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第156話・女神の家庭訪問(要らんことすんじゃないわよっ)

 「あの、コルセア殿に来客なのですが…」

 「コルセアに?珍しいことがあるものね。………まさか街中でコルセアに迷惑こうむって、それで文句を言いに来たのではないでしょうね?」

 『お嬢さま、伯爵家の体面が大切なのは分かりますけど、いくらわたしだって知らない人にごはんのおねだりなんかしませんてば』


 それ知ってる人に対してはしてますって意味じゃないの、と言われはしたものの、それ以上のツッコミは控えた上で、お嬢さまは朝食の場に取り次ぎにきたメイドさんに詳しいことを話させていた。

 まあわたしへの来客、なんてものが珍しいせいで誰も彼も戸惑っていただけで(というか自分でも「誰?」って思ったんだけど)、なんと名乗っていたの、と尋ねて、パレットと名乗っておいでです、という返事を聞いたら、わたしだけ納得してお嬢さまやブロンくんはやっぱり「誰?」ってなっていた。


 『……あー、まあ頼み事してたんで。ちょっと行って話してきます……ぐべっ?!』

 「ちょっと待ちなさいな、コルセア。あなたに来た客なんて珍しいじゃない。わたくしにも拝ませなさいな」

 「あ、僕もちょっと興味あるな。いいでしょ?コルセア」


 いやちょっとは自重しなさいな、そこの失礼姉弟。わたしにだって個人的な友人知人くらいいますっての。あの紐パン女に友誼を覚えるかどうかは別に話として。

 といって、羽を掴まれては振り切って逃げ出すわけにもいかない。ほとんど連行されるよーな格好で、玄関までパレットを出迎えにいくことにする。


 「はぁい!来てあげたわよん!」

 『……だからなんでこっちに顔出してんのよあんたは』


 どれどれ、と頭を抱えるわたしの背中の後ろからパレットの方を見ているお嬢さまとブロンくん。

 伯爵さまとじーさま、何やら奥さままで忙しそーで子どもたちは朝食後も退屈している。登校の時間はまだだし。いやその前に食事の途中で抜け出してくるとか行儀作法どーなってんですかお嬢さま、ブロンくん。


 「いいじゃない、たまには。……こほん、初めまして。アイナハッフェ・フィン・ブリガーナと申します。当家の愛玩動物が日頃ご迷惑をおかけしているかと思いますが、このおもしろい生き物に代わりましてお詫び申し上げますわ」

 「はじめまして。ブロンヴィード・フィン・ブリガーナです。コルセアのお友だちなんですよね?おねえさんきれいですね」


 わたしを差し置き勝手なことを言ってくれますね、二人とも。ていうかブロンくんはこの紐パン女神にそんなエサ与えんといてください。いいですか、こんなナリしてますけれど、紐パンなんですよ?


 「こらコルセア。女性の着衣にイタズラをするものではありません。……それにしてもあまり見かけない衣装ですわね。外国の方なのかしら?」


 紐パン晒してやろーとスカートめくりのタイミングを計ってたら、お嬢さまに叱られた。ちえ。


 「いえいえおほほ。そんな綺麗だなんて。綺麗だなんて。……あ、少年くんもう一回言ってくれない?お姉さん張り切っちゃうから!」

 「いいですよ。きれいですね、お姉さん。あと『ひもぱん』ってなんですか?コルセアが口走ってたみたいですけれど」

 『あ、それはですねー…』

 「言わなくていいから!……え、ええとあたしはパレットと言いまして。なんかいー感じに女神とか…あわわ、ええと、その、行商人?みたいなことをしてますというかそんな感じで一つよろしく……」

 「パレットさん、と仰るのですね?ええ、コルセアの友人といういうことであればわたくしも同様に接して頂いて構いませんわ。コルセア。今日は学校の供も構わないので、パレットさんと過ごしなさいな」

 「あ、僕は自由登校で良いって話だったから、一緒にいてもいいかな?姉さん」

 「良いわけありますか!……いえ、そういえばわたくしも自由登校でしたわね。では……」

 『お嬢さま、ネアスが待っているんじゃないですか?登校途中で』

 「う………そ、そうですわね……ブロン、そろそろ支度なさいな。学校に行きますわよ」 

 「え?姉さぁん、僕は自由登校で良いって……」

 「おだまりなさい。姉を差し置いて楽しげなことをしようなどと許される所業ではありませんわよ!……それではパレットさん、ごゆるりとお過ごしくださいな。出来れば後ほどまたお会いしたいものですわね」

 「姉さん、引っ張らないで……あ、おねえさん?できたらまたあとでお話ししましょうねー!」


 ……何が楽しいか分かんないけど、妙にはしゃいだ二人を疲れた顔で見送るわたしと、ブロンくんに山ほど「きれいですね」って言われてご満悦のチョロい女。ちなみにお嬢さまに引きずられていくブロンくんに両手をブンブン振ってたのだから、もうどんだけー、って話である。


 「……あー、いいコたちよねー。どっかのツンデレドラゴンにも見習わせてあげたいわ」

 『言っとくけど、わたしはツンデレなんじゃなくて心底素直に心から正直に生きてるだけだからね。で、よ』

 「あー、はいはい。折角お金持ちの家に遊びに来たんだから、何か美味しいものくらいおごってよ」

 『ただいま当家は緊急事態につき、そんな余裕はありませぇん。ほら、いーからあんたとわたしの会話は高い所で、ってお約束になってんの。いくわよー』

 「え、ちょっと…コルセアちゃあん?艱難辛苦を乗り越えてあなたの欲しい情報掴んできた女神にこれは無いんじゃない…?」

 『話の内容次第ではわたしのおやつのお裾分けくらいしてあげるから。ほら、行くわよ』

 「うう……お布施って言葉知ってる?コルセアちゃん……」


 それはもちろん知ってるけど、そんな義理は無いし。

 ひとまず、屋根裏のわたしの部屋に引きずられていく紐パン女神であった。 

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