表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/236

第39話・光と闇の校外実習 その3

 まあ手伝いと言ったって、空を飛べることを利用して山中に入ってる子たちの様子を見るくらいしか出来ないんだけど。

 その代わり、役に立ってくれた、ってことで先生たちのお弁当を分けてもらったりした。新婚さんの先生の愛妻弁当を半分一口でいった時は大ウケしたものだけど、後で考えたらその先生涙目になってたなあ……僅かに反省。


 「コルセアさーん、そろそろ戻って来ますから姿が見えたら知らせてくださーい!」

 『もお見えましたよー。二組こっちに向かってまーす』


 下から怒鳴ってるバスカール先生に、早速見つけたことを報告。

 んー、先頭は初等学校からいるどっかの貴族のコと、民間から編入してきたコだ。どっちも男の子で互いを気遣う様子が見える。腐った妄想?わたしそっちはあんまり馴染みないからなあ。

 で、そっちから少し離れて……えーと、こっちは編入生の男女か。付かず離れず、って距離を保ちつつも男の子の方は女の子を気にしてる。ふふふ、なかなか初々しくていーじゃなぁい。わたし的にはこーゆーシチュの方がお好みよ。

 ……っていうか今気がついたんだけど、これって男女が二人で困難を乗り越えてあーだこーだって展開になるんじゃないのかしら。流石に先生たちがそんな下世話な発想してるとは思わないけど、お嬢さまのことが気になる。

 ほら、バナードも一応は乙女ゲーの攻略対象なんだし、お嬢さまが変な気を起こしたりしやしないだろうか。歴とした婚約者もいるんだから滅多なことは無いだろーけど、でもでも紐パン女神のタスクのことを考えるとー……。


 「コルセアさん、唸ってどうしました?何か問題が?」


 腕組みして考えこんでいたらいつの間にか高度が下がっていた。なのですぐ隣にバスカール先生の声。びっくりして思わず飛び退く。空中で。


 「……器用な真似をしますねぇ」


 感心されてしまった。あいや、それはともかく。


 『せんせぇ、少し下世話な話になりますけどー、こーゆー授業で男の子と女の子が仲良くなったりってするものなんです?恋愛的な意味で』

 「暗素界の紅竜がうなり声あげてする悩みにしては随分世俗的ですね。言っておきますが、教師の側がそんなこと考えて組み合わせすると思いますか?」

 『まあしないでしょーね』

 「あなたのご主人様の心配は分かりますけれどね、帝国皇子の婚約者に妙な懸想をするような非常識な学生などおりませんよ。安心してください」


 見透かされてた。わたし、そんなに分かりやすいんだろうか。


 「今のところ問題が起こってるという報告はありませんし、もうしばらく空から出迎えの方をお願いしますよ。どうも曇ってきましたし、暗くなるのが早まりそうです」

 『はいはい』


 暗くなるくらいならまだしも、雨とか降ってきたらヤだなあ。

 鼻をひくつかせると、確かに天気が崩れる兆候があった。まあ最初のペアがゴール地点に姿を見せたし、これからずんずん戻ってくるでしょ。




 『ねー、本当にさっきの二人が最後に出発した組なんですよねー?!』


 我ながらイライラしてるのが分かる調子で怒鳴る。

 わたしの声は、音として聞こえるのでなくて暗素界から発せられた言葉が気界を通ることで声として人間に届くものだから、こういう風に感情が不安定な時はダイレクトにそれが伝わってしまうものらしく、そのはずなんですが…、というバスカール先生の戸惑い気味の反応がそれを如実に示していた。

 そしてわたしがイラついているのには理由がある。ポツリポツリと雨粒が降ってくる頃になってもお嬢さまが戻ってこないからだ。


 「コルセアーっ、アイナ様捜しに行こうっ!」


 お嬢さまの後から出発したネアスが、責任を感じたように深刻な声で遠くを見てるわたしに声をかける。地上から。

 わたしは今までよりもよっぽど高く浮き上がって、今のところお嬢さまとバナード以外全員辿ってきてる道をじっと見つめていた。


 「……コルセアー!」


 ネアスの呼び声がだんだん悲痛になってきた。

 出発するとき、お嬢さまのことを気をつけてあげて、ってわたしが頼んだのに、お嬢さまたちに気付かず追い越して先に戻ってきてしまったことを気に病んでるみたいだ。余計なこと言うんじゃなかった…。


 「コル…」

 『バスカールせんせー!わたしちょっくらひとっ飛びして探してきますー!』


 何だか泣きそうな声になってきたネアスを見てられなくて、わたしはとにかく動き出すことにする。

 この現界に怖いものなしの紅竜が、お嬢さまのピンチに手をこまねいているなんてこと、出来るわけが無い。


 「ちょっと待ってください!まだ道中に立ってる先生方が戻ってきてな…」

 『そんなの待ってられませんっ!ネアス、わたしが戻ってくる前にお嬢さま帰ってきたら、濡れた髪を拭いてあげてねっ!』

 「え……う、うん分かった!まかせて!」


 もう暗くなりかけているから、ネアスの表情は分からない。

 けど、自分のせいで…って考えている子にはやれることを与えるのが一番だ。多分、今度は、って思って少しは元気になった声を背に、まだ戻って来てない生徒がいると分かってザワつき始めた集合場所を後にした。


 『バナード、お嬢さまにケガとかさせてたら……タダじゃおかないんだからっ!』


 悪役令嬢の忠実なペットドラゴンは……久しぶりに本気出す!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ