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第14話・ご婚約おめでとうございます、お嬢さま

 お嬢さまとネアスちゃんが初等学校に入学してから二年の月日が経った。今日から二人は三年生。そんな、慶事とも呼べる日の夜、ブリガーナ伯爵家は静かな混乱に覆われていた。


 「話は以上だ。アイナハッフェ・フィン・ブリガーナ嬢。あなたには迷惑かもしれないが、どうかこの話、受けて頂けないだろうか?」


 青銅帝国第三皇子、バッフェル・クルト・ロディソン殿下御年十歳は片膝で跪き、お嬢さまの右手を両手で押し頂いて、そう告げた。

 お嬢さまはその意味を最初理解しかねた様子だったけれど、よくよく反すうして殿下の話の内容を理解すると途端におろおろし始め、それを見かねた伯爵に背中を叩かれてようやく我に返ると。


 「え、なんで…?」


 ……などとゆー、花も恥じらう乙女にあるまじき返事をしたのだった。というか、まだ九歳の子供に何を期待しろというのか、わたし。



   ・・・・・



 「アイナ様とバッフェル殿下のご婚約が成ったそうで、おめでとうございます!」


 …とゆーよーなバタバタがあった翌日、ネアスが早速話を聞きつけてやってきた。いつもなら登校は途中でお嬢さまに見つけてもらって馬車に引っ張り上げてもらうところなんだけど、今日に限ってはそれすら待ちきれないようで、朝から伯爵家にやってきて開口一番、ドア番の人にそうお祝いを申し上げたのだった。

 親友ルートの展開としてあらかじめ予想していたわたしは、玄関のホールでネアスを待ち受けていて、面食らったドア番さんに代わってネアスの応対をする。


 『ネアス、お嬢さまはまだ混乱しているから、少し気をつけてあげて。ね?』

 「あ、はい、ごめんなさい。コルセア、アイナ様は?」

 『なんかがっこー行きたくなーい、って駄々こねてる。あ、そうだ。一緒にお嬢さまを起こしにいこ?ネアスが顔を見せればきっと元気になるよ?』

 「そうですね。でもいいのかしら?」

 『いまさらでしょ、ネアスがこのお屋敷でお嬢さまの大親友として家族同然に扱われていることなんか』


 そう言ってやると、二年前より少し大きくなったわたしを、二年前よりは結構背の高くなったネアスはにっこり笑って抱え上げ、既に勝手知ったる、という様子でお嬢さまのお部屋に向かうのだった。


 「それにしても、急な話でしたね」

 『そうねー…昨日突然やって来て、どういったご用なのかと伯爵さまも困っていたところに、お嬢さまの顔を見るなりこれこれこーゆー事情だから、婚約してください、だもの』

 「殿下も学校では口数少なくて、落ち着いたたよりがいのある先輩、なんですけどね」

 『あはは、殿下も結構テンパっていたもんね、昨日の様子だと』

 「てんぱ…?」


 わたしの言い回しの意味が分からなくて首を傾げる気配が頭上でした。

 それはともかくとして、テンパっていた殿下が常に無い早口で語った、事ここに至った事情というものを掻い摘まむと、こういうことだ。


 ブリガーナ伯爵家は、歴史は浅いが対気物理学に関して貢献も多く、そして何よりも帝国の経済の重要な部分を担う、これから先の国家の大計を考えると無視出来ない存在だ。

 そこで言葉は悪いが、その伯爵家との繋がりを深めたい帝室の意向があり、丁度第三皇子の自分と伯爵家の長女であるアイナハッフェ嬢は歳も近く、娶せるのに丁度いいこともあり、この度このような仕儀となった。

 まだ互いに幼い身ではあり、伯爵家令嬢であるあなたにとっても突然のことだとは思うが、あなたに相応しい身となれるよう努めるつもりはあるので、どうかこの話を受け入れてもらえぬか。


 ……改めて思ったけど、ほんとにこれが十歳の子供の言うことか。わたしでもこんな言上出来ねーってのに。


 「そうですか…わたしもアイナ様のお家とは親しくさせていただいていますけれど、とても名誉なことだと思います」

 『そうねー。でもお嬢さまがどう考えているのか、よくわかんないのよ。ねえ、ネアス?なるべくならお嬢さまの力になってあげてね?わたしは竜だから細かいことまでは出来なくって』

 「ふふ、コルセアはずっと、アイナ様とわたしの最高の友だちでした。だからわたしといっしょにアイナ様を助けてあげましょう?」


 むふん。

 二年前のあの日以来、人語で会話が出来るようになったわたしは、お嬢さまやネアスとももっと仲良くなった。

 最初はおったまげてた伯爵家の人たちも、いつもお嬢さまと一緒にいたわたしにはよくしてくれて、特に厨房担当の人たちとは仲良くなって、わたしの食生活も大幅に改善された。タンパク質バンザイ。

 でも、人語を話す紅竜、というのは前代未聞とまではいかずともかなり珍しい存在であることには違い無いみたいで(ていうかそもそも竜って存在が人の中で生活してるってこと自体滅多に無いんだけど)、最初の頃は対気物理学の権威の先生が大挙して押し寄せたりとか、大学でかいぼーされそうになったとか、挙げ句の果てには某国のスパイに誘拐されそうになったとか。

 しかしそのわたしと二人によくない連中への対処については、わたし必殺の火炎放射にて撃退したとかまあいろいろあったりなかったり。

 それでも今は穏便平和に過ごす隠忍自重の日々、ってところなのだった。あー、自由に飛び回って好き勝手したーい。まあお嬢さまとネアスとその他諸々に迷惑かけるからやんないけど。

 あともう完全に「ラインファメルの乙女たち」のシナリオと関係無くなってるよね、この幼年期ルート。あのクソ女神もわたしに何をさせたいんだか。その後一度も顔を見せてないから丸焼けにする機会も無いんだけどさ。


 「アイナ様、ネアスです。お迎えに上がりましたので、学校にまいりましょう?」


 なんて物騒なことを考えていたら、お嬢さまの部屋の前に着いていた。

 ドアをノックするためにわたしから片手を離したものだから、ネアスの腕の中からずり落ちかける、わたし。

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