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第171話・悪役令嬢覚醒(ようやく全員集合)

 「朝から済まないな、アイナ」

 「殿下!……その、ご無事であったこと、まずはお喜び申し上げますわ」

 「ああ。疲れたよ、とにかく」


 苦笑する殿下に、お嬢さまもさすがに痛ましげな顔になっていた。

 そりゃまあしばらく人質生活してたよーなものだし、助け出すために尽力してたお嬢さまにしてみれば、ホッとするやらそんな様子に心配にもなるやら、ってところなんだろう。


 「とにかく今はお休みください……ああいえ、このような場所でお待たせするわけにも……誰か、殿下をひととき休める部屋にお通しを……」

 「いや、いい。この屋敷ならむしろこの場所の方が落ち着く。バナードも構わないか?」


 朝の急のことで屋敷の方でも準備が整わず、殿下たちにお待ち頂いていたのは食堂だったりする。

 バナードも一緒に、もうけっこー必死に逃げてきたもんだから、ほぼ徹夜させたダメージも結構なものかと思いきや。


 「俺は別にどこでも。というか、ブリガーナ家の屋敷なんかどこにいたって落ち着きませんてば」

 「あなただって実家は相応の家格じゃありませんの。ひがむ必要は無くてよ」

 「あはは……それを言うなら職人の娘のわたしが出入りしてること自体、大それたことだよ、バナードくん」

 「また反応に困ることを言うなよなー」


 ただ、もう殿下にしろネアスにしろ、みんないー具合に馴染みきっているので、一応は出されたお茶なんぞをすすりながら殿下とバナードが何か話をしてたのはそれなりに絵にな……おい、そこの腐女神。その二人を眺めながらニヤニヤすんな不気味だっつーの。


 「ひどいっ?!」

 「あら、パレットさんもおいででしたのね。もしや殿下救出にご協力頂いたのでしょうか?」

 「へ?え、ああそうそう!うん、あたしの力がなくばコルセアちゃんも活躍する場面が無かったからねっ!ええもうそりゃあもお!」

 「ふふ、でしたらその労に報いるのが貴族の務めというものですわ。いずれの話とはなりましょうが、饗応の儀にてお応え致しましょう」

 「ぜひに!ぜひに!」


 尻尾が見えそーな勢いで食らいつく、あさましい自称女神だった。いや、激しくぶんわまし過ぎてて見えないだけなんじゃないだろうか、尻尾。

 と、呆れていたら、殿下が耳打ちしてきた。言うてもドラゴンのリアル耳の位置じゃなくて顔の横。

 殿下、わたしの耳はそこじゃありません。聞こえるけどね。


 「……彼女はどういった知り合いなのだ?」

 『え?あー、まあ、わたしの顔見知りで、帝都周辺で行商してるとかそんな感じの設定…あわわ、そんな感じのヤツです。殿下に失礼とか無かったですか?』

 「いや、失礼をしたというのであればこちらの方がよほどだ。まだ礼の一つも述べていなかったのでな。コルセア、お前の知人というのであれば紹介して欲しい」


 あんま殿下が気にかけたら調子にのりそうですけどね、とは思ったけれど、相手が誰であれ恩に対し礼を尽くすのは殿下のとってもいーところなので、後で必ず、ということを約した頃合いに、関係者がやってきたのだった。


 「……殿下………ご無事でようございました。お救いするために力を尽くすべき立場でありながら、それを出来なかった不明をお許し下さい、とは申しません。いずれお叱りは受けますので、今はこの事態の解決のため、尽くすことを誓いましょう」

 「伯爵、立場を言うのであれば俺のためだけに働く理由など伯爵には無いのだから、今は気にするな。だが共に解決に当たってくれるというのであれば、心強いことこの上ない。帝国臣民のために合力しようぞ」

 「はっ」


 伯爵さまは特に悪びれることもなく、かといってわざとらしく恐縮することもなく、ただ伯爵さまの立場なりに貫いてきたことをこのまま続けるつもりのようだった。

 殿下もそれを鷹揚に受け入れ、利害の一致するうちは協力しあうー、みたいなどっかの第二師団と第二皇子の間のギスギスした空気とは全く雰囲気の違う、「互いを利用しあう」関係を続けるつもりのようなのだった。

 まあ殿下も大概狸だしぃ、ブリガーナ家といえば帝国に狡っ辛いことで名の知れた家だしぃ。ネアスが「よかったね」みたいに両手を胸の前で合わせてホッとしてるのはちょっとのーてんき過ぎるとは思うけど、まあこの子の持ち味だからこれはこれでいっか。


 「お待たせしました。殿下、積もる話もございますがな、話は急いだ方がよいと思いますので」


 そしてブリガーナ家の首魁登場。いや現当主の伯爵さまも割とアレだけど、悪の親玉的な威厳っつーか風格はじーさまにはまだまだ及びもつかない。及んでいいことあるかどうかは別として。


 「前伯爵にもご心配をかけたようだ。我ながら不甲斐ないことで汗顔の至りだと思う」

 「なに、そんな話は後日酒の肴にでもしてしまいましょうぞ。さて、もう一人同席させたい者がおりましてな」


 言いつつ席に着いたじーさまは、殿下の返事も待たずに食堂の外に声をかける。入って来たのは、まあ別に勿体ぶることもないけれど、帝都において四裔兵団を管轄してる、ミドウのじーさんだった。


 「ミドウ・メスアと申しましてな。帝都の四裔兵団で新兵教育をしとる男です。この際理力の連中の息がかかってない人手を出してもらうております」

 「そうか。俺は四裔に伝手は無かったからな。よろしく頼む」


 殿下は立ち上がってミドウのじーさんを迎え入れ、自分から手を差し出して握手を交わした。じーさんも流石に相手が相手っちゅーことでなのか、普段の傍若無人っぷりも影を潜め、堅い表情で応対していたんだけれど、それには理由があった。



   ・・・・・



 「さて、軽い朝食も済んだことなので始めるとしましょうや」


 サンドイッチに汁物という、本当に軽い朝食を終えて、じーさまが宣言した。

 実際、こんな時間にこれだけの人数分の食事をサッと用意出来るブリガーナ家の厨房は相変わらず優秀なのだけど、こんなところにも帝都が陥ってる混乱の影響ってものが見てとれて、正直わたしを満足させるほどのものではなかったのだった。


 「あなたも多少は時節に合わせて食い意地を調整しなさいな、まったく……」

 『そんなこと言いましても、わたし昨晩から何も食べてなかったんですよ?働きに応じた食事を要求するくらいの権利はあって然るべきじゃないですかー』


 じたばたと足掻いてはみたけれど、無いものは無いのだ。テーブルに並んだ他の参列者の皿を見回したけれど、とーぜんながらみんな空にしてあり、お裾分けを所望出来るような様子でもなかった。


 「コルセア様、切れ端でよければこちらをどうぞ」


 でもいつもおやつをくれるコックさんが、ロースト肉の端っこのところを持ってきてくれたので、わたしは大いに満足した。うんうん、やっぱり料理するひととは仲良くするに限るわね。


 「もういいかよ?」

 『あ、はいはい。これ食べながらでよければいつでもどーぞ』


 じーさまの顔がいささか苦り切っていたように見えたけれど、それも一瞬のことで一同を見回し、そして深いため息を吐いていた。

 この場にいるのは、わたしを入れて九人。年長ズは高齢な方から並べて、紐パン女神、じーさま、ミドウのじーさん、伯爵さま。若い方はお嬢さま、殿下、ネアス、バナード。あとわたし。若い方に入れるな図々しい、ですって?言ったらなんだけどね、わたし四周目はまだ生まれて二十年経ってないんだからねっ。主観的には数百年経ってるけどさ……ええい、うるさい。どうせあんたはわたしより年上でしょーが。


 「……ったく、あまり時間が無ェってのに呑気なもんよ。ま、長話になるのも上手い話じゃねえ、とくる。端的に言うとだな、四裔の連中が介入の構えを見せた。そして、国境が空になった。次に来るのは、何だ?」


 ぴたり。

 いや、流石にわたしでも咀嚼の動きが止まる。

 そしてミドウのじーさんの顔を見た。無表情だった。その奥で何を考えているのか……は、分からなかったけれど、少なくとも四裔兵団の動きによって、帝国をとりまく環境が悪化している、ということだけは分かったのだ。


 「……知らせが来てから動いたのでは遅かろうが、かといって現状儂らが動かせる兵力も無い。端的に言おう。近日中に、虎狼の如き周辺国が、帝国になだれ込んでくる」


 第二師団の狙い通り、ではなくそれ以上の勢いと数を以て、な。


 マジ顔になったじーさまは、隣にいる旧い知人を気遣うように一度視線をそちらに向け、それを悟られぬようにすぐに正面に向き直ると、殿下に向けてこう声をかけた。


 「殿下。儂らは、ある程度こうなるよう図ったのは第二師団だ、というところまではアタリをつけておりましてな。四裔の本隊がなだれ込んだりしなければ、国境線を維持したままむしろ帝権を掌握した理力兵団の指揮で、帝国がまた拡張主義をとった昔日の姿を取り戻すこともあり得た、と思っております。だが、現実はそうならなかった。四裔については、コイツが内情を把握しとりますんでな、どうも四裔は外部から唆されて、こういったことになっているらしい」

 「………」


 ミドウのじーさん、無言。なるほど、四裔兵団の関与で事態が悪化したとなれば、難しい顔になるのも当然か。


 「各地の駐屯兵団は帝権の指示がなければ身動きが取れない。そしてそれが無くとも動ける四裔は国境を離れてこの有様だ。理力兵団はもちろん話にならない。……一体、かのお人は何をしたいのですかな。恐らくそういった話もあったことでしょう。第二皇子、ビデル・クルト・ロディソン殿下は何を考えているのか、教えてくれちゃあ、頂けませんか?」


 テーブルを囲む一同の目が、殿下に集中していた。

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