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第129話・紅竜の目覚め!(反応はイマイチ)

 まあ何にせよ、研究は進めないといけないわけなのだ。


 バスカール先生の助言に従い、研究方法の見直しを進める。


 「見えないところに撃つんならいいんじゃないか?」


 いつもの弓状の触媒を使って、バナードは光の矢を放つ。まあ普通に砲撃になるよね。

 校舎裏に設けられた訓練場の的は、バナードの砲撃が命中して木っ端微塵。威力に申し分は無いけども、今はそれが目的じゃないし。


 「ダメじゃない。コルセア、あなたいつもどうやっているの?」

 『どうと言われましても。何度も言ってますけど、暗素界の自分に、この時間によろしくね、と。そんだけですが』

 「うーん、暗素界の自分に頼み事をする、っていうところから違うもんね。バナードくん、暗素界の自分の気配とか掴める?」

 「それそもそも対気物理学の根源理論になるからなあ……本職の研究者たちがこぞって研究してそれでも解明されてないことを、自分でやってみる、なんてのが無茶だろ」

 「コルセアがいないと何も進められない、というのも研究としては厄介ですわね…」

 『別にお嬢さまやネアスを置いていなくなったりしませんけどー』

 「そんなことは分かっておりますわ。勝手にいなくなったら地の果てまで探しに行って首引っ掴んで連れ戻しますわよ」

 『お嬢さま、デレるならもーちょい素直にデレてください』

 「あはは……」


 通常の授業が終わった後、学内でこんな真似してるといろいろ注目を浴びる。

 ていうか、許可を得ているとはいえ、学内で対気砲術ぶっ放すとかいろいろ無茶もいーとこなんだけど。


 「バスカール先生はなんつってたんだっけ?」

 「そうね、対気砲術に拘る必要は無いのではないか、とも仰ってたわね」

 「前にやった実験の応用が出来そうに思いますけれど……」

 「それをやったらまた公に出来ない研究になりそうだよな」

 「ですけれど、バナード。自身にではなく対象物の暗素界への働きかけについては、手法は確立しているのでしょう?であればその反応についても気界散知で反応を測ることも可能なはずです。ネアス、どうかしら?」

 「予測値と実測のズレを検知する方法をまとめれば良いんですね。多分可能だと思います」


 日の当たる屋外で、三人があーでもないこーでもない、と真面目に議論を続けてる。

 そんな姿を見ると、やっぱりなんとかしてあげたいなあ、とわたしとしては思わざるを得ないわけで。


 (あれ?)


 ただ、ぼけーっとそんな光景を離れて眺めていたら、遠い記憶の中に、未来で起こりうる過去の会話を思い出した。

 あれはー……確かムグなんとかって名前の研究者だったっけ。割と若くて、当時すっかり大っきくなってたわたしを見ても怖がりもしない妙なやつだった。

 そいつが揺動効果の研究してて、わたしに言ったことがあるんだよなあ……ええと確か、わたしが過去の姿に戻れる、みたいな。それで、また幼いっていうか小さかった頃の姿に戻れば人間の中で暮らしていけるんじゃないか、とか。

 当時はわたしもすっかりやさぐれてたから、余計なお世話よって突き放してたんだ。今考えるとまあ、それで気を悪くした風でもなかったのにかえってムカついてたもんだけど。

 …いや話を戻して。で、揺動効果のうち時間軸作用についての話だったんだ。確か。

 わたしが現界で紅竜として独立した言動が出来るのは、現界に存在してる対として、暗素界の姿を現界に投じているとかなんとか。あんまその辺のこと意識してないから、わたし自身は暗素界の自分を「なんか気難しいヤツ」くらいにしか思ってないんだけど。

 で、暗視界・現界の間にそもそもとして存在している対なるわたしは、紅竜の姿は暗素界に働きかけることで得ていることになる。

 これは存在のオリジナルになるのがどちらか、って話だから、例えばお嬢さまは現界に根源を有するのだからして、暗素界にお嬢さまの姿があるのだとしたら、それは暗素界にあるお嬢さまの存在から現界のお嬢さまに倣って姿を得ていることになる。

 まあそれを人間は実感出来ないのだからして、その仕組みとかを解明するのも対気物理学の目的なんだけど。

 で、だ。

 ムグスカが言っていたことによれば、時間軸作用の応用によって、過去の姿を取り戻すことが出来る、って話になる。

 そんな無茶な話があるのだろーか。あるのだろーな。

 というのもね、暗素界に根源があって、現界に対となる存在としてあるのが、竜という存在だからだ。

 現界に根源のある人間には、同じ事は出来ない。例えば昔の姿に若返る、なんてことが出来たらえらいこっちゃ、なのだ。


 『とはいってもねー……理屈で可能と言われても実際にそんなこと、どーすりゃ出来る……………出来たぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!』

 「うわっ!」

 「きゃあっ?!」

 「な、なにごとですの!!」


 三人からすりゃ、なんか一人でぶつぶつ言ってたわたしが、いきなり大声で叫んだようにしか思えなかったんだろう。

 バナードは地面にへたり込み、お嬢さまとネアスは抱き合ってこっちを見ていた。どさくさに紛れてなにやってんですか。


 「突然大声張り上げてあなたは何をやっているの!」

 『いや、お嬢さまっ!揺動効果の時間軸作用、証明出来ますって!』

 「は?」


 ネアスにしがみつきながら叱りつけるお嬢さまだったけど、その腕の中できょとんとしてたネアスは、わたしの言った意味を理解するとお嬢さまを振り解いてこっちに駆け寄ってくる。

 そしてそのまま浮かんでたわたしの両サイドを掴んで前後にぶん回しながら、いっそドン引きするよーな勢いで詰問してきた。


 「本当なのっ、コルセア?!」

 『ほんと、ほんと。だからちょっとわたし掴んで揺さぶるのやめて……あとお嬢さまが浮気されたぁっ、て落ち込んでるから』

 「え?あ、あのアイナ様?!」


 いや浮気された云々は冗談として、振り解かれて「がーん」みたいな顔にはなってたお嬢さまの元に戻ると、ネアスは「もうしわけありませんアイナ様!」とぺこぺこしてた。いやホント、珍しい姿ではあるんだけど、「わたしの一番はずうっとアイナ様ですから!」「いいのよ、ネアス…そんなこと分かっているのだから」「アイナ様……」「ネアス……」ってどさくさに紛れてなにやってんのこの二人。二回目。


 「……で、何が証明出来るって?」


 そんな愁嘆場を横目で眺めながらのバナード。

 こっちは立ち直りも早くて、冷静に話せそう。まあなんてーか、惚れてた女の子と恋敵が甘い雰囲気作ってる場面なんか見りゃ醒めもするわね。それはともかく。


 『いや、だから、揺動効果の時間軸作用の存在を。わたしでしか出来ないけど』

 「……マジで?」

 『マジで』

 「……マジかあ」

 『マジよん』


 冷静なのはいーけど、そうもあっさり納得されるのも面白くないっていうか……。


 「で、本当は何か叱られるようなことをしてたのを思い出した、ってところだろうけど。何やらかした?」


 全然信用されてなかった。

 あんだけ世話してフラれた時慰めてやった恩人の言葉を信じないとか、あんた人間として大事なもの少し見失ってない?


 「おめーこそ普段の行いを省みた方がいいと思うけどな。冗談はともかくとして…どういうことだ?時間軸作用の証明とかってなんかすげー理論でも思いついたのか?」

 『理論じゃねーわよ、実践よ、実践。この暗素界に根源を持つ紅竜たるわたしが、それを成すの!』

 「御託はいいから詳しく。はよ話せ」


 何だかんだ言いながら、バナードも気にならないわけではなさそうだった。むふん、そう注目を浴びてみればね。暗素界の紅竜コルセアの株も爆上がり、ってものよねっ!

 あ、その前に。


 『バナード』

 「なんだ?早く話せって」


 育ちはいいくせにイライラと貧乏揺すりをしながら急かすバナードたったけれど。


 『話する前にお願いがあんのよ』

 「おめーにしては珍しいな、お願いとか。なんだよ」

 『そこのね?』


 「アイナ様……」

 「ネアス……」


 『盛り上がっちゃってる二人、なんとかしてくんない?』

 「イヤだよ!俺の立場とか気持ち的に耐えられねーよ!」


 わたしだって馬に蹴られたかねーってば、としばらく押し付け合いをしましたとさ。どっとはらい。

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