第162話・悪役令嬢覚醒(まずはテロリストごっこ!)
『こぉんばんわぁ。暗素界の紅竜でぇす』
「ひぃっ?!」
今宵も帝都に、憐れな犠牲者の悲鳴が木霊する……。
屈強な男ばかりを狙う赤きトカゲの噂は、ここ数日帝都の一部団体関係者の心胆を寒からしめていた。
『くっくっく、呪うのであればきさまの生まれと所属団体を恨むがいい。あ、痛くないからだいじょーぶよ?えいっ』
「ぎゃっ!」
だから痛くない、っつってんでしょーが。そんなに怖がられると悪いことしてるみたいで気分が悪いわ。ぷんぷん。
『ヘイ、バン君。こっちの方は押さえたからさっさと縛り上げてちょうだいな』
「………」
無口な相棒に声をかける。憐れな犠牲者は身動きがとれず、相棒にされるがまま。言うてもただロープで縛られた上に猿ぐつわを
もうこんなことは何回目か。数えることなんか最初からしてないのでよく分かんない。けどまあ、回数を重ねたお陰で、相棒の手際はやたらと良くなっている。
「ええと……お、あったあった。ごめんね、これ没収させてもらうわね。後でまとめて返すから、しばらく預かるってことで、ガマンしてよ。んじゃ」
ロープで縛る前に取り上げるのを忘れてたけど、縛る前だと抵抗が激しいからなあ。まあ第二師団の連中は、武器形状でなければペンダントにしてることが多いから、大体なんとかなるけれど。
わたしは憐れな犠牲者の首からペンダントに模した触媒を取り上げ、むおー、とか、ふごー、とか喚いてるカレに優雅にウィンク。トカゲのウィンクなんてそう見られるもんじゃないわよ。ありがたく思いなさい。
『ほいじゃ、バン君帰りましょうか。それとももう一件くらいいっとく?』
「………」
バン君は覆面で覆われた顔を、今し方縛り上げた第二師団の術者に向け、何やら指を指している。
『え、何かあったの?話してくれないと分かんないんだけ……ああもう、分かったってば。そんなムキにならないでよ。ええ、確かに忘れてたわね。はい、これ』
バン君に投げつけられたブツを、縛られた男の右肩に引っ掛けてやる。それはちょうど胸の前を通って左の脇腹あたりに届く、輪っかにされた帯状のもので、まあ分かりやすく言えばタスキだ。この世界には存在しておらず、わたしが持ち込んで大流行り……しなかった。時々わたしが使って、お嬢さまやネアスにツッコまれただけ、という。なんでよー、いいものなのにー。
『ああはいはい、分かったってば。用事は終わったから、さっさと帰りましょ。じゃあね、名前も知らない第二師団の術者さん。あなた方が我々の要求を呑んでくれることを祈っているわね。ばいばーい!』
颯爽と飛び上がり、犯行現場を後にする。
まあこんな状況の中で一人で飲み歩いてるよーな不心得者だ。見つけてもらうまでに時間はかかるだろーけど、正直それはどーでもいい。見つかって、タスキのメッセージを読んでもらい、暗素界の紅竜の怖ろしさを身に刻みつければそれでいーのだ。わははははは……あいて。
『……一体誰よ、地上から石なんかぶつけてくんのは。悪いコントロールじゃないけど』
そう高くないとはいえ、空で動いている標的に石なんか当てるのはなかなかの技だといえる。そんな天晴れな輩の顔くらいは拝んでもいいかと振り向き地上を見下ろしたならば。
「………ッッッ!!…………ッ!!」
……覆面したままのバナードが、両拳を振り上げ怒り猛っていた。そういえば連れてくるの忘れてた。
わたしはバツの悪い思いを面に出さずに降下する。
『あんたなにグズグズしてんのよ。終わったんだからとっとと行くわよ』
「お前が俺を置いてけぼりにしてるんだろうがっ!!」(ちょお小声)
『あー、はいはい。わたしが悪かった悪かった。そんじゃ帰るわよー』
「後で覚えてやがれ」(小声な上にドスの利いた低音)
『あーあー、キコエナーイ』
バナードの両脇の下に腕をいれ、なんとか浮き上がる。
なんだかんだ言ってバナードも男の子だから、お嬢さまやパレットを持ち上げるよーにはいかない。あんたもうちょっと体絞りなさいよ、じゃなくて、もう少しパワー欲しいなあ、と思うのはバナードへの遠慮というより、純粋に、も少し強くなりたいなあ、と思ったからだったりする。まあ今やっているのは、そういうことなんだから。




