。さっき引っ張り上げて思ったけれど、筋肉はちゃんとついてるから重いのよねー。


 「ほら、これで歩けますか?」

 「ああ、なんとか。行こうか」

 「ええ」


 お嬢さまが手当をした脚を間にして、二人は歩き始める。

 わたしはそれに手を貸さず、提灯代わりに先をふよふよと先導する。

 しばらくそうして歩いていると、先の方から賑やかに二人を呼ぶ声が聞こえてきた。その中にネアスの声が一際大きく、お嬢さまとバナードと、それからわたしの名前を呼ぶのを耳にして、わたしは一生懸命歩いていた二人に振り返った。


 「………(ぷい)」

 「………はは」


 助かった、という顔のバナードと、わたしが何を言いたいのか察してかそっぽを向くお嬢さま。その対照的な二人の顔が、ネアスを先頭にして向かってきた助けの人たちに「何があったのか」と怪訝な視線を向けられるのには……もうちょっと時間がかかったりした。

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