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第188話・角は東に尾は西に(正しい女神の使い方)

 「コルセアちゃぁん、伝えてき……たわ……よ……?」

 『あ』

 「ん?」


 形だけでも話がまとまって、さてこれからどーしよー、って段階になって、紐パン女神が戻ってきた。いや戻ってきた、というか一緒に行動してたことをすっかり忘れてたわたしである。正直すまんかった。


 「おい、コルセア。この空飛ぶ女はなんなんだ?確か昨晩だったかも妙な女がいたらしいと聞いていたけどよ」


 アイラッドは直接見てはいなかったみたいで、警戒してか降りて来ようとしないパレットを指さしわたしにそう尋ねる。少年たちの方はというと、ハレンチ極まり無い紐パン姿に赤面して目を逸らす初心さがとってもわたし好み。


 「勝手なこと言わないでちょーだいっ!!……でも可愛い男の子たちならおねーさん可愛がっちゃうわよん。じゅるり」


 別に紐パン晒してない女神はヨダレを拭くように口元を拭う仕草をしていた。お下品にも程がある。ていうかあんたは自分がつまみ食いするんじゃなくて、少年たちの絡みにかじりつく方だろうが。本人目の前にしたナマモノは自重しろ。


 『アホ言ってないで降りてきなさい。あんたがいない間にいろいろ話まとまったから』

 「……まーたあたしを除け者にするのね、コルセアちゃんは」

 『いー歳して拗ねてんじゃねーわよ。あんたわたしより……』

 「それ以上言ったら一枚一枚ウロコを剥がしてやるわよ。丁寧に」

 『……大人っぽいのに、それは無いんじゃないでしょうか』

 「たいへんよろしい」


 ……なんか妙な迫力があって、今まで平気で言い返してた口を塞がれてしまった。なんか心境の変化でもあったんだろうか。

 ともかく、パレットは降りてきてアイラッドと初対面のアイサツなんかを交わしてた。どう名乗るのかと思って若干ハラハラしてたけど、わたしの友人の行商人で押し通していたのは神経が太いというのか、何も考えていないというのか。空を飛んでやってきた人間についてどう思う?と後でアイラッド尋ねたら、「暗素界なんてぇ見たこともない世界からやってきたと自称するトカゲに比べりゃどうってことない」だってさ。わたしに失礼な発言だとは思わないのか、こいつは。


 『ところで、そっちはどうだった?』


 で、自己紹介も済ませてカルダナの少年たちにチラチラと不躾な視線を送ってるパレットを止めるように、カルダナの侵略軍が近付いていることを知らせにいかせた件の成果を確認。

 戻って来た時の様子からして特段不穏なことは無かったと思うけど、ま、念のため。


 「ええと、なんか村長さんみたいなひと探して、カルダナのこわいひとたちが近くにいるから、逃げる支度したほうがいいよ、って伝えてきた」

 『それだけ』

 「なわけないでしょ。とにかく、最初は全然信用してくれなくって、帝国の軍隊が近くにいるんだからそんなことあるわけないって。でもその帝国軍がいないんだから気をつけて、って言ったら何か思い出したみたいに急に慌て始めてね。で、なんかお礼だけ言われて、忙しそーにしてたから、戻って来た」


 なるほど。ここらを担当している四裔兵団が姿を消したことには気がついてたのか。じゃあ問題は無さそうね。そして、こちらの現状も知らせておかなければならないから、時間が豊富にあるとは言い難いけれどアイラッドから聞いた話をかいつまんで説明する。

 それで逃げてきた少年たちにおもいきり感情移入して「おねえさんがずぇったい守ってあげるからねっ!」と涙ぐんで力説してたのには一同若干引き気味だったけど。まあ基本的には悪人じゃないのよね、コイツも。わたしに対しては悪意しかねーんじゃねえの?って思う時が時々あるけど。


 『とまあ、現状はそんな感じ。何かいい考えある?カルダナを退かせるのに』

 「そんなのコルセアちゃんが行ってガーって火を吹いて出て行け貴様らー、ってやれば済む話じゃない。なんでそうしないの?」

 『それさっき言ったでしょーが。わたしが本気で軍隊なんか相手に出来やしないって、もう見透かされてんの。それ以前にこんな愛らしいドラゴンが襲いかかったって迫力不足は否めないでしょ』

 「そぉかなあ……うーん」


 何が気に食わないのか、パレットは腕を組んで考えこみ始めた。杖を抱きかかえるようにして首を捻る姿は、一応は見目麗しい女神のものに相違無いので、アイラッドと彼に従う少年たちの目の保養にはなっただろう。変な気を起こさなけりゃいいけど……って。


 『……わたしが何かするより、昨夜みたいにまたあんたが下着チラつかせて誘導した方が手っ取り早いんじゃない?そのお尻振りながら「こっちよ~ん」とかやったらフラフラついていきそうじゃん』

 「あんた女神たるあたしにそんな下品な真似させる気っ?!」


 おいこらまて発言には気をつけろ隣で男どもが「女神?」とか首を傾げてるじゃないか。

 ……ていうか、よく考えたらわたしだけじゃなくてパレットもカルダナの兵どもの前にいたじゃない。そういえば。


 『アイラッド。この女のことってカルダナじゃどういう話題になってたの?露出の多い商売女でもやってきたとか?』

 「ひどくない?」

 『わたしが言ってんじゃないわよ。カルダナの連中の間でどう言われてるか、ってだけよ。で、どうなの?』

 「そいつは俺の計算にも入れないといけないから思い出していたところだがな。あー、なんか話してた連中はどこか呆けてたようだったな。おめえを追いやってからもなんかボケッとして熱にうかされたようだったからな」

 『わたしに矢とか対気砲術ぶち込んだ連中も?』

 「呆けてたのがオメエに攻撃したかどうか、ってことか?詳しいことは分からんが、話に聞いた限りじゃあ、女神様に会った、もう俺は死んでもいい……とかふざけたことを抜かしてた奴らは何があってもシャッキリとはしてなかったらしいな」

 『ふーん』

 「……な、なによ」


 わたしの藪睨みな視線を受けて、パレットは軽く身を仰け反らす。

 思うに、本人に自覚があるかどうかは分かんないけど。この自称女神の紐パンには何やら男共を呆けさせる効果があるらしい。

 あるいは魅了?とかなんとかの呪いの類なんだろうか。正直言って、妖艶な美女にはほど遠い、どちらかといえば子供っぽい……えーと、少女めいたこの女のパンツに男をそこまで蕩けさせるよーな魅力があるとは思えない。あったら困る。世の中ロリコンばっかりか。いやロリともちょっと違うが、まあとにかく軍隊なんかにいるマッチョな男の目を釘付けにするよーなものではないはずだ。

 となると、なんか当人にも自覚のないなんか都合の良い力があると思った方がいい。


 「あの、コルセアちゃん?なんか、あたしを見る目に不穏なものを感じるんだけど……」

 『気のせいでしょ。それより……ねえ、アイラッド』

 「俺はあんまりそういう手は使いたくないんだがな」


 そりゃ結構。ここで舌なめずりして目を血走らせるような男だったら後で串焼きにしてたところだ。


 「なに?なにが起こるの…?」


 期せずして、その場にいた全員の視線がパレットに集中する。

 少年たちのものも含めて特に好色めいたものではないはずだけど、数が数だけに不穏な空気に感じたんだろう。

 きっと本人はそうしてるつもりも無く後ずさっていくところを、逃がしたらん、とばかりにずいと一歩前に出て、こう宣言した。


 『……パレット。それなりにご褒美は用意してあげる。だから……』

 「だ、だから…?」

 『脱げ』

 「やっぱりぃぃぃぃぃっ?!」


 この人でなし────!!……という叫びを無視して、わたしはいつも通りに溜めた火を、いつも通りにヤツの下半身に向けて放っていた。

 ていうか人でなしなんかじゃないやい。一応アイラッドと少年たちには目の毒だろうから後ろ向かせてからだったんだし。

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