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第218話・帝都の空駆ける竜(悲劇!パレットよ、永遠に!!)

 「怯むなーッ!相手はたかだが巨大なトカゲに過ぎん!」


 わたしが火球をぶちかまして何やかんやあり、落っこちてった後もそこに留まっていたのは多分大半が第二師団の正規の術兵だったと思う。それ以外の寄せ集めっぽいのや術兵以外の一般兵士は、火事を消すのに追われるか、算を乱して逃げ去っていたから。

 だから、第二師団でもそこそこエラい方に入ると思われる士官だか指揮官だかの指示を聞いて律儀にわたしに砲術ぶっ放してきたのは、紛う方無き第二師団の精鋭。こんなアホな出来事がなければ、あるいは帝国の未来を担うエリートと目されていたことだろう。

 でもさ、あんたたちは誤ったんだよ。

 その力があれば帝国どころか周辺各国とそこに住む人たちの人生を、思うがままに操れるって勘違いしてしまったんだよ。

 あるいは、そう考えたバカに唆されただけかもしれない。でも、途中で降りる機会はまだあったんだ。

 だから、そうしなかった報いくらいは受けてもらうよ。


 「撃てーッ!撃てー!!反撃する暇など与えるな!……いいぞ、その調子だ!」


 当たる直前に、砲術そのものが無効化されていることにも気がつかないんだから、いい気なものよね。段々自分に酔ってきてるのが目に見えて、正直興醒めだわ、と、欠伸をかみ殺しながら、ふわりと浮き上がる。そしたら、どうもそれが下の連中には逃げだそうとしているように見えたらしい。


 「これぞ機だ!逃がすな、撃ち落とせぇっ!!あの忌々しいクソトカゲに、文明というものの味を教えてやれーッ!!」


 文明?カステラなら最近食べてないわねー。あー、なんか人間やってる時は特に好きでもなかったけれど、食べられないとなるとなんか懐かしいわー。パレットに頼めば出してくれるかしら。あ、そういえばあいつのこと忘れてたわ。ついでとはいえ、ちゃんと助けておかないと、と飛ぼうとしたのをやめて着地。えーと、どこにいったんだっけ。この体、おっきくて見栄えはいいけど小回りが利かないのよねー。やっぱりあの愛らしいコルセアちゃんはお嬢さまとネアスの抱きかかえられるくらいのサイズでないと。早くこのバカ騒ぎ終わらせて、もとの大きさに戻ろっと。


 「は、はは、ははははははッ!!どうだ見たか、大きいだけが取り柄の頭の回らぬトカゲ風情がッ!!


 ……うるっさいなあ。こっちは用事があるんだから、邪魔……ではないけど、鬱陶しいからほっといてよ。

 ええと、パレットは……と。ああいたいた。ああもうあの子相変わらずよねえ……こっちみてはしゃいでいるのはいいけど、そんなとこで走ったら転ぶわよ、って言った側から転けてるし。

 仕方ないわねー、こっちから拾い上げにいってやるか。


 ずしん、というか、のしり、というか、なんか乙女が動くにはちょっとアレなオノマトペと共にパレットに近付く。


 『ちょっとー、あんたどんくさいんだからジタバタしないで大人しくしてなさいってば』

 「そーいう言い方ないでしょっ?!それよりコルセアちゃん、いきなり変身しちゃったけど……大丈夫なの?」

 『んー、まあどんな姿になるのかなんて、昔に返るか先に進むかの違いでしかないしねえ。大丈夫でしょ。ほらそれより、さっきからチクチクと鬱陶しいからこっちに乗んなさいな。あとは陛下を助けて帰りましょ』

 「わかったー」


 まだ何か頼りない足取りのまま、パレットは立ち上がってこちらに寄ってくる。周囲は砲術の砲撃が飛び交ってえらいやかましいけれど、まあわたしが守ってるから大丈夫でしょ。

 大体こういう時って、パレットに砲術ばぴきゅんとかって当たって倒れて、そんでわたしに抱きしめながらヒロインが儚く微笑んで事切れ、ヒーローは怒りに溢れて敵を滅ぼす……ってのがお約束ってーもんだけど。


 いち。そんなもんわたしが予想してないと思う?ちゃあんと防御してるわよ!

 に。乙女ゲーの世界に転生してんのに、なんでヒロインじゃなくてヒーローなの、わたし。

 さん。ヒロイン?誰が?あのアホが?ギャグにしてもひどいわ……。


 以上により、そんな展開になりようがないのである。こんなところでそんな理不尽発揮させてたまるか。


 『ねえ?パレ……』


 ぱきゅん。


 え?


 それは、わたしが想像してた通りの光景だった。

 想像してた通りの音と共に、一筋の光弾が、無邪気にわたしに駆け寄ってきていたパレットの胸を貫き。


 「こるせあ……ちゃん?」


 自分に何が起こったのか気付かず、けれど思った通りに動かなくなった足でようやく何かが起きたことが分かって、それでもわたしの元にやって来ようとしていたパレットは。


 『え………え?パレット……?パレットーっ!!』


 差しのべたわたしの大きな手に倒れる。

 軽い。とても、軽い。だのに、わたしの手に横たわった体は、まだどんどん軽くなっていく……流れ出る血液が、その命の重みを一緒に奪っていくように。


 『ま……待って、待ってよ……こんな、こんなところでふざけたお約束なんか達成してどーすんのよ、あんた………起きて……ねえ、起きてよ……ばか、ばかぁっ!』

 「こるせあ……ちゃん……ごめ、んね……?」

 『ごめん、ごめんっ!!バカは、バカはわたしだよ……っ!こうなるって分かっていたのに、分かっていたのにっ!!』


 どんどんパレットの体は冷たく、体は軽くなっていく。

 周囲は砲術の喧噪もいつしか止み、わたしたちの一挙手一投足に注目しているようだった。

 でも、それが何だというのだ。

 わたしは、ゆっくりと奪われていくものの重みを認めざるを得ない。こうして、大きな手の中で一層小さく、重くなっていくものを見つめるしか出来ない……いや、せめて、せめて声をかけることだけは止めるまい。


 『パレット……パレットぉ……』

 「……あは……あたしのために、泣いて……くれるんだ、ね……うれしい…………ね、こるせあちゃん……・」

 『なに?なによぉ………』

 「あたし、あたしさ………こるせあちゃんの…いちばんに……なれた、かな……?あいなちゃんより……ねあすちゃんよりも…………いちばん、に……なれた……?」


 『いや、それはない』

 「なんでよっ!!」


 冷たく答えたわたしに、パレットは起き上がってムキになっていた。

 いやだってさー。お嬢さまがわたしの一番でなくなったらなんかわたしのアイデンティティ的にヤベー感じじゃん。ネアスだってわたしのお腹ぽんぽんする手管は一番だし。


 『だからあんたは永遠にわたしの三番手。よろしくて?』

 「いいわけあるかぁっ!うわーん、こんなに尽くしたのに捨てられたーっ!!」

 『人聞きの悪いこと言って泣き喚くなーっ!周囲のみなさんドン引きじゃないのっ!!』


 パレットはわたしの手の中から降りて、もう自分の足で立っていた。当たり前だけど、血が流れてた痕跡なんかどこにもない。

 故に、こんな声が上がるのも当然というものだ。


 「……お、おい…。今の、その娘とのやりとりは……一体なんだったのだ……?」


 震える指でパレットを指さし、こちらを見上げて震える声を上げたのは、ようやく我に返ったと思しきヒゲ男爵だ。あんた今まで何やってたの。下着乾いた?


 「余計なお世話だ!!いや待て、それより一体……何をしていた、お前達は……」


 なにと言われても。

 わたしはパレットを見下ろす。やつもこちらを見上げてニンマリしていた。

 人差し指をパレットに向けると、わたしの爪の先にパレットも手の平を当て、ハイタッチの態で揃って声を上げた。


 「『いえーい!大・成・功!!』」


 何をしていたって。そりゃあねえ、茶番に決まってるでしょ、茶番に。

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