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第214話・帝都の空駆ける竜(たびだちのとき……なんてな!)

 判明したこと、その一。

 第二師団の潜伏場所。

 というか、あのバカども数が揃った上に陛下の身柄も確保して気が大きくなったのか、随分と勝手な要求をした挙げ句、自分達の方から「帝都北部の廃城にいる」とバラすも同然の振る舞いをしてたのだ。

 アイラッドが呆れ顔で「これならウチの小僧たちだけでもすぐ分かっちまわあ」と呆れ顔になってたけれど、それはそれとして手柄として数えておいてくれよ、と図々しいことを言ってたのは……まあわたしが報酬出すわけじゃないから、そのまんま伯爵さまには報告しておいたけどね。


 で、判明したこと、その二。

 パレットがバカだった。以上。


 「流石にそれは言い過ぎではないのかしら」

 『では言い換えましょう。想像以上のバカだった。それで足りなけりゃ救いようのないバカだった。これでよろしいですか?』

 「…………」


 お嬢さまは何も言わなかった。

 隣のネアスに至っては、いつもの「あはは」という困ったような笑いすら出ていなかった。

 でもここまで悪し様に言うのにも理由ってもんがある。

 わたしに宛てられたあのバカの手紙は、要約すると「わたしもお姫さまみたいに助けられてみたいから、第二師団に捕まってみましたぁ」っていう、最悪にアタマの悪い内容だったからだ。もう放置した方がわたしの精神の安寧のためになるんじゃないだろーかと本気で言ったら、お嬢さまとネアスに叱られたから仕方なく助けにいくんであって、それ以上の意味は無い。


 「アイナは自分も君に救われた立場であるからね。多少は身につまされることもあるんだろう。とにかく、君の恋人と陛下の居場所が同時に分かったんだ。どっちがどっち、とは言わないけれどついでではあるんだから、救出を頼むよ、コルセア」

 『一部重大な事実誤認がありますけど、陛下の救出に向かうのはやぶさかじゃーござんせん。その他のタワゴトについてはのちのち決着をつけさせていただきますんで、伯爵さまは後詰めの手配の方、お願いしますね』


 お嬢さまの立場と心情を盾にとられたんではあんまり強くも言えない。生還フラグだけ立てといて、わたしは身につけたタスキの位置を直して飛び立つ準備をする。

 ちなみにタスキの方には「陛下救出特別隊」と大書されている。正体と目的バラして行くとは何を考えているんですの、とお嬢さまには呆れられたけれど、別にわたしがコソコソする必要などないのだ。正面切ってあのクソヒゲの首から上を無毛にしてくれるわっ。

 ………あと、タスキの裏側に小さく「日本語で」、「バカを助けにいき隊」と書いておいたのはここだけの話とする。


 「騒ぎの始末は四裔に任せるが、可能な限りお前が目的を果たせ。………無茶を言っているのは分かるが、なんとか、頼む。それとケガには気をつけろ。第二師団は猛者揃いだが数そのものは多くはない。問題はそれ以外の勢力から集めた術兵達だ。集まっている情報も多くはないが、ここにまとめてある。向かう途中で目を通せ」


 殿下が申し訳なさそうに言う。そして手渡された2枚ほどのメモにざっと目を通すわたし。正直、どこの地域から何名の術兵が入国している、なんて話を見せられても分かることは多くはないけれど、殿下を安心させようとにっこり笑って、『お気づかいありがとーございます、殿下』とだけ答えておいた。メモも、タスキと一緒に携えた鞄に入れておく。中身は……まあ、おべんとだったりするんだけど。


 「儂が言うのもなんだが……その他のことはお前さんにご執心の嬢ちゃんのついでくらいで構わん。難しいことは儂らに任せて、お前さんはお前さんの成すべきことをすればいい。後のことはなし得たことに相応しい物事がついてくるだろうよ」


 じーさま、それわたしを安心させるつもりでプレッシャーにしかなってませんがな。まあいいけど。それくらいのこと。


 「コルセア……本当に、殿下の仰る通りケガには気をつけてね?もちろんコルセアの言ってた呪いっていうのも怖いけれど、コルセアが傷つくの、わたしイヤだからね?」

 『うん、分かってる。わたしが今までに一度でもネアスやお嬢さまを悲しませるような真似したことある?ないでしょ?だから今回も大丈夫だよ、ずぇったい!!』


 あ。なんか微妙に死亡フラグみたいなこと言ってしまった。そういえばさっき言ったのも生還フラグというかひねくれた作者ならバッドエンドの伏線にしてしまいそうな……。

 なんて少し後ろ向きなことを考えたけれど、ネアスはようやくいつもの「あはは……」って笑い方(ちょっと涙ぐんでた気もしたけれど)になって、跪いてわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。


 「…………」

 『………んじゃお嬢さま。行ってきます。今日の晩ごはんは……』

 「シクロ肉の最上級の部位をみつくろっておくよう、厨房には伝えてありますわ。最高の食材を腐らせるような真似をあなたがするわけがないでしょう?この腹ペコトカゲ」


 さすがお嬢さま。よぉくわたしのことを分かってらっしゃる。

 差し出されたお嬢さまの拳にわたしも同じように握った手を押し当てる、グータッチ。

 その時に見せたお嬢さまの笑みは、「ジ・悪役令嬢」と言わんばかりの不敵さと自信に満ち溢れていた。まあ悪役令嬢のそーゆーのって、普通は根拠ないモンだけど、今のお嬢さまにとっては、ネアスやわたしという存在が、明白な裏付けになってるんだもんね。


 つくづく思う。

 このひとのためにいろいろ頑張って良かった、って。

 優しくてちょっとドジで、努力を怠らなくて、わたしにはちょっと厳しい時もあるけれど、でもそういう時だってどこか可愛らしくて。そんな姿勢がいろんなひとを惹き付けて、終いには正ヒロインにまで想われちゃった。

 こうなったのはどこかの誰かの腐った思惑もあったにしても、このひとがこの生涯で積み重ねたものだけは間違ってなんかいない。わたしのやってきたことが間違っていたとしても、このひとの正しさだけは、絶対に否定したくない。わたしはそう思うんだ。


 「行ってらっしゃい、コルセア。あなたの無事を誰よりも祈っておりますわ」


 触れた拳が離れると、お嬢さまはわたしへの全幅の信頼を示すように、とても柔和な笑顔でそう微笑んでいた。今度は悪役令嬢というよりは女神……ああいや、これだとあのバカと被る。ええとええと……わたしの求めて止まない慈母の………なんかムカつくな。やめやめ。アイナハッフェ・フィン・ブリガーナそのひとはどこまでいっても彼女自身でしかない。わたしの大好きなお嬢さま。

 このひとが信頼してくれるというのなら、わたしはなんだって出来る。やってやる。


 『ほいじゃみなさん。いってきますねー。晩ごはんまでには帰ってきますんでー』


 まあでも、本気出したところを見せるのは何かカッコ悪い、という捻くれ者のわたしだ。我ながら締まりの無い、ほにゃっとした笑顔になって飛び上がった。

 お屋敷の屋根の高さで一度止まって下を見下ろす。

 お嬢さま、ネアス。伯爵さまにじーさま。殿下もいる。

 アイラッドやバナードは彼らの務めを果たすためにあっちこっち動いてる。けどまあ、わたしの背中を押してここから飛び立たせてくれたのは間違いないのだから、今いない幾人かのひとにも含めて、なんか「ありがとう」って行っておく。


 「………コルセアーっ!気をつけてー!!」


 やっぱり、なんだかんだ行っても心配なことに違いは無いのだろう。お嬢さまの声にわたしはぷりちーな尻尾をふりふりして応えると、もう一度だけ居並んだみんなと屋敷の様子を目に焼き付け………だからこれ死亡フラグだからやめれっちゅーのっ!!

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