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第191話・角は東に尾は西に(逃げ出した先で)

 『あんた知らないひと相手になんつーデタラメかましてんのよコラァッ!!』

 「いたぁっ?!」


 パレットのトンデモ発言にしばらくの間ぼーぜんとしてたその場の一同だったけれど、その中でも真っ先に我に返ったわたしがまずやったのは、パレットの後ろ頭をかじりたおすことだった。

 ツッコミとしては少々度が過ぎてるかもしれないけれど、なんでか動揺してその辺の加減が出来なかったのだ。後で謝っておこ……いや待て待て、それより前に今の聞き捨てならねー発言の真意を問い質し……いやいやそうでもない、なんでか知らないが、わたしが出てきたことにより場の空気が一気に動き出したとゆーか殺気ばしってきたとゆーか……。


 「いたぞ!帝国のクソトカゲだ!」

 『ちょ…』

 「ちょっとあんたら待ちなさいよ誰がクソトカゲよ誰がっ!こぉんなにかわいい竜は世界のどこを探したっていやしないわよっ!謝れ!あたしのコルセアちゃんに謝れっっっ!!」


 …っとあんたらだれがクソトカゲよー………って、わたしの台詞をとるんじゃない……でもなくて!!


 『いやあんたなんで段取り通りにしないのっ!ちゃんと演技してればコイツらてきとーに操ってお帰り頂けるんじゃないのッ?!』

 「だってだって、こいつらコルセアちゃん探してギッタンギッタンにしてやるとかふざけたこと言ってるんだもん!そんなの許せるわけないじゃない!!」

 『わたしにデレてる暇があったらちゃんと言われて仕事をしろこの紐パン女神がぁぁぁぁぁっっっ!!』

 「デレてないもん!あと紐パンはいい加減やめてよ!愛が足りなさすぎないと思わないの?!」

 『最初っから愛なんかねーわよ!』

 「ひどい!あたしとは遊びだったのっ?!このDVドラゴン!浮気者ーっ!!」

 『勝手に旦那扱いすんじゃねーわよっ、あんたなんか別になんとも……』

 「その先を言ったらアイナちゃんに訴えてやるっ!おたくのペットに弄ばれましたって!!」

 『意味がわかんねーっ!!あんたいい加減に……ひぃっ?!』「ひゃあっ?!」


 間近で睨み合ってるわたしとパレットの顔の間を物騒な光り物が通り過ぎた。

 殺気を感じて咄嗟に突き飛ばしたおかげでケガはせずに済んだけど、突き出された槍がまともに刺さっていたら顔の長さが半分になってたところだ。


 「ちっ、外したか!貴様ら囲め!この場でこのクソトカゲを仕留めれば、帝国攻略の勲功第一は我らのものぞ!」


 わたしとパレットに槍を突き立てようとしてたのは、先ほどからパレットと言い争いをしていたむさい男だ。なるほど確かに、そこまでの歳じゃないのに頭髪の将来は悲観されても宜なるかな、とゆーものである。


 『うっせーわよこのハゲ!あんたらどうせ無理矢理連れて来られてんでしょ?!勲功なんて似合わねーからとっととケツ巻くって逃げ出した方がいいわよ!』


 距離をとってそう罵ると、指揮官みたいなおっちゃんは兜を被ってない頭に手をやってイラッとした顔になっていた。もしかして気にしてたのだろーか。トカゲにまで言われるとは思ってなかったとか。


 「そーよそーよ!このハーゲ!ハーゲ!これ以上近付いたら残ってるのも全部燃やしちゃうからね!コルセアちゃんがっ!」

 『背中に隠れて他力本願で煽るなっつーのっ!……とにかく、これ以上帝国に踏み込んだら、わたしの火炎で焼き尽くしてやるから、大人しく回れ右して引き返すのが、あんたたちのためよ?』


 段取りとか穏便な手段とか、なんかもう何処行った?って話になってしまうのだが。ええい、全てこの紐パン女神が全部悪い!一人で突っ張れないなら自分からケンカなんか売るんじゃないっつーの。

 まあどっちにしても、この頭髪の変化が気になるお年頃のおっちゃんを脅し賺し、なんとか言いくるめて引き換えさせないと、と自分で前に出た時だった。


 「焼き尽くす?面白い、やれるものならやってみろ」

 『……あん?』


 おっちゃんは、油断なく槍をこちらに突き付けたまま不敵に笑う。

 虚勢とも思えず、わたしはじりじりとパレットを庇うように位置を変える。肩に掛けられた手は少し震えていた。ああもう、結局怖かったんじゃないのよ……ええい、なんかムカつく。


 「青銅帝国の紅竜、コルセア。名は聞いていたが、直接見えれば恐ろしくはある。だがな……」

 『あ、あによ』


 おっちゃんだけじゃなく、後ろに控えたカルダナ兵もめいめいに武器を取り、明らかに戦意旺盛な様を見せる。やべぇ。正直いって距離が近すぎる。

 わたしの攻撃は発動するまでにそこそこ時間がかかるのだ。空に逃げれば時間は稼げるけれど、次から次へとひゅんひゅん飛んでくる矢を華麗によけながらためを作る、なんて真似は難しい。

 逃げるか?でもそれだともうハッタリも使えなくなる怖れが…。


 「……一度でも干戈を交えれば、それなりにやりようは見つかろうというものだ。貴様に手を打つ暇を与えずにおけばいくらでもつけいる隙は生まれるだろうしな!かかれえっ!」

 『わぁっ?!』

 「きゃーっ!!」


 やばいやばいやばい!圧倒的な火力で一方的に蹂躙するしかない能の無いわたしが、こうも近い距離で戦いの専門家を向こうにしたんじゃ逃げるしかないじゃないっ!


 「コルセアちゃんなんとかしてーっ!」

 『うるせーっ!!いいから逃げるわよ……あ、そうだ』


 一つ思い出してわたしは返しかけた踵を戻す。言うても宙に浮かんでいるんだから踵もナニもないんだけど。

 とにかく、わたしに掴まったまま一緒に逃げようとしていたパレットの足下にまわったわたしは、つまづいて転けそうになった彼女を下から支えると、文句を言おうとしてたのにも構わず、地面近くに垂れ下がっていたモノに手をかけた。


 「え?」


 訝しむパレット。迫り来るむさい男ども。

 その両者を同じ視界に収めつつわたしがしたことは。


 『これでも食らえっ!』

 「え?え?」


 そのままソレを握って一気にめくり上げる。それだけじゃ足りないから回転と捻りも加えて、パレットの腰にまとわりついていたものを、一気に引っ剥がした。

 結果。


 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ?!」

 『うるせーっ!至近距離でわめくないいから今のうちに逃げるわよっ!!』


 紐パンに覆われた見事なケツがカルダナの兵隊たちの目の前にあらわれると、とーぜんというべきか期待以上の反応というべきか、先頭にいて槍を握っていたおっちゃんを始めとする目の血走った男どもは。


 「女神さまだ……」

 「なんとすばらしいおケツ……」

 「ふつくしい……」


 ……と、ようやく期待した反応を示すこととなり、わたしはポカポカと殴りかかるパレットを抱えて一先ず一目散に逃げ出すことに成功したのだった。まる。



   ・・・・・



 「まる。じゃねーわよなんてことしてくれるのよっ!!!」

 『うっさい。逃げ出せたんだから別にいーじゃん。どうせ見られたって減るもんじゃねーし』

 「うう……もう他の男なんかに見せたくないのにぃ……コルセアちゃんのばかぁ……」


 別に泣き喚いたりはしてないけれど、ふつーに悲しそうにしてた。

 となるといくらなんでも多少の憐憫の情ってヤツが沸かないでもなく、わたしはへたり込んでいたパレットを正面から抱きすくめ、まあなんていうか……ごめんね、と、聞こえるか聞こえないかみたいな声で、言ってみた。


 「………うー」


 まあそれでパレットも納得したのかそうでもないのか、わたしに抱きついてしばらくしゃくり上げていたんだけど。


 まさかあの状況でアイラッドたちのいる方向に逃げ出すわけにもいかず、わたしはパレットを引きずるよーにして更に森の奥に駆け込んでいた。なので、今どこにいるのかはよく分からない。

 空に出て上から見渡せば何か分かるかもしれないけれど、もうとっぷり日も暮れているからそれも上手い手じゃない。

 はぐれてしまった形になったアイラッドたちは……まああの狡っ辛い男のことだから無事だろうとは思うけれど、はてさて放っておくワケにもいかないしなあ。とりあえず、この泣き虫女神が落ち着いたら移動しようか、と声をかけてはみたんだけれど。


 『パレットー、気が済んだらここ離れるわよ?……あー、まあその、ゴメンて。あんただって見た目若い娘には違いないんだから、下着見られて平気でいるわけじゃないのは分かったから。ほらわたしさ、この体になってから長く経っててそーいう恥じらい?とかいう感覚失って久しいのよ。……よく考えたらわたしずっと裸で過ごしてることになるんじゃね?今まで気にも留めてなかったけれど、帰ったらお嬢さまになんかTシャツでも作ってもらおうかしら……いっそお嬢さまとネアスとお揃いで。そういえばあの二人とも長いこと会ってない気がするわねー。まだ三日も経ってないってのに。うーん、みんなどうしているかなあ……むぎゅ』


 途中から愚痴みたくなって、天を仰いで一人でぼやいていたら、抱きつく腕に力が入って、一層強くしがみつかれた。


 『……あのー、パレット?』

 「………」


 多分、当人はしがみついてるというより抱きしめてるつもりなんだろうけれど、微かに手が震えて、しかもまだしゃくり上げてるもんだから、心細い子供が母親に取りすがってるよーにしか思えない。いやわたし、母親になった経験とかないし、そもそも母親って存在にいい感情持ってないんだけどさ。


 「………」


 そんなわたしでも、今のパレットを放っておくのは何だかロクデナシな所業だよなあ、と思えるくらいには、この女神さまはなんだか弱っていた。

 ……そうだね。なんだかさ、ここ最近様子がヘンっていうか、おかしなことを言ってたような気はするよ。

 見て見ぬフリをしてた、っていう自覚はあって、わたしが想像してたことがきっと合ってる、っていう予感もあって、だからっていうわけじゃないけれど。


 『……何があったのか、話してみない?楽にはなれると思うよ』


 友だちっぽいことを言ってみる、わたしなのだった。

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