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第24話・幼馴染みで親友だけど、なんでこんなに差がついたんだろう?

 バッフェル殿下が、初等学校を卒業された。

 例年通り、卒業式というものはそれほど華やかなものではなくて、当事者だけが集められて皇帝陛下の代理が訓令を下し、それで終わりっていうものでしかない。

 でもまあ、個人的にはいろんな出来事がそれについて回るものなので、ウチのお嬢さまにとってもそれは例外じゃなかったりする。


 「そんな…殿下、わたくしをおいてそのような遠くに…?どうして…」

 「どうか止めないで欲しい、アイナハッフェ。俺は俺の目指す者になるため、この道を歩まねばならないと決めたのだ」

 「でしたらどうかわたくしも連れていってください!」

 「それは出来ない。あなたが優しい分、俺はあなたに甘えてしまうのだ。それは俺とあなたの望む姿ではあるまい。だからどうか待っていて欲しいのだ」

 「殿下……」


 ……十一歳児と十二歳児の愁嘆場ってどの層に需要があるんでしょうかね?少なくとも居合わせたわたしの趣味とはちょっと違うんですけど。と、こっちの存在なんか完全に忘れてる二人を前に、後ろ足で耳元をカイカイするわたし。


 予定通りと言えば予定通り、卒業の儀を終えた殿下はその足でブリガーナ伯爵家を訪れ、以前わたしに言った通り自分の言葉で我が進路を告げていたのだった。

 ちなみに同席者、わたしオンリー。

 伯爵家の人々は殿下の願いで遠ざけられており、だからなんでわたしが同席しなけりゃならないのよー。もー、さっきからかゆくてしょーがないんですがー。


 「ではまた会おう、アイナハッフェ。そして次に会う時は、互いに見違えるようになった姿を見せ合おう」

 「……はい…はい、殿下。わたくしも…殿下の婚約者の名に恥じぬわたくしになることを、誓います…」

 「……アイナハッフェ…いや、アイナ。これからは、そう呼ばせて欲しい…」

 「っ!……はい、殿下…わたくしは、殿下にその名で呼ばれることを、誇りに思います……」

 『あのー、もういいですか?いい加減お二人ともわたしがいることを思い出してほしーんですけどー』


 そろそろ抱き合う場面かなー、と思ったところで口を挟んだ。も、限界。


 「なんだ、コルセア。嫉妬か?」

 『なんでわたしが殿下に嫉妬しなけりゃならないんですか。わたしお嬢さまがおしめしてる頃から知ってるんですよ?今更殿下に嫉妬する理由なんかありませんて』

 「何よ、張り合う時点で嫉妬してることになるじゃないの、コルセア」


 ていうか流石におしめの頃は知りません。あくまでも、言葉の綾。


 『まあいいです。そろそろお部屋の外で聞き耳たてておられる伯爵さまもガマンの限界でしょーし』


 扉の外で誰かがずっこける音がした。人はいいし爵位や財産を鼻にかけない好人物だけど、こと娘のことになると三枚目になる伯爵さまご本人だろうなー。


 まあそんなわけで、数日後殿下は旅だっていかれた。

 次に会うのは本編であるところの高等部入学の時だろう。お嬢さまとネアスが入学すると同時に帰って来る予定だ。ゲームのシナリオ的には。




 「そう……それはとてもさみしいことになるね」

 『でもねー、お嬢さまの方は殿下に思われていることが嬉しかったみたいよ?』


 殿下がお帰りになった後で散々惚気られたもの、と言ったら、「のろける」の意味がよく分からなかったのか、ネアスはきょとんとしていた。説明してあげたら、ネアスにしては珍しく転げ回るように笑っていたけれど。

 その次の日である今日、お嬢さまは殿下からお食事に誘われ嬉々として出かけていった。置いてきぼりをくった形のわたしは、じゃあネアスとデートでもしよーか、と職人街のトリーネ家にやってきて、ネアスのお部屋で少し早めのおやつタイムとしゃれ込んでいる。

 ネアスのお父さんはめっぽう腕の良い触媒の職人だけれど、お母さんの方もこれまた評判の菓子職人なのである。そのためネアスのお菓子への舌の肥えっぷりも結構なもので、そこらのお菓子なぞ歯牙にもかけないものだから、かえって太らずスリム体型を幼い頃からキープできてる、というわけだ。

 ちなみにお父さんがブリガーナ伯爵家のお抱えになって以降、お母さんが働いているお店の方も伯爵家にお菓子を納めるようになり、一家揃ってブリガーナ家との縁は深い。


 「……あー、おかしい…アイナ様も近ごろますますお可愛らしいから、殿下もすっかりぞっこんなのね。アイナ様のために留学を取りやめる、なんてことにならなくてよかったわ!」

 『あのお堅い殿下が、いくらお嬢さまのためでも一度決めたことを覆すなんて無いと思うけどねー。あ、それよりネアスの方はどうなのよ。バナードとはよく会ってるんでしょ?』

 「バナードくん?うん、会う度に新しい術を見せてくれるから、すごいね!わたしも負けてられないな、って言ったら喜んでいたよ?」

 『あー、うん。それはいいことだと思うよ。うん』

 「どうしたの?コルセア。なんだか微妙な笑い方になってるよ?」


 トカゲの微妙な笑顔が分かるネアスもどうなのよ。

 ていうか、バナードの方は多分、ネアスにいいところを見せたいんだろうけど、肝心のネアスにそーゆー機微が全くと言っていいほど、ナイ。流石乙女ゲーの主人公、って言いたくなるくらいの鈍感っぷりだ。ま、それがネアスの可愛いところでもあるんだけど。

 …そこんとこどーなのかなー、と思って探りを入れてみる。最早お見合いおばさんの称号を辞しもしないわたしなのである。

 単なる野次馬じゃないのか、って?うっせーわよ、わたしはこれでもちゃんとお嬢さまとネアスのためにやってんの!

 ま、それはともかく。


 『えーとね、ネアス。バナードのことかっこいいとかって、思う?』

 「え?うん、かっこいいと思うよ?」

 『どんなとこが?』

 「どんなとこ、と言われても……うーん」


 自室の机用の椅子に座りながら腕組みで頭を右に左に傾げてる。

 ダメだこりゃ。もーちょっと乙女らしい反応とかが見られれば脈ありかなー、とも思えるんだけど、そもそもネアスにまだそんな感情が無いんだろうね。

 まあでも、水が一滴ずつでしか貯まってはいかないとしても、それでもいつしか満杯に器を見たし、そして溢れたらそれは止められなくもなるものだからね。今はそーいうのでもいいから、バナードはネアスの好感度をしっかり稼いでおくといいよ。

 ……と、再びの生暖かい笑顔でネアスを眺めているうちに、何か思いついたのか明るい表情になって人差し指を立てると、世紀の大発見をわたしに披露してくれる。


 「あ、そういえばこのあいだの合同実習でね、給食が出たんだけれど、バナードくん、わたしの嫌いなピーマンを残したのがバレないように食べてくれたところがかっこよかったよ!」


 そうじゃねーだろ!ていうか同級生の女の子の食べ残しをかっさらうとか何考えてんだあのガキ!

 ダメ!ネアスには似合わない!つーかむしろ少女の敵!


 「え?あ、ちょっとコルセア。急に怖い顔になってどしたの?」


 すぐに飛び出していってエロガキ退治にいこーとしたわたしだったけど、ちょうど部屋にやってきたお母さんの手作りおやつに引き留められて、それはかなわなかった。まあ甘いものでお腹もくちくなればドラゴンの怒りなんて容易に霧散するものよね!

 世界で竜の災禍に悩む人々よ。覚えておくがいい。怒りに震えるドラゴンには、甘いものを献上するのだ!




 そして、お嬢さまとネアスは最上級生に進級する。

 お嬢さまは校内で信望を集め、殿下の後を継いで生徒会長に就任。

 ネアスも、体育大会の後はその実力を認められて、貴族のお子さまたちにも一目置かれる存在になった。

 二人は誰もが羨む親友同士。うん、何も問題ない。「ラインファメルの乙女たち」の親友ルートをも遥かに超える、仲の良さだ。これなら一周目、二周目に見せられたような悲劇の再現にはきっとなるまい。順調、順調。

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