第166話・悪役令嬢覚醒(むしろわたしが悪役でしょコレ)
なんか物の本で読んだんだけど、ゴーモンにこういうものがあったそうなのだ。
まず人間を縛り上げて、その頭の上に水滴がポツリポツリと垂れるようにする。寝られないんだかなんだか知らないけれど、そのうち発狂しそうなくらいに辛いそうな。
……なんでそんなことを思い出したかというと、目が覚めたのが水滴の落ちる音で、だったからだ。
『………うあー、ひでー目にあった……』
後ろから対気砲術の一撃食らって墜落したのを思い出し、頭を振る。
そういやそれからどうしたんだっけ?確かバナードが、よせばいいのに駆け寄ってきてわたしを助けようとしてくれて……。
『バナっ……バンくん?!』
慌てて本名を呼んでしまうところだった。今がどういう状況なのかが分かんないんだから、警戒は最大限にしておかねば。いやそれどころじゃない。バナードがわたしを引っ掴んで逃げようとして、それでなんか上手く行ったか行かなかったか分かんないけどつーかここどこよっ?!
幸いドラゴンは夜目が利く。なんかゴツゴツしたところに寝かされていたのは分かったし、慌てて飛び上がっても頭を打つよーなこともなかったから、狭い場所に閉じ込められている、なんてこともないハズ。全然安心材料になってないけど。
ぢーっと目を凝らして闇を睨む。そこに動くものは何もなく、やがて目が暗さに慣れて見えてきたのは、どう見ても。
『檻?』
……だった。要するにわたし、囚われの身。気絶してる間に半分とか四等分にされたりしなかったのは幸いだけど、っていうかそんなことになってたら多分帝都は今頃火山の火口みたいになってる。
いやまあ、とにかく命は落としてないんだし、それならまず気にするのはバナードのことだ。あの子どこ行ったのよ。逃げおおせているんならいいけど、一緒に捕まってたりしたら面倒だなあ。
とりあえず逃げるのが先決か、と檻のトコにふよふよと漂っていく。右と左の手でそれを掴むと、予備動作も無しにそれにかじり付いた。バナードの頭にやった時みたいな「がぷり」なんて生易しいものでなく、カタカナで「ガヴリ!!」って感じに。更にその上小刻みに歯茎を左右に軋ませて鋭い牙のよーな歯で檻を構成する鉄棒をポキリと………なんないわね。意外とやるじゃん。ていうか、奥歯がガタガタいってる。尻の穴から腕つっこんで奥歯ガタガタいわせたろか、ってこういうことなのかしら。違うか。
「…………」
とかやって遊んでいると、誰かが階段でも降りてくる気配。石造りのものとみえ、そう呼べるのならばわたしの今いる牢獄と同じ造りのようだ。ふむん。シチュエーション的に悪の親玉登場、ってトコかしらね。いいじゃんいいじゃん、ここでラスボスの顔を拝んでおくのも悪くねーわね。ていうか悪の親玉ならうちのお嬢さまが出てくるというのも筋としてはありかもしんない。そういえばどっかのルートにネアスがこーして囚われて、お嬢さまが「おーっほっほっほ!」とか高笑いしながら出てきたルートがあったような……あれ?どこかの同人ネタだったっけ?うーん、最近「ラインファメルの乙女たち」のことを思い出すのも減ってきているような気がする……。いやそうやって油断してるといきなりネタが引っ張り出されることもあるんだけど。ただもうわたしにとっては、こっちの世界のことの方が「リアル」だもんなあ。
「ご機嫌は如何かね」
『チェンジで』
「は?……い、いや、言っている意味がよく分からないのだが」
いやだってそうでしょーが。悪くても第二皇子、変化球で紐パン女神辺りが出てくりゃあ話としては面白いだろーに、第二師団団長のヒゲちゃびんが現れても捻りがなさ過ぎるったらもう……。
「なんだか謂れの無い誹謗中傷を受けたようが気がするのだが、気のせいかね」
『気のせいでしょうねー。で、なによ?』
なんか久々の登場で名前も忘れそうだけど、確かロンメル…?ロムメルだっけか。って名前の男爵。よく考えたら名前がロンメルっぽくて容貌がヒゲの同志書記長そっくりってのは誰に対する嫌がらせなんだろう。確か東部戦線では指揮とってなかったはずだけど。
「いやいや。別にこの際君に意趣返しするつもりも無くは無い、のだがね。ただ、旧交を温めるのにはちょうど良い機会だな、と思うのだよ」
『うん、何言ってんだか分かんないわ。それよりあんたに聞きたいことがあんだけど』
「ふむ、何かね?私に分かることなら良いのだが…」
ヒゲはたぁっっっぷり勿体ぶって鷹揚な態度を見せつける。この野郎、この際今までわたしにおちょくられた恨みを晴らすつもりなのらしい。嫌味なヤツ。けどまあ、聞いておかねばなるまい。
『……わたしがさ、気絶してた時になんであんたはわたしをぶっ殺したりしなかったワケ?』
「…………」
一転してヒゲの表情がつまらなさそうになる。これで確信した。バナードも囚われて、多分別の場所にいる。
こいつは、わたしの相棒がどこにいるのか、って聞かれるのを楽しみにしていたんだろう。そして、わたしの焦った顔を見たり、交渉の材料にしたりするつもりだった。何を引き合いに出すかはともかく、そんなドSっぷりをさらけ出した態度に付き合うつもりはない。あと相手間違えてる。こちとらアンタを秒で炭に出来る暗素界の紅竜ぞ。
『……チロリ』
「……な、何かね?!こっ、こちらは君の手下を人質に取っているのだぞ?!」
『あんたそれ自分で言ったら意味無いでしょーが。あと護衛も付けずにこのわたしの前に姿を現すとか、アホを通り越して単なる自殺志願者よねぇ……』
チロリ、と見せたのは舌なんかじゃなく、炎の吐息。檻は囓りたおせなくとも渾身の火球を呼び出せば、この地下を地下でなくすことくらいわけないのだ。
「あ……」
『まったく。で、ウチのバン君は?連れて来ないと今すぐ灰よ、灰。もう炭としての用もなさないくらいにしてやるからね。オラ、さっさと案内しろやダボがッ!!』
「ひいっ?!……ま、待て待て!お前……きっ、君を始末しないように言った方まで巻き添えにするつもりなのかね?!」
『わたしを始末しないように言った……方?それってもしかして、バッフェル殿下……のことよね』
「そ、そうだ!第三皇子が、君を殺めると帝国が滅びることになると仰ったのだ!!……さ、さあこれで聞かれたことには答えたぞ、ではこちらの問いにも答えてもらおうか!!」
『あんたまだ自分の立場ってものが分かってないみたいね。のこのこ一人でわたしの前に立ったってことはさあ………』
「こ、ことは……?」
『………ま、いいわ。とりあえずここから出してちょうだいな』
「……………」
小便こそ漏らしはしなかったけれど、ヒゲの男爵はヘナヘナとへたりこんで、滝のよーな冷や汗をかいていた。実際見ると本当に滝のように流れるのね。冷や汗なのに。
いや、別にそんな有様を見て仏心を出したわけじゃなくてさ。なんかつまんねーんだもん。パレットを相手に同じようなことしてるのと違ってさ。
「…………だ、出せと言われて出せるわけが…」
『………ふぅ~~~~~………』
「ひっ?!な、なにを………しているのかね?」
なにって。見りゃわかんでしょーが。
火を吹いてー、檻を炙ってー。そんでもって。
『ていっ!』
蹴りを入れると、円状に火で熱した部分がそのまま折れて、ちょうどわたしが通れるサイズの穴が空いた。そこからそそくさと出ると、まだ座りこんでるヒゲを睥睨してかわいくお願いした。
『……じゃあ案内してもらいましょうかッ!!殿下とウチのバン君のもとにねッ!!』
「頼む命ばかりは!私には五歳を筆頭に四人の嫁が……」
どんな外道じゃワレ。言い間違いにしても酷すぎるでしょーが。




