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第145話・殿下の趣味がよく分かんない…

 ていうか、殿下の女性の趣味って特殊なんじゃないですか?悪党がお好みとかわたしに全く目が無いじゃないですか。


 「そういう意味ではない。側にいると生涯退屈することが無さそうだ、という意味だ。見てみろ」


 そうだっけ?三周目の殿下は割と穏やかな生活送って平和な家庭築いてたハズだけど、なんてことは言えるはずもなく、殿下がテーブルに置いてこちらに見せたものに目を落とす。


 『はあ。拝見します…えーと、なになに?……臣、謹んでバッフェル・クルト・ロディソン殿下に具申致します……ふつーですね』

 「そんなところから飛ばした手紙なぞあのアイナが出すか、馬鹿者。いいから先を読め」

 『はいはい……』


 じー、と読み進めるわたしを、殿下は仕掛けたイタズラが成功するの待つ子どもみたいな表示なって見守っていた。うーん、そんな顔されると逆らいたくなるわたし……なんてやくたいもないことを考えつつ、先を読み進める。

 そして一通り最後まで読み進み、見慣れたお嬢さまの署名も、どこか楽しそうに文字の端が跳ねてるのを確認すると……ウチのお嬢さまの頭の具合が心配になった。いや、それ以上にわたしお嬢さまにどう扱われるんだろ、と不安になったんだけど。


 『………あのー、これ素直に読むと、わたしを好きなように使って思うがままに振る舞ってください、って読めますケド……もしかして読み方間違えました?それともお嬢さまどこか外国の言葉でコレ書いてます?あるいは何かの暗号ですか?』

 「少なくとも暗号の交換なぞした覚えは無いな」

 『でしょうねー。そんな回りくどい真似、あのお嬢さまがするはずないですし』


 分かってるじゃないか、と愉快そうに笑う殿下。こんな上機嫌な殿下見るのは久しぶりで、なんだか心配になる。

 ていうか、具体的にどーせーとは書いてないけれど、お嬢さまは二つの武器を殿下に渡したようなものだ。

 一つは、現今の対気物理学にとって一つの大きなブレイクスルーになりかねない、且つ権威をも傷つけようかっていう内容の研究。

 もう一つはその研究の論拠となっている、わたし。

 現界における竜の肉体を通じて示される、揺動効果の時間軸作用。

 それはぶっちゃけて言ってしまえば、暗素界に根源を持ち現界に存在する竜は、時を越えて好きなように姿形を変えられる、という事実を示す。

 そして暗素界に由来する竜としては最強とも目される紅竜の、わたし。

 その意味するところとは。


 『………あ、殿下。わたししばらく旅に出よーとおもいます。十年くらい』

 「させるか。自分で持ってきたものの話の大きさに尻込みしているのだろうがな、別にお前を使って気に食わない理力兵団を潰す、などとは考えておらん」

 『………ほんとーでしょうね?わたしが実際に成長してしまえるの、殿下はご存じなんですから』

 「それを自在に出来ればまた利用価値が生まれるのだがな。おい待て、冗談だ。本気にとるな」


 いやもう、頼みますよ?わたし思わず部屋から逃げだそーとしてしまったじゃないですか。

 はたはたと慎重に背中の翼をはためかせて、もとの位置に戻る。


 「実際、自在に姿を変えられるものでもあるまい。だがにおわすだけでも利用価値はある。アイナに伝えろ。手紙に書いてないことまで面倒は見れんぞ」

 『手紙にかいてないこと?』

 「そういえば分かるだろう。よし、行け。こちらはこちらで忙しいからな。アイナと伯爵によろしく伝えてくれ」

 『それは承りますけどー……結局ビデル殿下とは何を話しておられたので?』

 「ああ、実は第二師団の……おい、何を言わせる」


 ちえっ。引っかからなかったか。

 わたしは殿下が罠に引っかからなかったことを残念に思いつつも、安堵もしてたりしてね。こんな単純な手に引っかかるよーでは興ざめってもんじゃない。


 『そいじゃーわたしはお手紙配達終わりましたので、帰りますね』

 「気をつけて帰れよ」

 『別にわたしが気をつける必要無いと思いますケド、まあお気づかい感謝します。殿下もたまには伯爵家に遊びに来てくださいな』

 「いずれ、事が上手く運べば気易くそうする機会も訪れよう。その際は噂に聞く痩身の舞とやらを見せてくれ」


 なんですそれ、とマジメに聞いたら、わたしがダイエットするときに火を吹くことをお嬢さまはそう言っていたのだそうな。あのひと、わたしがいない所だと無茶苦茶言ってるな。まあいても無茶苦茶言うけど。


 扉を開けてバルコニーに出る。相も変わらず中庭であやしい連中が徘徊してた。アレに見張られてるよーなもんだし、殿下も気が休まらないだろーなー。


 『ではでは。殿下、おやすみなさい』

 「ふん。悪党は夜は眠らずに悪事を働くものさ」

 『あはは。多分、下でうろうろしてる人らの親玉もそーなんでしょーね』


 一緒にするな、とでも言いたげな殿下の複雑な顔を見て、わたしはひょいっと屋根に登る。

 そのまま屋根伝いにてくてくと歩いて、殿下の部屋からは大分離れたな、ってところから飛んだ。この辺りからだと中庭より帝城の外壁の方が近くに見えて、そっちはもう真っ暗。

 まるで闇夜の池に飛び込むように、わたしはその暗いところにダイブ。こんな時夜目が利くってありがたいわー……。


 『ん?』


 その暗闇のどこかで、光点が見えた気がした。

 イヤな予感がして立ち止まると…いや飛んでる時に立ち止まるとか何なんだって話だけど、ニュアンスとしてはそんな感じに停止して身を躱したら、すぐ目の前を筋状の光線が突っ切っていった。


 『ちょっ?!……こんなとこで対気砲術ぶっ放すおバカ野郎様はどこのどいつよっ?!』


 光点はその発射地点だったに違いない。その方角は確か、帝城の裏に広がる林になってる……そこからわたしを狙い撃ち?じょーだんじゃねーっ!!

 慌てて回れ右。もう外壁の外に出ていたから帝城に戻るみたいな格好になるけれど、そんなもん構ってる場合じゃない。とにかく身を隠さないと……と思った瞬間だった。


 『ていうかなんでわたしが狙われ……ぎゃっ?!』


 ……思い出す。

 いつぞや、お嬢さまに煽動された学生たちに追われ逃げ出した先で、バナードに撃ち落とされた時のことを。

 窓から飛び出したわたしに真下から飛んできた砲術が命中し、飛ぶ勢いを失ってふらふらふら~と落っこちていったのだった。


 『……一体、誰よぉ……こんな真似しやがんのはー……』


 その時とおんなじ状況に、せめて下で待ち受けてるのがバナードくらいのいー男であることを祈りつつ、わたしは気を失っていた。

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