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第19話・帝国初等学校大運動会 その2

 『それでは警戒小隊、せいれつー!』


 宙に浮いてる分、全員の目線よりは高い位置から指示を出す。

 目の前に居並ぶのは、初等学校の四、五年生から選抜した強者どもだ……言うても所詮十一歳児なのでたかが知れてるとは言うものだけど、どーせ向こうだって同い年なんだからそれほど問題ではない。多分。


 『これよりー、小隊は問題行動の監視に移るー。怪しい行動を見かけたらー、当初の指示通りに本部に知らせー。以上、解散っ』

 「「「はいっ!」」」


 素直なえー子だちが散っていく。まあ十人くらいのものではあるけど、運動大会のうちは競技に出たり巡回したりと忙しくなってしまう。

 まあもともとこの運動大会が軍事教練の一環みたいなものなので、学校の方からも許可出てるんだけど。

 わたしがこんな真似を引き受けたのは、生徒会長のバッフェル殿下の負担を少し減らしてあげたいなー、というのが一つ。こないだ、殿下にもなかなかかわいーとこあるじゃない、と思わされたので、お嬢さまの助けにもなるかなー、ってことで一つ。

 もう一つは。


 「ね、ねえコルセア…わたしが貴族の皆さまに注意なんか出来ないと思うんだけど…」

 『だいじょうぶ、ネアスの実力なら名前だけの貴族なんかいくらでも黙らせられるんだから!』

 「そういう問題じゃないと思うんだけど…」


 実は、幼年期編のこのイベントで、幼年学校側にいる第三の攻略対象との出会いイベントが、ネアスにはあるハズなのだ。「ハズ」になるのは、もー最近の動向からしてゲーム内のシナリオ通りに進むがどうかなんか分からないからだ。

 とはいえ無視するわけにもいかないし、お嬢さまを破滅させないためにはネアスにもちゃんとお似合いの相手を見つけないとね、っていうお見合いおばさんなりのお節介…誰がおばさんやねん。


 『まあ、無理はしないでもいいからね。お嬢さまにもネアスにも、危ない真似をさせるわけにはいかないんだから。ヘンなことに巻き込まれそうになったら、打ち合わせ通りに合図すること。いい?』

 「う、うん。それよりわたしもアイナ様を守らないといけないし…」

 『お嬢さまなら大丈夫。自分のことは自分で出来るし、わたしも何かあったら駆け付けるから。じゃあ、いってらっしゃい。気をつけてね』

 「ネアスーっ、早くこっちにいらっしゃいな!」


 一緒に行動するお嬢さまは、もう解散した一団に紛れて幼年学校側に行こうとしている。

 念押しは昨日さんざんしておいたんだけれど、無茶しないでくださいよ、お嬢さま。少なくとも今日に関しては主役はお嬢さまじゃなくて、ネアスなんだから。


 どーん、どーん、と昼花火のような音が演習地にこだまする。

 運動大会の開催を祝って、現役の帝国気兵団が打ち上げた砲術の音だ。今日の夕方、初等学校と幼年学校の代表が並んで同じように砲術を打ち上げることで、大会の閉幕が宣言されるというのが伝統らしーんだけど……ほんと、ゲームの時みたくネアスと第三の攻略対象が並んで打ち上げること、出来るのかなあ。





 「コルセアたいちょう!第一分隊異常ありません!」

 『よろしい!引き続き警戒にあたられたし!』

 「はいっ!」


 「第二分隊、次の競技に参加しますっ!」

 『では予定通り、第四分隊と交代し、競技が終了次第戻りたまえ!』

 「はいっ、第四分隊と交代しますっ!」


 「あの、コルセア…モーフィーブってお家の方が言うことを聞いてくれなくて…」

 『あちゃー…あそこは殿下でないと抑えがきかないわねー……殿下にはこちらから伝えておくから、ネアスとお嬢さまは他のところ回って!』

 「おねがいしますっ!」


 運動会で揉め事が起こらないように、小学生の団体を指揮するのってドラゴンの仕事なのかなあ、と思いながらだったけど、それほど深刻な問題は発生していない。

 問題と呼べそうなことがあるとすればわたし自身のことだけで。だって、見学に訪れる貴族の人たちが、わたしが児童を指揮してるところみて一様にギョッとしてるんだもの。殿下を始めとする生徒会の子たちがいちいち説明してくれてるけど。

 あーもー、こんな「ラインファメルの乙女たち」に無かったシーンで頭悩ましたくねーってのに、もー。


 「ご苦労、コルセア。面倒をかける」

 『今の所問題は無いですけどねー』


 そして、ようやくお昼休み。日本の運動会と同じく保護者と一緒にお弁当を、って場面だけど、そこは帝国の貴族が一同に会するところなもんだから、そっちこっちで親しい家同士での和気あいあいとしたご会食、のみならず、微妙な関係の家の間で角突き合わせがあったり、これを機にエラいお家にお近づきになろーという下心の蠢動とか、まあいろいろ。

 わたしは自分の思惑に従って、ちょっと動き回ろうかと思ってたので、学校の先生にこの場を任せて、と思ったんだけど。


 『……殿下は出歩いたりしないので?』


 なんか疲れた風のバッフィル殿下に声をかけた。

 いやそりゃー疲れはするでしょーけど。十一歳の身にして、帝国の諸貴族がやんちゃしないよーに気を配るというのは。


 「ブリガーナ伯爵に招待されている。そちらに伺うつもりだ。コルセアも気にせず行ってくればいい」

 『そうですか。まあうちのお嬢さまをお願いしますね、婚約者さま』

 「余計な口を利かなくてもいい!」

 『あははー』


 疲れた顔の中にも、なんだか照れみたいなのが見えて、年齢相応の殿下のお可愛らしさが感じられる。わたしにとってはそれはとても好ましくて、ついついからかってしまうのだけど、それを許してくれる殿下には、お嬢さまのことを抜きにしても好感は抱かざるを得ない。さすが乙女ゲーの攻略対象。


 で、攻略対象といえば。

 運営委員会の天幕を出てちょっと高めに高度をとる。首を巡らして探すと、いた。見つけた彼女に向かって飛んで行く。通りがかった人が一様にぎょっとしてた。ちょっと気分が良い。


 『ネアスー、お昼が済んだらちょっと付き合わない?』

 「え?あ、コルセア。うん、お父さまとお母さまはアイナ様のご家族と一緒だから別にいいけど。なに?」

 『ちょっと一緒に回りたいかなー、と思って。あんまり見て回ってないでしょ?』


 右を見ても左を見ても貴族関係者がほとんどの中、見て回るも何もないけど。庶民階層のネアスだと気後れするだろーしなあ。


 「うん、そうね。コルセアが一緒なら怖くないかも。お願いしていい?あ、お昼なら先に済ませたから大丈夫」

 『あ、そっか。巡回の番の関係で先にお昼食べてもらったんだっけ。じゃあ行こうか』

 「そうね。行きましょうか」


 そうして、第三の攻略対象に引き合わせることになった。

 ますますお見合いおばさんじみてきてるけど。それは言ってはいけない。

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