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第163話・悪役令嬢覚醒(ふりまわされるわたし)

 『けど、殿下をお救いすると言いましてもー、どうするつもりなんです?言うたらなんですけども、伯爵家の支援無しで何かしよーっても、学生の身で出来ることなんか限られてるでしょ』


 ネアスを呼んできて行われた作戦会議でそんな当然な疑問をぶつけると、お嬢さまは自分の部屋に居並ぶ一同……といってもわたしとネアスだけだったけど……を見回し、こう言ったものだ。


 「そうですわね……ミランデル大公の故事に倣おうかと思いますわ」

 『みらんでるたいこー?何モンです?』


 ふんよふんよ浮かびながら首を傾げるわたし。お嬢さまの部屋の応接室には三人だけしかおらず、わたしはちょうどソファに腰掛けた二人の間くらいにいたんだけれど、そのわたしの胴にネアスは立ち上がって手を回し、引き寄せる。お嬢さまは「あっ」とか言ってわたしを取り返そうとしたけれど、続いたネアスの言葉に仕方なく伸ばしかけた手を引っ込めて、なんだか物足りなさそうに、その手の指を自分の唇に当てていた。またかわえー仕草だわ。


 「ミランデル大公、っていうのはね?三代前の皇帝陛下の弟君なの。その頃はまだ帝国も建国の気風が強く残ってて、帝位継承の度に争いが起きていたんだけどね?」


 ネアスはわたしを自分のひざの上に乗せ、後ろから両腕を回して抱いてくれていた。後ろ頭のボリューミーっぷりはお嬢さまには負けるけど、その分おひざの座り心地は、尻尾の収まりがいい分ネアスの方が上だったりするんだな。


 「コルセア、ちゃんと聞いてる?」

 『聞いてる聞いてる。で、そのたいこーさまがどしたの?』

 「……もう、わたしとアイナ様の座り比べなんかしたらダメだからね?それで、ミランデル大公は四代前のフェデライヤ白狼帝の第三皇子で、当時の皇太子だった第一皇子とは次代の帝位を争う間柄だったんだ」

 『ふんふん』

 「帝国の歴代皇帝の中で最も苛烈であることで知られた白狼帝の皇子にしては、どちらもお優しく、民にも愛されたとの評判ですわ。そして、帝位を争うとされたのも、当人同士の意志ではなく、周囲が担ぎ上げようとした結果だった、とのことのようですわね」

 『……なんかどっかで聞いたよーな話ですね。それでお二人はどうなったので?』

 「結論を急ぎすぎですわよ、コルセア」

 「ふふっ、このお二人の睦まじさは、その後何年も経ってから戯曲や詩にまで謳われたんだよ。皇太子のルブファスクァ皇子は、長子ということで定められた跡継ぎの座が、病気になったことで危うくなって、ミランデル大公……っていっても後の話だけどね。だから当時はフバークス皇子でしたよね?アイナ様」

 「そうね。公爵に封じられてからの事績が有名だから、大公の名跡ばかりが世人の口に上がるのだけれど、このお話しの時はまだフバークス皇子でしたわね」


 ……この後、なんかいちいち脱線して話が長くなったので掻い摘まんでみると、だね。

 皇帝位の激務に耐えきれないと考えた第一皇子は、帝位を第三皇子に譲ることにした。そして第三皇子の、後のミランデル大公は自分はその器ではないと固辞して問題はなかなか決着を見なかった。

 ややこしかったのは、父親である白狼帝フェデライヤが跡継ぎのことにはとんと無頓着(というか身内のことに全然興味が無い人だったらしい、というのはお嬢さま談)で、やりたいようにやらせっぱなしだった……ということで俄然頑張っちゃたのが、各皇子の取り巻きたち。しかも、皇太子が降位する可能性があって芽が出てきた……と、第二皇子の周囲まで騒がしくなってきた。

 こちらの第二皇子は基本的にバカ殿だったらしく、世間や帝権からは相手にされてなかったけれどもそれだけに担ぎやすいってことなのか、取り巻きの方が頑張ってしまい、まあ跡目争いとしてはそこそこ膠着した状態、ということに。

 当人同士はライバルに譲る気満々、一番影響力の大きい皇帝は興味無し、その気になってるのは候補者たちの腰巾着ばかり……という状況に、当事者たちは危機感を覚え、とある芝居を講じたのだ。


 まず、第一皇子と第三皇子が計らって身を隠す。そして、世を儚んで隠居をほのめかす。若い身空で隠居言うても何だそりゃ、って話なんだろうけど、実際こんなことが続くようでは帝国も長くは在るまいとかなんとか嘆じる書き置きをして、姿を消した。

 残されたのは第二皇子。これがまあ、取り巻きれんちゅーにしてみれば都合はよろしいだろうけど、誰がどう見てもこのヒトを帝位につけたらヤバい!……と思わざるを得ない有様だったものだから、第一皇子と第三皇子に揃ってご帰還願う運動が帝国の各地で繰り広げられ、そして衆の懇願に応える形で第一皇子は皇太子に復位し、第三皇子は特例的に創設された公爵家に降って臣下となり、その生涯に渡ってよろしく兄帝を補佐し仕えた……という、お話し。


 『……言ったらなんですけど、第一皇子が皇太子降りるとか言い出したりしなけりゃ何も問題無かったのでは?』

 「うん、まあ実はそういうひねたこと言う人も結構いるんだけどね。第二皇子の扱いが酷すぎるとか」

 「ですが、帝室の者はかくあるべし、と教える教訓として広く知られた話ですもの。少なくとも帝国が民の支持を得ているうちは、帝室の方々が無視出来る話ではありませんわ」


 さりげなくわたしのフェザーハートを抉ってくれたネアスのぼーげんはさておき、まあ確かに今の状況と似たところがある気はする。表面的に、だけど。


 『……お嬢さまー、ビデル殿下が黒幕っぽい、なんて話も出てきてるのに、ちょっとなぞらえるには無理があるんじゃないですか?』

 「あら。ビデル殿下が悪役だなんてそんなこと誰も知らないのでしょう?でしたら故事に倣って動いて頂いた方がよいと思うのだけれど」


 つまりあからさまに故事にのっとって展開はする。それに従わなかったらどうなるか、って話なのね。お嬢さまも随分と悪い考えに染まってるわねー。まああのじーさまの孫なんだから無理もないけど。


 『分かりました。で、具体的にどうすればいーんです?わたしに無茶振りするにしても程々にしておいてほしーんですけど』

 「ふふ、それだけ理解してくれているのでしたら、相応の働きを期待しておりますわよ、コルセア」


 よけーなことを言ってしまった気がする。

 思わず息を呑んで、ネアスの腕の中で身を固くしたわたしに割り振られた任務というのが。


 ……第二師団の術者を襲って、ビデル殿下解放の主張を残してくる、ということだったのだ。

 いやもう、ほんと意味が分からんっ! 

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