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第22話・帝国初等学校大運動会 その5

 砲術競技も進行し、第四術者まで射撃が終わった。

 今のところ、初等学校が三〇一点。幼年学校が三〇七点。

 第一術者こそ上回ったけれど、それ以後は幼年学校側が全員得点を上回っていて、勝敗式ならもう負けが決まっているところだ。

 最初は盛り上がっていた初等学校の応援席も、次第に開く差に意気消沈していき、始まった頃とは応援の声量で逆転されてしまってた。

 わたしは応援団長として、これはイカンとはちまきを締め直し、第三術者が終わった時点で追加で装備した「団長」という腕章(例によってお嬢さまに「なによそれ」と呆れられた)にかけて、最終術者までに場を盛り上げるべく奮った…のだけれど。


 「火を吐くのはやめて下さいっ!」


 …と、バスカール先生に止められてしまったのだった。ちえー、大騒ぎになったんだからいーじゃん。


 「騒ぎになればいいというものでもないでしょう?何考えてるのよコルセアは」

 『シーンと静まりかえってるよりはよっぽどいいですよー。さて、いよいよ最終術者ですけど』

 「そうね。あなたが推してるのがあの子?四年生みたいだけれど」

 『ですよー。かっこいいでしょ?』

 「……殿下ほどではないわね」


 さり気なく惚気られてしまった。そんなところで顔を赤くするお嬢さま、萌えます。

 まあでも、「殿下ほどではない」にしても、見た目いー感じの男の子が術者として立つと、幼年学校の応援席はますます盛り上がりを見せていた。

 ここで妨害するよーに初等学校の応援席を煽るのは邪道なので、わたしはお嬢さまの隣にて大人しくしてることにする。

 しばらくそうしていると、幼年学校の応援は次第に鳴りを潜めてゆき、やがてしわぶき一つ聞こえない様相になった。

 それを待っていたかのように、バナードが触媒を手にした。弓の型の。

 触媒は自分が使いやすいものの形に加工されているから、あの弓の弦の部分が触媒として働くんだろう。使い果たしたら弦だけを交換でもするのかしら。


 「………」


 矢をつがえない弓を引き絞る。

 本編のイベントスチルで見た覚えがある姿だ。あのまま、集中して気界に働きかけているんだろう。

 初等学校と幼年学校のどちらの関係者も固唾を呑んで見守るうちに、ピクリともしない姿勢でいたバナードの右手の前に光の粒が灯る。

 それは見る見るうちに大きさを増してゆき、弦を引いていた指に重なるようにして光が形を持ち始める。

 やがて光る矢となり、用意が整った…と誰もが見た瞬間、弦を引いていた右手の指が僅かに揺れた。

 途端、矢は疾空の煌めきと共に放たれた。

 軌跡は本物の矢のそれとは明らかに違う。大気でブレもせず、放物線を描きもせず、ただ真っ直ぐに的を目指す。とんでもない速度で。

 あるいは放たれたと同時に達したとも思えるような極小の時間を経て、的は破砕されていた。

 おお、とかいった感嘆の呻きはどちらの席から聞こえたんだろうか。どっちでもおかしくはないか、って思ったら、隣のお嬢さまだった。普段からネアスの技を見慣れてるお嬢さまが感心するんだから、よっぽどのことなんだろうなあ。


 『どーです?』

 「……ええ、コルセアが褒めるだけのことはあるわね。でも…」

 『わたしたちの友だちだって、相当のもの、でしょー?』

 「もちろんよ」


 頷き合っているうちに、審判員の評定が出た。九十二点。ここまでで最高点だ。九十点台なんて、本職でもそうそう出せない数字なのに。

 もちろん、幼年学校の応戦席は大騒ぎになる。これでもう勝ったも同然だ。そう思っているんだろう。

 でもねー。


 「……ふふ。ネアス、楽しそうね」


 次の番のネアスは、離れた席から見ても不敵に微笑んでいるのが分かった。

 バナードに押しつけるようにして紹介したときの、慌てふためいていた様子なんかどこにも無い。


 ネアスは、産まれた時から身近に対気物理学があった。

 お父さんが触媒製作の職人だったこともあるけれど、自然に触媒と触れ合ううちに、()()することが出来るのが当たり前になっていた。

 あの子は、暗素界から産まれた竜を除けば最高の、気界の理解者だ。本当の天才、っていうのはネアスのことを指して言うんだろう。

 何かと引っ込み思案なところがあって、わたしやお嬢さまに掻き回されたりもするけれど、自分に出来ることが分かってしまえば、ああして何者にも臆しない強さを見せる。

 ……いやほんと、さっすが乙女ゲーの主人公ってものよねー。


 「どう見る?」

 「いや流石にもうダメだろうなあ…」


 得点を計算して、勝ち目は無いと諦めた初等学校の生徒たちがザワつく。

 ……だま


 「おだまりなさい!我が校最後の術者がこれから行うのよ!わたくしたちのすべきは、あの子が力を出し切れるように応援することではなくって?!」


 ……先にゆわれたー。お嬢さまー、それ応援団長のわたしの台詞なんですけどー。

 でも、立ち上がって熱弁を振るうお嬢さまは、我が飼い主ながら惚れ惚れとするよーな気風の良さだ。

 ならわたしのやることは、だ。


 『全員きりーつ!これより、ネアス・トリーネと帝国初等学校の勝利を願いー、三三七拍子を行うー!』

 「……それ、やっぱりやるの?コルセア」


 なんでか知らないけど、お嬢さまには三三七拍子はウケが悪いみたいなのだった。なんでよー。

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