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第219話・帝都の空駆ける竜(がいしゅういっしょくとはこのことかっ)

 「んしょ、と。コルセアちゃーん!いいわよー!」


 なんかぼーぜんとしてる兄ちゃんおっさんたちが見守る中、わたしはパレットのケツを指先で押し上げつつ、頭の角と角の間のポジションに押し込んだ。いわゆる龍の子太郎ポジ、というやつだ……って、そんなこといわゆらんか。


 『はいはい、あんたドジでどんくせーんだから、そこにしがみついて落ちないよーにすんのよ』


 だれがどんくさいのよっ、と暴れて早速落っこちかけてるパレットを再度押し上げていると、某国共産党の書記長に相変わらずよく似てるヒゲ男爵が喚きだしていた。


 「き、ききーっ、きききき………」

 『はい、貴様さまのコルセアちゃんですよ。話進まないからこっちの要求だけ話すわね。陛下を返せ。以上』

 「何を言うかっ!!陛下なくば我が野望は水泡に帰す……でなくて、我々は陛下を暴虐なる帝権の横暴よりお救い申し上げたのだ!ブリガーナの手先に過ぎない哀れな畜生にこの高邁なる目的の何がわきゃりょ……分かろうかっ!!」

 『もーちょっとくらい本音隠した方がいいと思うんだけど。でもま、いちおーそーゆー建前があるってんなら、わたしとしても遠慮は必要ないわねー』

 「なんだと?」


 周囲を見回す。簡単に見つかった。やるわね。

 そして位置と距離を確認……ふむ、問題ないか。

 一安心して、ヒゲ男爵に向き直る。


 『陛下を人質にとるよーなケチな真似はしなさそう、ってことよ!安心して暴れられるわっ!!』


 パレットに、しっかり掴まってなさい、と言うや否や、わたしは大きく羽ばたいて上空に舞い上がる。正直羽ばたく必要が無いのは今も変わりないしただの演出に過ぎないけれど、今はサイズがサイズだから、ハッタリとしてもめちゃくちゃに効果があるのだ。


 「くそーッ!あのバカトカゲを撃ち落とせいっ!!」


 真っ赤な顔の書記長モドキが指示を出すけれど、だぁれも言うことを聞いたりしない。みんな、ぼーぜんとわたしを見上げているだけだ。


 「陣形、攻勢三号!整列!」


 ところが一人だけハッキリした指示をする声が聞こえた。

 見ると、ヒゲ男爵が気絶していた間に指揮をしていた士官っぽいヤツだった。あんときゃかなり感情的になってた気もするけど、上司があんまりアレだったので冷静さを取り戻したのか。


 「構えー、良し!砲術、準備!」


 本来理力兵団は、個人の資質や技倆に左右される砲撃効果を平坦化して扱いやすくすることを目的に、こうして集団で運用するのだ。

 だから指揮官の指示に整然と従って自前の砲術を操る訓練ばかりしていて、そのことに長けている。

 士官の指揮で我に返り、即座に指示に従うあたりなんかはその片鱗が伺えて、敵ながら天晴れと思うわけなんだけれど。


 「狙え!上空の………赤いクソトカゲだ貴様らッ!!」


 ……最後の最後でそれやっちゃあ全部台なしでしょーが。ったく。

 杖だとか筒状の竿だとか、あるいは砲術で顕した槍や矢をつがえた弓だとか、とにかく「攻撃」的な得物を一斉にこちらに向けている様は、はっきりいってカッコ悪い。

 わたしが理力兵団大嫌いなのは、エリート風吹かすとこもなんだけど組織砲撃するときの様子がもう、不揃いで見てらんないからなのよー。

 やっぱり対気砲術は個人の技術。ネアスみたいに、才のほとばしる様を見せてこそ、華ってもんよね……いやゲームの中とか記憶にある限り他のループの時は主人公らしく大活躍してたのよっ。お嬢さまと勝負してお嬢さまが一方的に負けて、「こ、こんなはずでは……」とぷるぷるしてた時のお嬢さま、割とかーいかった……じゃなくて。


 「ねえどうするのよっ?!」

 『どーするもこーするも、好きにさせたらいいんじゃない?』

 「マジ?」


 「撃て────────ッッッ!!」


 号令一閃。ここだけはカッコ良かった。いやマジで。

 殺到する様々なアレやコレや。剣とか斧とかただの棒とか砲丸みたいな丸い玉とかただの棒とか槍とかただの棒とか矢とかただの棒……って、ただの棒が多くないか?

 それはいいけど、とにかく殺傷力のありそーなモンが、ギラギラ光りながらこちら目がけて殺到してくるのだ。分かっていたってパレットも「ひっ?!」とか悲鳴をあげて縮こまろうってものよ。ちょっとかわいいな、こいつ。


 「冗談言ってる場合かーっ!!」

 『はいはい、分かってるって。ていっ』


 せめて何かしてやんないと、地上の連中も何が起こったか分かるまい、と尻尾を一閃。愛らしいブリガーナ家のアイドルドラゴン、コルセアちゃんには似つかわしくないごっつくぶっとい尻尾だけれど、その分迫力だけは十分。

 振り回した尻尾はまるで台所洗剤のコマーシャルのように、接近していた砲術の攻撃をキレイさっぱり拭い取っていた。いくらか掻き消えなかったものはあらぬ方向に飛んでって、わたしの背後のどっか遠くで爆発してた。爆竹みたいに、ぱぁん、って。


 「わーい!コルセアちゃんつよーい!!」

 『うはははは!どうよ、あんたらが信奉してきた力なんて、暗素界の竜の前ではこの程度のもんだってーのよっ!』

 「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」


 テンプレな歯噛みをしてるのは砲撃を指揮した士官じゃなくて、そのボスのヒゲ男爵。あんた何もしてないのにいっちょまえに悔しがってんじゃないってのよ、と、そちらを睥睨して鼻で笑うわたし。ちゃんと伝わったのか、これまた絵に描いたような地団駄を踏んでいた。


 『さぁて、これであんたたちがわたしに逆らったって勝ち目は無いって身に染みたでしょ?じゃあ大人しく陛下を返してもらいましょーか。今なら陛下にお願いしてあんたたちも国外追放の上ハリツケ首ちょんぱくらいで許してあげるわよー』

 「コルセアちゃん、それ全然許してないよね?」

 『たりめーよ。許すつもりなんかこちらにはミリもねーっての!人生は短いってーのにこのわたしの数少ない美食の機会を奪いやがって!出来ることならカルダナのアホどもと遊んでいた間に食べ逃したシクロ肉の代わりにコイツらを美味しくいただきたところよっ!!』


 「お、おい!貴様ら逃げるなーっ!!」


 あれ?

 なんか、喚いていたらヒゲ男爵だけを残し、術兵はもとよりそれを指揮してた士官まで蜘蛛の子を散らすよーに逃げだしていた。だぁれも師団長たるヒゲ男爵のことなんか気にする風もなく。


 「……コルセアちゃんの、食ってやる、が効いたみたいね」

 『食ってやる、とは言ってないわよ。美味しくいただきたい、ってゆっただけで』

 「一緒でしょーが、それ」

 『一緒じゃねーわよ。どうせ煮ても焼いても美味くないだろーからせめて美味しく食べてあげたい、って言ってるだけで』

 「コルセアちゃんとは一度言葉の往来について慎重に議論を重ねたいトコよねー。で、どうするの?追い込みかけて全部食べちゃう?」

 『冗談でしょ。食べたって美味かないわよ、あんなの』


 まるで食べたことがあるみたいね、と若干ドン引きしてるパレットを頭の上に乗せながら、ヒゲ男爵のもとに降下。あんにゃろ、二度目のお漏らしして腰を抜かしておった。流石に気の毒にはなる。


 「ききききき………」

 『はいはい、貴様さまのコルセアちゃんですよ、ってこのやりとりはもーええっちゅーねん。ほら、あんたのお強い部下はみぃんな逃げちゃったんだけど。あんたはどーする?首ちょんぱ?生きたまま食べられる?生焼け?ウェルダン?それとも上空から落としてあげようか?人生の最後にお空の散歩、っていうのもなかなか乙だと思うけど………って、あ』

 「あ~あ。気の弱いひとをそう追い詰めるもんじゃないわよ、コルセアちゃん……」


 とうとうヒゲ男爵は気を失ってしまった。なんか後頭部から落っこちておっきな音をたててたけれど、大丈夫かしら。


 「……まあこれで一件落着……じゃないのか。こーてーへーかを見つけて助け出せばいいのよね?」

 『あ、そっちはもう済んでる』

 「はい?」

 『さっき狼煙が上がってた。先に忍び込んでたアイラッドが助け出してくれたみたい。合流しましょ。それで陛下連れて帰れば全部解決よん』

 「いつの間に……あたしを騙したの?」


 いつの間に、も、騙したも何も最初っからそーゆー段取りだったっつーの。あんたが勝手ぶっこいてこんなところに忍び込んでいたから話がややこしくなったんでしょーが、と、口を尖らせたら(言うて竜のクチなんか最初から突き出てるケド)、パレットは「あ、うそうそごめん。ありがとね助けに来てくれて」とわたしの機嫌をとるよーに、でっかい角をなでなでしていた。お嬢さまやネアスとは違うけど、こーゆーところはまあ、割とかわいいと思わないでもない。


 『さて、アイラッドのやつ、こっちがある程度片付いたと分かったら居場所を知らせろって言ってあったけど……どこだろ……ん?』

 「ねえ、コルセアちゃん。なんか騒がしくない?」


 ヒゲ男爵を手に載せて伸び上がると、確かにパレットの言う通りに人の集団が騒ぐような音が聞こえてきた。怒号とか雄叫びとか、そーいった類のもの……いや、なんか武器を打ち鳴らしてる音とかもしてないか?


 『逃げてった連中とそうでな連中の内輪もめ……ってわけでもなさそうね。なんだろ』

 「とりあえず上から見てみましょ」

 『そうね、ってあんた自分で飛べるでしょーが。いつまでもわたしの頭に乗っかってないで自分で飛びなさい』

 「やぁよ。ここほっこりして居心地いーもん!」


 爬虫類の親戚みたいな竜の肌がほっこりって言ってもねえ……まあ恒温動物であることだけは確かだけどさ。

 意地でも降りてなんかやんねー、って気配を醸しだしてるパレットを、仕方ないので頭に乗せたまま浮き上がる。幸いにヒゲ男爵はまだ気絶してるから大人しいものだ。願わくば当分そのままでいて欲しい。上空でいきなり目が覚めたら落っこちちゃう。落ちても助ける気ねーし。


 「んー、なんか麓側の方に煙が上がってるわね」

 『山の方も似たようなもんだわ……って、ちょっと、なんかここ外から攻め込まれてない?』

 「……麓の方もなんか人が集まってるわねー。あれ、四裔の人たちじゃない?」


 山側はなんか第三師団と似た装いの、見た目キレイな集団だ。旗印を見ると……第一師団っ?!


 「ね、ねえ、四裔の人と第一師団が同時に攻め込むとかいう手はず……だったの?」

 『んなわけあるかっ!こんなボロい城わたし一人でじゅーぶんよ……ってことは、あ、あいつらぁぁぁぁぁぁ………』


 現状をどっかから聞きこんだ四裔兵団と第一師団が、手柄の立て処とばかりに介入してきた。そーいうことなのだろう。

 あーもー!いきなりめんどくさくなってきやがったっっっ!!

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