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第216話・帝都の空駆ける竜(コルセアちゃんおおあばれ)

 わたしが全力出せばスピードも加速もロケットと同じくらいはいけるんじゃないだろうか、って気がする。実は、もしかして宇宙まで出られたりして、と上昇限界を試したことがあって、地平線が丸く見えるよーになった頃呼吸が苦しくなった「気がした」ので途中で諦めたけれど。

 ただそれも、以前の周回の時に成長した姿になった時の話だから、幼生体からちょっと成長したくらいの今の姿でそれは無理な話だ。それでも車よりはよっぽど速い速度で飛ぶことは可能だ。

 故に。


 『どぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっっっ!!』


 と、ドップラー効果を残しながら飛び込んだ城の上空で、大きく息を吸って一発ぶっ放すまでの間、わたしを遮るものは何一つ無かったのだった。

 もちろん人的被害を鑑みて全力なんか出しやしない。それでも触れたらヤケドでは済まない火球がボロ城の中庭に炸裂する。轟音と共に飛び散った火の中にはまだ十分な威力を残したものもあって、そのうちの一つが中庭に放置されていた廃屋の壁に飛び火した。

 運の悪い奴ってのはいるもので、屋根が機能しているかも怪しいその建物に中で何事かしていたのがいるみたいで、慌てて飛び出してきたソイツは火を消すための水を探しにいく……かと思いきや、なんか悲鳴を上げて逃げ出していった。

 見ると師団の正規兵じゃなくて寄せ集めの術兵っぽい。ふん、こんなもんか。


 「空からの攻撃だ!あそこにいるぞーッ!!」


 おっとっと。流石対気砲術の術兵。空から攻撃されるという発想がすぐに出てわたしを見つけるとはなかなか良い判断だわ。しかも身なりや得物からするとさっき逃げてった寄せ集めじゃなく、歴とした第二師団の術兵らしい。

 ふん、おあつらえ向きよ、とわたしが傲然と胸を反らす。見えてんならこっちが挑発してるくらいは分かるだろう。

 けど足下では、わたしを指さし見上げてる術兵以外にわたしに気がついた様子がない。というか、火球の着弾にこそ気がついてバタバタしてるけれど、それらは例の寄せ集め連中っぽく、最初に出てきた正規術兵以外には第二師団の兵がいなさそうなのだ。


 『張り合いのないことねぇ……その体たらくであんな大口叩いてるんだから、たかが知れるってもんだわ。ええと……』


 頭ン中で暗素界のあのヤローに働きかける。

 あいつの世話になるのは正直業腹だけど、もともと会話一つとったって暗素界に意思を預けて、戻ってくるモノが気界を通る時に偏向力が働いた結果で、声として現界に顕れるものなんだから。

 だから、こんな真似も出来る。


 『やあやあ遠からん者は耳の穴かっぽじるまでもなく聞こえるからそのまま聞け!近くば寄ってわたしの火球で焦げてしまえ!我こそは暗素界の紅竜、コルセアなるぞ!!』


 きっとこの城の中にいる連中には、どこにいたって聞こえる大音響の名乗りと思えたことだろう。大坂の陣の塙団右衛門もびっくりでしょうよ。


 『あんたたちの不遜な要求にはもういい加減ウンザリよ!今から囚われの身である陛下をお救い申し上げるから、死体のない葬式をあげたい奴はまとめてかかってこいやーっ!!』


 言い終えた瞬間、光の槍めいた対気砲術が飛んできた。狙い過たずわたしの土手っ腹目がけて……いない。あれ、外した?いや、来ても避ける気満々でいたけれど。ていうかいっそ当ててみりゃあ面白いことになるのに。だったら。


 『なによなによ、あんたらの取り柄なんて動かない的に向かって砲術当てるくらいのもんでしょーがっ!それなのに空に浮かんでいるだけの、この愛らしいお腹に当てることも出来ないの?このヘタクソども……うひょっ!』


 はっはっは。やれば出来るじゃん!今度はちゃんとわたしに避けさせたんだからそーでなくっちゃ!

 光の槍、剣山でも作ろーかって量の砲術で作られた矢、鞭みたいにしなるヒモみたいなモノ。ありとあらゆる、砲術で生み出された攻撃手段がわたしを襲う。

 最初に外したアホがなんかしたで喚いているけれど、お構いなしに飛んでくるものを、わたしは『あ、ひょいっ。そーれ、ひょいっ。ひょいっとなっ』と華麗に次から次へと避けまくる。

 実際、こっちに見えてる足下から飛んでくる砲撃なんか、怖くも何ともないのである。怖いのはいつぞやバナードに撃ち落とされた時みたいに意表を突いた攻撃だ。


 『あっはっは!どーしたのヘタクソ!ちょっと動いただけで一発も当てられなくなるじゃないっ!そんなんなら高等学校のみんなの方がよーっぽど上手よ!実際何発か当てられてるしねっ!!』


 「ふざけるな!降りて来い卑怯者!!」


 ……と言ってるかどうかは分かんないけど、こっちゃ一方的に煽りまくっているのだ。耳を塞ごーが大声張り上げよーが、わたしの声は気界経由で直接人間の意識に働きかけるのだ。ふははは、一方的にコケにされる苛立ちを覚えるがいいっ!


 『……ってばかりやってても芸が無いわね。二、三発撃っておくか。てい』


 お口をあんぐり開けて、喉の奥から火球を一発、二発、三発。威力は最低に抑えてあるから直撃でもしない限り人死には出たりしないハズ……あ。


 「うぎゃぁっ?!」


 最後に撃ったやつが、今にも崩れそうだった塔の基部に当たってレンガらしきものが飛び散っていた。それに追いやられた兵士が逃げ惑っているけど、ケガした人はいなさそうだ。

 でもそれだけでなく、今度は一部が崩れた塔はが大きく傾いで倒れ始める。


 『おーい、危ないからよけなさいよー』

 「貴様が言うなッ!!」


 あ、今度はちゃんと返事があった。言ってる間に逃げた方がいいけど。


 『たーおれーるぞー』


 呑気に警告するわたし。

 そして塔はドウッと大きな音をたてて倒れた。土煙があがって地上は何も見えなくなってしまった。崩れたレンガの舞いあげるホコリが、多分そこらで右往左往してると思われる敵兵士の姿をもかき消す……。


 『うぉっと!!……ふふんだ、その手は食わないわよん♪』


 この機に乗じてきっと一発反撃くらいするだろーと思ったら案の定だった。多分この光線みたいな攻撃は、一番最初にわたしを見つけた第二師団の正規兵の攻撃だろう。ふわはははは!このわたしにフラグやお約束なんてものは通じねーのよっ!!土煙の下で悔しがってる姿が容易に想像出来てあー気持ちえーぶわばっ?!


 『お…お…おおおお…………』


 勝ち誇ったわたしを襲う、眉間への一撃。感触からするとデッカい石でも当たったのか。いや何でもいいけどこの悶絶するよーなというより頭抱えてリアルに悶絶して肩なんかプルプル震わせてるわたしを見て憐憫の情を抱かない輩はこんな酷い真似をした犯人そのものだろうっ。誰だっ!


 「コルセアちゃんのあほー!!」


 ………聞き慣れた声でわたしを罵倒するヤツがいる。あんにゃろか。あのやろーがわたしに石をぶつけたのかっ!


 「こーてーへーかとあたしがいるのにこんなばかな騒ぎ起こして何考えてんのっ!あたしを助けに来たんじゃないのかーっ!!」

 『うっさいわね!あんたなんか陛下のついでよついで!ていうかあんたいないと思ってたのに本当にいるとか何考えてんの大バカ!』

 「大バカっ?!大バカって言ったわねこの、この……ええと、ええと……とにかく今すぐ降りてきてあたしを助けなさいっ!」

 『べーっ、だ!誰があんたなんか!助けて欲しけりゃ「勝手にバカなことをしてしまったあたしを許してください賢く気高い至高の存在たるコルセア様!」と土下座してみなさいよ、ど・げ・ざ!!』


 土煙がだんだんと晴れていく。風もそこそこあるし、最初の一撃で起こった火事を消し損ねて、それが風で煽られたものだから火の勢いも増してきた。

 ………なんかヤバない?


 「ぐ、ぐ、ぐぬぬぬぬ………」


 と、一瞬焦ったんだけど、晴れた土煙の向こうから見えてきたパレットの、むっちゃ悔しそうな顔を見たらなんかどーでもよくなった。

 具体的には……まあその、なんていうか、ね?涙目になってアレのこと見たら……そのー、ほんのちょっと。ほんーのちょびっとだけ、かわいそー…………かもしんないかもしれないと思うのもやぶさかではない気がするかもしれない、って思って。いえ、多分気のせいだと思うんだけどさ。

 そしたら。


 「コルセアちゃんの(だい)あほーっ!!どーせコルセアちゃんが来るとおもって、あの子傷つけたらえらいことになるからやめとけ、って伝えに来たのに!来たのに!!」


 へ?

 えーと、なんだって?わたしの血を流したらエラいことになる?と伝えに……なんでま、ってところまで考えたところで、ソレが来た。

 今度は狙い違わずわたしの土手っ腹に突き立つ、砲術……ではなく、投げられた槍。これは……。


 「当たった!お、おい討ち取ったぞッ!!あの、忌々しいクソトカゲを俺が殺したんだ!」

 「油断するな!落ちて来るぞッ!!トドメだ、トドメを刺せぇっ!!」


 ……うげ、まずい……フラグクラッシャーとかお約束破りとかちょーしこいてたら、砲術じゃなくて寄せ集め連中の雑兵が投げた槍に……やられた……。

 まずい、ヤバい……血が、血が流れ………逃げ、て……パレ……。

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