06「シュレーディンガーの幽霊」
俺、不条理 京は幽霊である。浮遊霊となって暫く経つが、
油断していると今でも時折、自分が死んだという事実をつい忘れそうになる。
それ程までに幽霊としての仕事は、結構と『人間臭い』モノなのである。
それは、よく晴れた日のコト。
心地良い風が吹き、過ごしやすいであろう陽気。
「おう! おはよう、すだま。」
「―あ、京さん。はい、お早うございます…。はぁ…。」
「いい天気だなぁ。気温は判らないけど、歩いてる人を見ると暑くも寒くも無さそうだ。」
「そうですね…。はぁ…。」
「生きてりゃ、ピクニック日和ってトコかな。」
「そうですね…。はぁ…。」
「―すだま?」
「そうですね…。はぁ…。」
「―『あれ? 髪切った?』」
「そうですね…。はぁ…。」
「―よく見ると、すだまって可愛いよね。」
「そうですね…。はぁ…。」
「―円の面積の公式は?」
「半径かけることの半径、かける3と1割4厘…。はぁ…。」
「―俺の存在感って、円の面積以下だったのか? ショック…。」
「―あ、京さん。はい、お早うございます…。はぁ…。」
「ループしてるぞ、おい! どうした、すだま? 何かあったのか?」
「―今日、これから向かいます亡くなった方のコトを考えると、気が重くて重くて…。」
「ん? そんなに嫌なカンジのヤツなのか?」
「いえ、人柄云々では無くて、職業がですね…。」
「職業?」
「―はい。科学者の方なんです。」
「科学者?―科学者の幽霊だと何が気重なんだ?」
「頑固なんですよ。科学一辺倒で生きて来られただけに、幽霊や天界の存在は元より、
今、ご自分が幽霊になったコトすら認めてくれない方が多くて…。」
「あぁ、成る程…。そりゃ、確かに話が進まないな…。
目の前でUFOや宇宙人を見ても『プラズマだ!』『インチキだ!』『集団催眠だ!』って言い張る様な人種だもんな。」
「もう、宗教の違いよりも厄介なんです。宗教は色々違いはあれど、まだ根幹は似ていますから。」
「科学とオカルトは水と油だもんな。俺もすだまや、幽霊になった色んな人達にあれこれ聞かなかったら、
幽霊のコトとか、さっぱり理解出来ていなかっただろうしな…。」
俺は、飛んているのに足取りの重いすだまと共に、大学の敷地の隣にある研究所に到着。
そこには、まだ目覚めていない、横たわった幽体があった。
歳の頃は60代。痩せていて白髪で、眉はキリリと厳しく吊り上がり、小さい丸メガネを掛けている。
スーツの上から白衣を着ていて、漫画やアニメに出て来る、テンプレ的な科学者のイメージそのものだ。
「お、いたいた。―あれ? 眠ってるの…か?」
「多分、『死語の世界を信じない』方なんでしょうね。死んだらそれっきり、そこから先は無い。
幽霊なんかになるハズが無いと思っているので、こうして『自分が死んだ時の状態』が続いているワケです。」
「うーむ、この時点でかなり頑固そうだな…。」
「取り敢えず、起こしてみましょう。―もしもし、起きて下さい。」
―へんじがない。ただのしかばねのようだ。
いや、実際、死んでるんだけどね。俺もすだまを手伝って声を掛けてみる。
「もしもーし! 起きて下さーい!! おーーーい!!」
「―やっぱり起きませんねぇ…。こういう時、ご家族の声とかだったら、届くかも知れませんが…。」
「―いや、無理だと思うぞ。」
「え?」
俺は親指でクイッとある方向を指す。すだまはそっちを見る。
「あなた! 私を置いて先に逝くなんてぇええ…!!」
「パパ! 目を覚ましてよ!!」
「教授!! 奥さんと娘さんですよ!! 教授! しっかりして下さい!!」
そこには、死目に間に合わなかった妻と娘が今到着して、必死にこの科学者…、教授に声を掛けている。
側にいる助手の研究員であろう青年が、教授の最期を看取ったらしい。
だが、家族の声にも、こっちの幽体はビクともしない。全く目を覚ます気配が無い。
それを知ったすだまは、何とも言えない残念な表情をして項垂れた。
「ご家族の声すら無視だなんて…。本当に現世が終わったら『無』だと思っているんですね…。」
「『無』ねぇ。今イチ、ピンと来ないなぁ。」
無に還ると言われても、その状況がリアルに想像出来ない。
俺はすだまに、もう少し詳しく聞いてみる。
「『無』って、何も無いんだろ?」
「そうですね。私はガイドで、そっち担当では無いので、行ったコトも見たコトも無いんですが…。
聞いた話では、物質も、時間も、空間も無いトコロだそうです。」
「『空間』も無いのに、そういう『場所』があるのか? そこんトコロが良くワカラン。」
「ですよねぇ。私も良く分からないんですよ。そういう『何も無い場所』がある、と教えられただけで。」
「まぁ、物質が無いってコトは、そこは何も無い真空には違いないんだろうけどな。」
「何を言っとるんだ!! この馬鹿モンが!!」
「うわぁああああっっ!!??」
「きゃぁあああーーーーっっ!!!!」
突然、今まで何をしても反応の無かった教授の幽体が、いきなり怒鳴り声と共にガバっと起き上がった!!
俺はのけぞって驚き、すだまは悲鳴を上げて俺にしがみ付く!!
「まだ『無』というモノを理解しとらんのか!! この世に一般人の概念である『絶対無』など存在せん!!」
「え? ―え? え?」
「良いか!! 一般人が考える『無』とは、古典物理学における、おぼろげな思考の中だけで議論される真空だ!!
だが、それは『真空のゆらぎ』によって、現代物理学では否定されておる!! これは常識だ!!」
「は? …えっと…、」
「どんなにバリオンを排除して何も無い空間を作ろうとしても、必ず電子と陽電子のペアが生成される!!
現代科学で言う『真空』の定義とは、十分な低温状態下を想定した場合の、その物理系の最低エネルギー状態のコトだ!!
決して『何も無い』状態のコトでは無いし、その様な状態が存在せんのは観測によっても証明済みだ!!
だが!! 世のアホ共は未だに『古典物理学』と『現代物理学』と『宗教観』と『SFオカルト』の内容を混同しておる!!
それすら理解出来ておらんのに、その先を語ろう等とは無知蒙昧にも程がある!! 恥を知れ!!」
教授はスックと立ち上がり、堰を切った様にマシンガントーク…いや、バルカン砲トークを始めた。
俺には、教授の言ってるコトが難し過ぎて、半分も理解出来ていない。
隣を見ると、すだまが目をパチクリして『????』状態になっている。こっちは半分どころか、全然分かって無い様だ。
「但し!! ここで注意せねばならんのは、真空における場の期待値は0では無いというコトだ!!
これを真空期待値と言うが、電子に質量があるコトからも分かる様に、ヒッグス場が0で無い値を持っているワケだ!!」
「―京さん、この方は何語を話されてるんでしょう…?」
「いや、8割以上は日本語だと思うぞ? 意味がこっちに伝わって来ないだけで…。」
「そこ!! 講義中に私語は慎め!! それと、人の話は座って聞け!! この馬鹿モンが!!」
「「す、すみません!?」」
俺とすだまは教授のド迫力に圧倒され、何故か慌てて正座してしまった。
「よろしい!! 続ける!! ここで、原子の中の空間について説明しておく!! 原子は原子核と、その周りを回る電子から成る!!
ならば!! 原子核と電子の間の空間には何も無いというコトになるのかどうか!? ―貴様!! 答えてみろ!!」
「お、俺ですか!?」
「早くしろ!!」
「はっ、ハイ!! ―えっと、完全な無は存在しないと聞きましたから、何も無いというコトは無いのではないかと…。」
「フム。最初にヒントを与え過ぎたか。まぁ良い。その通りだ!!
何にも無いハズのこの空間には、光子や電子などの素粒子が突如として出現し消滅するコトを繰り返しておる!!
つまりだ!!素粒子の世界では、一瞬にしてエネルギー量が変動し、素粒子とエネルギーは相互変換可能だというコトである!!」
教授は止まらない。ブレーキの壊れた暴走トラックだ。
無理に止めようと入ったら、こっちが跳ね飛ばされ、轢かれて大怪我をする。俺達はおとなしく講義を聞き続けるしか無い…。
「ここで、エネルギーと質量は等価であり、変換が可能だという原則から…、おい! そこの女!!
エネルギーと質量が等価だと導き出した理論を何と言うか答えてみろ!!」
「ええっ!!?? ―わ、わかりません!!」
「この馬鹿モンがーっ!!」
「ひ、ひぃいいいーーっ!!!!」
「貴様!! 今まで何をやっておった!! 『相対性理論』位、幼稚園児でも知っておるわ!!」
「すっ、ずびばぜん…!! し、精進しばずっ…!!」
すだまはもう涙目だ。―いや、相対性理論は有名だけど、流石に幼稚園では教えないよ…。
「フン!! ちゃんと反省出来るならばそれで良い!! 問題は、学んだら忘れずに、今後に活かすというコトだ!! 分かったか!!」
「ぶぁいっ!!」
「良いか!! 現代の素粒子理論の基本概念では、全ての空間は『場』で満たされていると定義しておる!!
ここでは『場』の振動が素粒子であり、『場』の振れ方の大きさがエネルギーの大きさだと言って良い!!
そして、この『場』の振動が収まった状態、即ち!! エネルギーが無い状態を『真空』と定義するモノである!!
但し!! この『真空』が、本当に何も無いかどうかについては、一切触れないコトとなって………、」
―あれ? 教授のバルカン砲が止まった?
「―貴様等、誰だ!?」
「今頃かよーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
俺とすだまは床に崩れ落ちた。
「―フム。不条理 京に、すだま、か。―確かに、ウチの研究員にも生徒にもおらん顔だ。」
「ご理解いただけましたか…?」
「ウム。無関係の者を怒鳴りつけてしまったコトは申し訳無かった。
だが、諸君の科学知識が著しく乏しいのも事実。そこは粉骨砕身、勉強し努力せよ。
申し遅れた。私は伊知竜大学で教授をしておる。歩魯 不壊鎖だ。研究室の所長も兼ねておる。」
「あ、は、ハイ…。」
この教授、自分の非は非として認めて謝る潔さはあるものの、教授としての厳しさは譲らない。
頑固の中でも、是々非々で動く頑固だな。話は通じるが、自分の信念は曲げないタイプだ。
「あ、あのぅ…、今まで私達やご家族が呼び掛けていたのには無反応だったのに、何故いきなり目覚められたのですか…?」
すだまは怯え気味に教授に質問する。さっきのスパルタ科学講義がトラウマってる様だ。
「呼び掛けていた? 諸君が? 家族が? ―私にか? …フム、記憶に無い。」
教授は手を顎に当て考えているが、俺達や家族の声には、全く憶えが無い様だ。
「深く…、そう、私はとても深く眠っておった。―いや、正しくは睡眠に酷似した感覚というべきだな。
そんな中で、ぼんやりとだが、真空に関する実にアホな、嘆かわしい内容の会話が耳に入って来てな。」
「あ、あははは…。」
アホで嘆かわしい会話でスミマセンでした…。
「気になりだしたら、どんどんとその会話が明瞭に聞こえて来てな。間違いだらけで、もう辛抱堪らず声を挙げたのだ。」
―何と、家族の悲愛のこもった声よりも、科学話の間違いに反応して、それを指摘したくて目覚めたと。
筋金入りの科学者だな、この教授…。
「てっきりウチの劣等生共が、またいい加減な知識で会話しているのかと思ったのだが、一般人だったとは失礼した。
―しかし、あの認識は一般人とは言え、余りにも酷い。良いか? 『無』は不確定性原理により、仮想粒子が…、」
「ちょ、ちょっと待って下さい!! そっちの話は後で!!」
「―む? あぁ、いかんな。つい熱が入ってしまってな。」
冗談じゃ無い。教授に付き合っていたら、徹夜で科学講義を聞かされそうだ。
「教授の死因は…狭心症から来る心臓麻痺、ですね。」
すだまが教授の死因を読み上げる。教授職って色々と心臓に負担掛かるのかねぇ。
でもこの教授、心臓にスチールウールの毛でも生えてそうなカンジだけど…。
「死因? 誰が死んだ?」
「教授ですよ。」
「私か? ―成る程、そういうコトか。」
あれ?納得した?科学者って、死後の世界とか認めないのが大多数って聞いたのに。
それとも、この教授って、結構と思考が柔軟なのかな?
「貴様等、先日も来おった墓地霊園の勧誘だな!? スーツ姿では堅苦しいと見て、今度は学生アルバイトを寄越したか!?
大方、子供や孫の年代から説得されれば、私の様な世代がほだされて折れるとでも思ったのだろうが、甘い考えだ!!」
―はい、納得してませんでしたー。そう来たか…。
「死んで火葬されれば人間など灰にしかならんのに、それを恭しく墓に入れて拝んで何になる!!
そこには私の肉体も意識も存在せん!! あるのは、燃え残った骨のカルシウムだけだと言うのに、
まだしつこく、この私に高い墓石を買わせようとするか!! この詐欺師共めが!!」
うわぁ、科学的に論破して来たよ。
前に来た墓地霊園の勧誘員も、こんなカンジで門前払いされたんだろうなぁ。光景が目に浮かぶわ…。
「確かに私は狭心症を患ってはおった。そこまで私の個人情報を調べたコトは、敵ながら天晴と褒めてやろう。
だが、およそ利用価値の無いただの石のカタマリなぞに、鐚一文払うつもりは毛頭無い!! 帰れ!!」
うーん、にべもなしとは正にこのコト。こりゃあ無敵の勧誘殺しだ。
すだまが科学者を苦手にするワケだ…。
「―京さん、そういうコトでしたら、私、もう帰って良いでしょうか?」
「おいおい!!」
何を言い出すんだ、コイツは。
すだまは、また涙目になって、俺の服の裾を掴んで震えている。
昭和ひとケタ戦中派のすだまにとって、現代の進歩しまくった科学は、正に水と油。
老人がパソコン触れない様な、いや、それ以上に、生理的な拒否反応があるんだろうな。
だったら、ココは俺が何とかフォローしてやらないと駄目だよな!
―とは言っても、科学者教授にどう切り込めば良いんだろう…?皆目見当が付かない。
科学者なんだから、専門的な話を振れば、食い付いて来てくれる…かな?
「お、俺達、別に、勧誘に来たんじゃありませんって!」
「―本当か!? 私に嘘は通じんぞ?」
「マジ…いえ、本当です本当です。―ところで、あのぉ、教授は狭心症を患っていた、とのコトですが、通院はしてたんですか?」
「そんな暇などあるか!!」
「いや、大切でしょ!! ソコ!!」
「日々の研究と講義だけでも、1日が48時間あっても足らん位だ!! 医者になど掛かっとる時間は無い!!」
―典型的な研究中毒だ。健康度外視のフルスロットル生活じゃないか…。
さっき、教授を『ブレーキの壊れた暴走トラック』に例えたけど、訂正する。
この教授は『ブレーキを取り外してターボチャージャーを付けた爆走トラック』だ。
「せ、せめて、薬とかは飲んでいたんですよ…ね?」
「む? ―あぁ、一応、無理矢理に付けられた主治医はおる。ソイツからもらった薬は服用しておった。
先程も、アホなレポートを出して来おった研究員を叱り付けたコトで、肋骨の裏側に違和感を覚えてな。
―私の症状は、激しい運動やストレス等で起こるモノで、正しくは『安定性狭心症』という。覚えておけ。」
「は、ハイ。」
「そこで『硝酸イソソルビド』錠を服用し、胸部に『ニトログリセリン』テープを貼り、安静にしておったのだ。」
「え!? ニトログリセリン!? ―ニトログリセリンって、あの爆発する液体ですよね!?」
「その通りだ。まぁ、一般人の認識ではそれが主流だろうな。だが医療において、薬品としても有効に活用されておる。
ニトログリセリンは硝酸薬で、非常に短時間で血管を拡張する作用がある。効果が早いのが最大のメリットだ。
舌下錠やスプレー吸飲ならば、30秒から1分で効果が出る。秒単位を争う狭心症の症状にはうってつけと言えよう。」
この教授、医学にも詳しい。取っ付きにくいけど、知識はホンモノだ。ちょっと尊敬しちゃうな。
でも、医薬品の説明で、こちらの会話に乗って来てくれた。もうひと押しかな。
「でも、教授は胸に貼ったんですよね?」
「ウム。日頃のパターンから考えて、最初は大したコトなかろうと、硝酸イソソルビドだけ服用したのだ。
ところが、胸の違和感は大きくなる一方でな。しかし同時服用は避けるべきと考え、ニトログリセリンは胸に貼ったのだ。」
「成る程。賢明です。」
身体を大切にしていないにも関わらず、薬の同時服用はセオリー通り控える。こういうトコロは流石、科学者と言うべきか…。
「そしてソファーに横になり、安静にしておったトコロ、助手が主治医を呼ぶべきだと抜かしてな。
安定性狭心症は安静にしておれば治まるモノで、私は断ったのだが、あのアホは独断で呼びに行ってしまった。
―ここで記憶が途絶しておる。まぁ、このトコロ徹夜続きだったので眠くなったのだろう。」
心臓悪いのに徹夜とか、マジで身体のコト考えて無いんだな、この暴走教授…。
「―そう言えば、目覚めてからヤケに身体が軽い。胸にも違和感は無いし、症状が起きる気配も無いな。
それでついつい、諸君への講義が、息切れも起こさぬ饒舌となって止まらなかったのだがな。」
死んで肉体と切り離されたからね。これだけは『救い』だよな。
―でも、この教授のコトだから、ソレは信じないんじゃ…
「フム。あの主治医、ヤブだヤブだとばかり思っておったが、ここで新薬でも使ったか?
―確か、PCSK9阻害薬とかが実用化されたと聞いたな。ソレか? ―フン。また高い薬を使いおって…。」
はい、やっぱりこう来ましたー。ここまで来ると、逆にキャラ立ってて面白いわ。
しかし、この教授、思った以上に手強い。
―見ると、すだまが俺の服の裾を掴んだまま、背中に隠れている。
「京さん、頑張って下さい!」
「お前の仕事だろ!? 本来は!!」
「ふぇええええ!!」
くっそ、これじゃ漫才だ。兎に角、この教授に現実を思い知らせないと。
もう、あの手で行くか。
「教授、お気の毒ですが、本当に教授はお亡くなりになったんですよ。―あれを見て下さい。」
「ウン?」
俺は、教授の亡骸に泣き付いている奥さんと娘さん、傍らで沈痛な面持ちの助手と主治医が佇む部屋を指差した。
「あなた…、あれ程、ちゃんと身体を労って、お休みを取ってって言ったのに…!」
「パパ…、もうすぐ私の結婚式なんだよ? 来て欲しいって言ったでしょ!?」
「教授…無念です。研究所の皆に、何と言えば良いんですか…。」
当の教授は、顎に手を当てて、その光景をじっと見ている。まるで他人事の様に。
「―フム。この茶番はさて置き、」
「さて置いちゃうんですか!? いや、置いちゃ駄目ですよ!」
「こんなモン、助手と主治医がグルになって仕掛けたドッキリで、どうとでも出来る。
それよりも不可解なのは、これだけの近距離にいながら、何故こいつ等は私達に気付かないのだ?」
「それは、俺達が幽霊だから…」
「確か、カナダの軍服メーカーが、ステルス・スクリーンを開発したと言っておったな。ソレか。
一体、どういう伝手でココまで持って来たのか。あの会社とは面識が無かったハズだが…。」
うううう、やはり手強い! ―何の!負けてなるモノか!
「―じゃあ教授、ご家族に触れてみて下さいよ。」
「ウン? ―成る程。触れば否応無くこちらを認識するというモノだな。―よし。」
教授は、いまだ泣き続けている家族に歩み寄って行く。
「―て言うか、どうして今まで教授の方から声を掛けたり、触れたりしようとしなかったんですか?」
「馬鹿モン! まずは『観測』が科学の基本だ! 私が介入すれば『観測者効果』で結果が変わってしまう! 常識だ!」
「―マクロ世界で、そんな常識、初めて聞きました…。」
奥さんの背後に立つ教授。そして、おもむろに手を延ばす。
勿論、俺達は幽霊なんだから、教授の手は奥さんの身体をすり抜けた。
「―うぉっ!?」
流石の教授も驚いた様だ。繰り返し何度も手を延ばしては、すり抜けるのを確認している。
さぁ、教授!これが現実ですよ!!
「―こっ、これは!!」
「そうです!! 教授!! 俺達は幽―」
「トンネル効果か!!!」
駄目だーーーー!! この教授ーーーーー!!
「まさか、こんなマクロな世界で、原子が何兆と詰まったこの肉体で、トンネル効果が連続して発生するというのか!?」
「えーと…、発生するんですか?」
「するワケ無かろう!!」
「ですよねー!!」
「だとすれば、考えられるコトは2つに1つ!! 私かこいつ等のどちらかに実体が無い場合だ!!」
―あれ? 風向きが変わった?
おぉう!! 正解にグッと近付いて来たんじゃない!?
「しかし、屋外の光がこいつ等を照らし、影を作っているコトからも、この光景がホログラムで無いのは明白だ!!
ならば私が実体を持たないのか!? ―だとすれば、今こうして思考している私は何なのだ!? 常識ではあり得ん!!」
あぁああ、また遠ざかった。科学の枠外の可能性は考えないんだな…。
「京さん、やっぱり無理っぽいですよ…。」
「だから! コレ、お前の仕事だからな!? すだまも何か考えてくれよ!!」
「ふぇええええ!! そう言われても~。」
「―兎に角、この教授は、科学がこの世界全ての理だって思ってる。それ以外の世界があるって知らないんだ。
だから、自分の得た常識だけで考えているから、いつまで経っても答えに辿り着けないんだと思う。」
「―あぁ、そう言われると…、何となく、分かる気がします。」
「うん?」
すだまが顎に人差し指を当てて、小首を傾げつつ俺に言う。
「ほら、お勉強でもそうじゃないですか。『蝶々』って、漢字を知らない頃はひらがなで『てふてふ』って書くしか無くって、
漢字でソレを指し示す文字があるなんて、思いもしませんでしたし…。」
「―チョイ待ち。…『てふてふ』って、何!?」
「あ、そうでした。―戦後に今の仮名使いに改められるまでは、『ちょう』は『てふ』って書いたんですよ。
他にも『お前』は『おまえ』では無く『おまへ』と書きました。お醤油は『しょうゆ』では無く『せうゆ』ですね。
ほら、調味料の『さしすせそ』で、『せ』がお醤油なのに字が一致していないのは、この名残です。」
「成る程ね。流石は昭和ひとケタ戦中派…。いや、今はそれは置いておこう。」
「それとか、算術でも『1割る3』が、分数を習うまでは、少数で『0.33333…』って、書き切れなかったじゃないですか。
それが、分数っていう新しい数字の世界を知って、初めて『1/3』って端数まで含めた数として書き表せる様になったんです。
―京さんの言ってたコトって、何だか、ソレを思い出しました。」
算術…!! 新しい数字の世界…!! それだ!!
すだまの話で、この教授の攻略法が見えた気がするぞ!!
俺は、部屋のあちこちから自分の亡骸を観察している教授に向かう。
「教授、教授!!」
「む? 何だ!? 今、私は忙しいのだ!!」
「直角を挟む2辺の長さが1の場合、この二等辺直角三角形の斜辺の長さは幾つでしょう?」
「『ルート2』に決まっておる。こんな時に何を…、」
「では、小学生の算数でそれを解こうとしたら、どうなります?」
「それは無理だ。小学校で『ルート計算』は教えておらん。」
「ですよね。―では、中学校数学で、2乗したら『-1』になる数は、どうします?」
「それも無理だ。『i』を用いる『虚数解』は高校で習うモノだ。―君は、さっきから何を言っておる?」
「それじゃあもう1つお付き合い下さい。さっき、教授の講義でも出て来た相対性理論の話です。」
「ウン!?」
「相対性理論によれば、光速は不変で、これより速いモノは無く、光速は決して超えられない…でしたよね?」
「その通りだ。それがこの世界を支配する『特殊相対性理論』の基本だ。」
「それって、今、教授が言った通りの『この世界』の話ですよね?」
「フン。違う世界…、特異点や別次元なら特殊相対性理論が破綻する、と言いたいのか?
そんな議題、中二病とやらに毒された馬鹿な生徒共が、お約束の様に絶えず出してくるので、飽き飽きしておるわ。」
「教授はどうお考えで?」
「―可能性は否定せん。しかし、実際にそういう世界を観測出来ないのであれば、それは実在しないのと同意だ。
それは、地下にレアアースがどれだけ埋まっていても、それに気付かなければ何も無いのと同じだ。
ゴリラもパンダもかつては未知の存在で、実際には存在していても、その様な動物は誰も知らなかった。
つまり、知らない人類に取っては、ゴリラもパンダも存在していなかった。観測されてこそ事象は現実となるのだ。」
「そこですよ教授!!」
「―ム!?」
「えっと、最後まで聞いて下さいね? ―教授はお亡くなりになって、今、幽霊になっています。
だから、ご家族や助手や主治医の皆さんにも認識されないし、身体もすり抜けてしまいます。
つまり、これって『未知の世界』に入ったワケですよ。」
「…………。よろしい。続けたまえ。」
「小学生がルートを知らない様に、中学生が虚数を知らない様に、相対性理論が違う次元では、それが破綻する様に、
教授を含めた人類は『この幽霊の世界』を知らないんですよ。この世界はゴリラであり、パンダなんです。」
「フム……。」
教授は顎を手で擦りながら、俺の話を一笑に付したりもせず、至極真面目に聞いている。
「つまり、君の言うトコロは、虚数は実数直線上に無いため、一般人の感覚として『存在しない数』と捉えられがちだが、
それも実数の対、実二次正方行列、多項式環の剰余環の元としてならば実現し、『認識出来る』であろう、というコトか。」
教授が何を言ってるのかチンプンカンプンだが、どうやら理解を示してくれている様なので、この流れに乗っておくコトにする。
「―どうでしょう? 教授?」
「―こうして自分の目で観測していなければ、君の主張はレポートにしても赤点再提出モノだ。」
「うへぇ。」
「だが、既存の常識を超えた世界の可能性を物証も無しに否定してはならんし、こうして見る現実は、私を説得させるに充分だ。」
「本当ですか!!」
「京さん! やりました!!」
「ドラえもんやウルトラマンがどんなに荒唐無稽であっても、その設定が存在するならば、その世界基準で考えるべきだからな。
科学は未知を頭ごなしに否定する学問では無い。未知を発見し、不可能を可能たらしめ、夢を実現するための学問だ。
自分にとってどんなに不可解な現実を突き付けられたからと言って、それから逃げるのは科学者では無い。」
―この教授、ただ頑固なだけの人じゃ無かった。科学が何なのか、それを本当に知っている男だ。
言われてみれば、ここまで教授は、既存の科学で何とか理解しようとしてただけで、全否定したコトなんか無かったもんな。
やっぱり、何かに人生を懸けてひたむきに努力し続ける姿って、カッコイイなぁ…。
「幽霊等というオカルトは兎も角!! 今、私の置かれている状況が、未知なる世界だというコトは認めよう!!」
―うん、やっぱ駄目でした。まぁ、以前よりもマシになったと喜ぶべきか…。
そして、ようやく幽霊としての役目とか、あの世コース、現世コースの案内とかを、すだまが教授に説明した。
ここで幽霊に関して議論すると、またいつまで経っても話が進まなくなるので、
教授には『死亡して3次元から切り離され、不可逆な別次元世界に来た』という独自の解釈で、一応納得してもらっている。
「フム。天界というのは、完全に三次元世界から切り離された空間か。それはなかなかに興味深い。
そして今こうしているのは、三次元世界と、それに干渉しない世界の我々が重なり合った状態だと。
―ム? 重なり合ったというコトは、これは不確定性原理、波動関数で説明が付くのでは…」
「教授、考察は後でいくらでも出来ますので。何卒、今はご勘弁。」
「ウン? そうか? ―ならば続けなさい。」
「それでですね、教授は『あの世コース』と『現世コース』のどちらを選ばれますか?」
「そうだな…。諸君の話によれば、色々な過去の科学者が、死語、その『天界』とやらに居るそうだな?」
「みたいですよ。相対性理論のアインシュタインもいるんじゃないですかね。」
「本当か!? 小川正孝氏もいらっしゃるのか!? 長岡半太郎氏は!? 朝永振一郎氏は!? 湯川秀樹氏は!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい、教授!! だ、誰ですか?その人達?」
「馬鹿モン!! この世界を変えた日本の偉人の面々を知らんのか!! 貴様等、それでも日本人か!!」
「ひぃいいいい!! 京さぁああーーーん!」
すだまは再び、俺の背中にダッシュで隠れてしまった。
エスケープがどんどん手慣れて来ているな…。
「まぁまぁ、教授。怒ると心臓に悪いですよ。」
「ウム? そうだな。―いや待て、もうこの身体は心臓が鼓動していないのだろう?」
「うっ、気付いちゃいましたか。…適応能力、意外と高いな。」
「何か言ったか?」
「い、いえ別に!! ―えーっと、つ、つまり、教授は成仏して、天界にいる偉人達と会ってみたい、と?」
「ウム。―だが、本当にその面々がおられるのか? 行って『いなかった』では堪らん。確かめる方法は無いのか?」
「そうですねぇ…。なぁ、すだま。何とか出来る?」
「え、えっと、す、少しお時間をいただければ、天界に確認が取れると思い…ます。」
「どの位掛かるのだ?」
「あ、あの…、こちらからお伺いを立てて、承認されれば、すぐに情報は開示されるハズで、」
「そんなコトは聞いておらん!! 私は『どの位掛かる』かと聞いておるんだ!!」
「ひぃいいいい!! 京さぁああああーーーん!!」
とうとうすだまは、俺の着ているジャケットに頭を突っ込んでヤドカリ状態になってしまった。
かくいう俺も教授の剣幕にビビっている。正直、教授が矢継ぎ早に挙げた人物の中では、湯川秀樹くらいしか聞いたコトが無い。
「き、教授、ここは確認出来るのを待ちましょうよ。それまで何かお話でも…。
―あ、そうだ! さっき話に出てきた湯川秀樹さんって、確か、ノーベル賞取った方ですよね?」
「正確には『ノーベル物理学賞』だ。氏の提唱した『中間子論』が無ければ、現在の科学は成り立っておらん!!」
―そんなに凄い人だったんだ。ノーベル賞って、平成になってから日本がバカスカ取り出したのは知ってるけど、
それ以前は、ずーっと欧米の独占状態だった気がする。
俺はその疑問を教授に言うと、教授はメガネを中指でクイッと上げ、怒りとも、悲しみとも付かない顔で語り出した。
「それはノーベル賞がそもそも欧州で創設され、選定も欧州の科学者中心で行われてきた歴史があるからだ。
当時の欧米は、まだアジア諸国を軽んじ、気にも掛けていなかったコトで、日本を始めアジアの評価が蔑ろにされて来たのだ。」
「えぇええ!? 科学の功績って、別に、国とか人種とか関係無いじゃないですか!?」
「その通りだ!! しかし、当時の選定会は、『アジアにノーベル賞は早い』とまで言って認めなかった!!
それで受賞を逃した悲劇の日本人科学者が、1926年の医学生理学賞候補だった市川孝一氏と山極勝三郎氏だ!!
しかも、そのお2人を退け受賞した相手の研究は、後年、内容にミスが発覚し、
全く一般性の無い、受賞基準を満たさないモノだったコトが分かったというオチ付きでな!!
こういった歴史を知らぬ一般人は『昔の日本は、科学では発展途上国だった』等と、勝手に卑下して思い込んでおる!!
実に嘆かわしい!! 本来ならば、日本のノーベル賞受賞数は、あと10個は増えていたであろうと、私は推測する!!」
―こりゃあ、ちょっと闇の話を聞いちゃったなぁ…。
人類への貢献なんて、誰がやっても良いだろうに…。そういう時代だった、では済まされない問題だよなぁ…。
「それでも!! 偉大なる先人達は、研究と探求をやめなかった!! 人生を懸けて真理を追い求め続けた!!
私は、そんな先生方の末席を汚さん様に努力しなくてはと思い、ここまでやって来たのだ!!
偉大なる方々にお目通り願えるのならば、科学者の端くれとして光栄なコト、この上無いと思っておる。」
「―その気持ちは、分かります。」
この前、アニメーターの道賀さんも同じ様なコトを言っていた。一生懸命な生き様って憧れるモノがあるな…。
「―あ、あのっ! 確認が終わりましたっ! これが現在、天界に滞在されている科学者の名簿です!」
俺が教授に話を振ってた間に、天界の調査が終えたらしい。
教授は身を乗り出して、勾玉から映し出された科学者名簿を見る。
「おぉおおおお…!! これは錚々たる顔ぶれ!! いや、素晴らしい!!」
俺も名簿を見てみたが、誰が誰やらサッパリ。でも、教授の興奮度合いを見るに、科学者なら分かる有名人ばかりみたいだ。
と、教授が名簿を指差しながら、すだまに質問する。
「君!! これは日本人だけかね!? 外国のは!?」
「国籍が日本人の方だけです。日本の天界は、日本人しか暮らせませんので…。」
「むぅ…、それは残念だ。あぁ、それとだな、既に亡くなられているにも関わらず、
この名簿に載っていない方々もかなりいる様だが、それはどういうコトだ!?」
「そうですね…。そういう場合、『あの世コース』を選ばれずに、まだこの下界にいらっしゃるか、
既に魂の浄化を終えて、生まれ変わり、この下界で次の人生を送られているのかと思われます。」
「―何!? まだこの世界におられるというのか!?」
「成仏出来ない未練をこの世に残していたり、ご家族や知人の守護霊となったり、理由は色々ですね。」
「ううむ…。君!! こちらにまだ残られている方々の名簿は見られるかね!?」
「はい。―えぇっと…あ、これです。どうぞ。」
「―ふむふむ。おぉ!! 大御所が何名かおられるな!! これは是非とも直接お会いして、ご挨拶したいモノだ!!」
ウッキウキでテンションが上がりっ放しの教授。俺は気になったコトをすだまに聞いてみる。
「―なぁ、すだま。これって個人情報保護とか、その辺どうなってんの?」
「そんなモノ、ありませんよ。」
「え!?無いの!?」
「死んだら平等ですからね。ほら、学校の生徒なら、その学園名簿は全部閲覧出来るじゃないですか。あれと同じです。」
「死んだら人類みな兄弟。…いや、みな同級生、ってか。―まぁ、幽霊じゃ、名簿使った犯罪も起きないだろうしなぁ。」
幽霊になった誰かが、同じく幽霊になっている生前に恨みを持ってた誰かを、この名簿で調べて居場所を探っても、
幽霊じゃ殴るコトも蹴るコトも勿論、殺すコトも出来ないもんな。調べられてもデメリットが無いってワケか。
「―君!! 決めたぞ!! 私は『現世コース』にする!!」
暫し考え込んでいた教授が、晴れやかな顔で、そうすだまに言う。
「え? あの世の科学者の皆さんにお会いするのではないのですか?」
「うむ。行く行くはそうしたい。だが!! この世界にまだ科学の大御所がおられるのであれば、まずはそちらを訪ねるのが先だ!!」
「まぁ確かに、天界行っちゃったら、もうこっちには、お盆以外は戻れませんからねぇ。」
「皆々様、日本各地に散っておられる様だが、不眠不休でも平気なこの身体があれば問題は無い!!
そうと決まれば行動だ!! 私は科学者として、これから挨拶行脚に行く!!」
「えぇ!? 今からですか!?」
「時間は待ってはくれん!! 幽霊だろうと何だろうと、時間は金よりも価値がある!!
それではな。諸君らには世話になった。」
「わ、分かりました。その様に手続きしておきますね。―道中、お気を付けて。」
「教授、お達者で。」
「ウム。」
軽く頷くと、踵を返し、迷うコトなく矍鑠とした歩みで進んで行く教授。
きっと行った先々で、過去の偉人達と出会っては、あのテンションで科学談義に何時間も花を咲かせるのだろう。
―と、教授は立ち止まる。そしてポツリと言った。
「―だが、その前にやるコトがある。私の葬儀で泣く妻をなだめ、娘の結婚式を見届けてやらねばな。」
「教授…!」
「何事も、家長としてのケジメは必要だ。」
教授…。堅物に見えて、それでもやっぱり『人』なんだな。だから家族も助手達も、あんなに慕っていたのだろう。
―あ! もしかして教授は、このために『現世コース』を選んだんじゃ…?
教授はくるりとこちらへ振り返る。そして俺に向かって、こう言った。
「そうそう、君の幽霊に関しての先程の主張だが、結果的にはとても良かったぞ。A評価…とまではいかんが…、」
教授はメガネをクイッと上げ、
「―まぁ、花マルはくれてやろう。」
「あ、ありがとうございます!!」
「―あ、あのぅ、わ、私は…?」
すだまが、おずおずと尋ねる。
「君はもっと精進せい!」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
大きな声で活を入れられ、身をすくませるすだま。
「はーっはっはっはっはっは……。」
そして豪快に笑いながら教授は再び歩き出し、俺達が唖然と見送る中、雑踏の中へと消えて行った。




