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第132話・ほんそーするドラゴンと皇子さま

 そういえば、行方不明のお嬢さまを探すのはこれで三回目だ。

 といっても一回目は、お屋敷からわたしを追いかけるつもりで飛び出したところを、逆にわたしが追いかけたんだったっけ。その時もあやうく誘拐されそうになったところを……って、懐かしいことでも思ってないと頭がグチャグチャになる。そうだ、今お嬢さまは何処にいるのか。お屋敷を出て帝都の上空を飛び回り、このよく見える目と学校からでもお屋敷の夕食の献立を察知できる鼻でお嬢さまを探す。探し回る。ついでに大声でお嬢さまを呼ぶ。『お嬢さまぁぁぁぁぁっ!どこですか─────っ!!』……って。ああ、これ校外実習で山から下りて来る時にバナードの巻き添えくって尾根下に落っこちた時にもやったんだっけ。そういえばあの時は特大の火の玉放って気がついてもらったんだっけ。今度も同じことすれば……。


 ビシュッ!!


 『わひゃぁっ?!』


 落ち着き無く飛び回ってたわたしのすぐ脇を、何かがもんのすげー勢いで飛んでった。その先を見送ると何かが、というか矢が放物線を描いて飛んでった。いや、こんな街中であんなもんぶっ放して危ないじゃないのっ!……と、地上を見下ろすと。


 「降りて来い馬鹿者!」


 殿下?

 騎乗していて、隣にはお付きっぽい人が弓を携えている。なるほど、それで矢を放ったのか。いや、ていうかこんなとこで何してんですか、とわたしは馬鹿者呼ばわりしてくれた殿下のとこまで降下する。


 『殿下っ、危ないじゃないですかっ!』

 「危ないのは貴様の方だコルセア!お前今何をしようとしていた!」


 いや、何をしようって、一発デカいのカマしてお嬢さまに気付いてもらおうかと…あ痛っ。


 「それが危ないと言っているのだ!いくら心配で矢も盾もたまらぬとはいえ、帝都の真ん中で破壊的行動に出るな!」


 あたた……うー、お嬢さまも殿下もわたしの頭気軽にポンポンどつき過ぎと違います?石頭なので痛い以外は特にダメージないけど。

 あと破壊的行動て。別に帝都を火の海にしよーだなんて思っちゃいませんてば。事と次第によってはそうなるかもしれないけど……って。


 『……あー、殿下』

 「なんだ」


 騎乗したまま憤怒の表情を解かないやんごとない方に、わたしペコリ。


 「……なんだ?」

 『えーと、お陰様で落ち着きました。そうですね、殿下だってお嬢さまが心配でこうしているのに、わたしまで野放図に振る舞っちゃダメですよね』

 「まるで俺が野放図に振る舞っているような言い草だな」

 『だって、お付きを一人つけただけで帝都を駆け回るなんて、そうとしか思えませんてば』


 気まずそうに殿下は黙ってしまった。すぐ後ろに控えたお付きさんはなんだか可笑しそうに方を震わせている。


 『あとネアスに知らせてくれたのも殿下だそうで。いろいろありがとーございます』

 「それは多少考えたのだがな。ともかく、俺の方でも手を回している。事が事だけに人知れず、とはいかないが。経緯を聞いた限り、身代金目当ての誘拐などではなさそうだな」


 移動しながら話そう、と殿下は馬を歩かせる。帝都の中でも馬車や馬の往来が許可された広い道なので、歩きの人とぶつかったりする心配は無いけれど、見るからに人品卑しからぬ人体が馬に乗ってる姿というのはなかなかに人目をひく。


 『もしかして心当たりでもあるんです?』

 「無いことも無い。今向かっている先だ。同行するか?」


 もちろんです、と頷く。ただ、お嬢さまを見つけても暴走するな、と釘は刺されたけれど。


 『ところでこちらは?』


 わたしにとってはフワフワって程度の速度で馬に並んで飛びながら、殿下の後に続いていたこれまた品の良い感じの青年に顔を向ける。


 「兄上につけられた監視の者だ」

 『そりゃまた穏やかじゃない話で。どーも。ブリガーナ家のコルセアです』

 「ユスフ・ベステルと申します。バッフェル様はこのように仰っておりますが、クバルタス殿下は弟君を心配して私を側に付けられましたので、誤解無きよう」

 『なんつーか、お疲れさまです』


 まあ殿下もそれほどイヤそうじゃないので、弓の腕の達者そうな青年のことは信用してもよさそう。第一皇子はいろいろ一筋縄じゃいかなそうだけどね。


 『で、どちらに向かっているので?』

 「ついてくれば分かる。……もう一度言っておくがな、いきなり暴れ出したりするなよ」

 『……あー、なんかどこに行くのか分かっちゃいました』


 そうため息をついたわたしの予想は、悲しいことに的中してしまったのだった。




 『出てこいやオラァッ!!』

 「だからやめろと言っている!お前は後ろに引っ込んでろ!」


 切歯扼腕して乗り込もうとしたら、殿下に引きずり下ろされた。

 ユスフは「後ろに控えているだけでも圧にはなりましょう」とフォローしてくれたけど、この建物見てわたしが冷静でいられるわけねーっての。

 そう、それは言わずと知れた、理力兵団第二師団本部。いつぞや連れて来られて無礼な対応をされた場所だ。その分イラつかせてあげたのでチャラにしてやってるけど。

 門構えのやけに威圧的な建物を、見てるだけでムカつくわたし。馬を下りた殿下にもいくらか苛立ちはあるようで、門番が一人引っ込んで取り次いでいる間も、馬のたてがみを乱雑な手付きで梳いていた。お馬さんもいい迷惑だ。


 『……殿下、この中に?』

 「という話だがな。あからさまに俺の耳目に入るように情報を流していたのが腹立たしいが」


 ふむん。

 しかし、主人公が誘拐されるとゆーのは乙女ゲーあるあるだけど、悪役令嬢が誘拐されるってのもなんか間違ってるなあ。いやうちのお嬢さまが今も悪役令嬢と呼べるかどうかは別として。

 殿下がイライラしてる分、わたしの方は落ち着いちゃって呑気にそんなことを考える。

 にしても、殿下が足を運ぶよーな真似をわざわざするところを見ると、狙いはお嬢さま自身じゃなくて殿下なのか。となると、帝位継承権からのメルベータ絡みの案件か。めんどうだなあ。

 落ち着きのない殿下の背中を眺めているうちに、さっき中に入っていった門番が戻ってきた。訓練されたキッチリした小走りでやってきて殿下の前に立ち止まると、敬礼をしてこう伝えた。


 「師団長がお目に掛かりたいとのことであります!ご案内しますので、中へどうぞ!」

 「結構。連れも入らせてもらうが、構わんな?」

 「はっ!殿下の意に任せよとのことです!」


 ……いいんかな?わたしもいるんだけど。

 バナードとそんなに歳も変わらなそうな、少年兵と言ってもいい感じの門番の前を、馬の手綱を握った殿下とユスフ、それからふわふわ浮かんだわたしが通り過ぎた。きっと後で大目玉食らうだろーなー。

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