観たら虜になる映画
その日、私は付き合い始めて半年になる彼氏とデートに出かけました。
「オッス、舞子!待った?」
「あっ、勇太。全然待ってないよ。なんか今日の赤いシャツ始めて見たかも」
「でしょ~?昨日何気なく服を見ていたら、いいやつを見つけて、思わず買っちゃった。それよりさ、今日はネットで話題の、観たら虜になる映画ってやつを観に行こうぜ」
「虜になる映画って、どういうこと?」
「うーん、俺もよくわからないけど、とりあえず面白いんじゃね?上映している映画館は少し歩いたところにあるから、移動しようぜ」
「やっと着いた。なんか分かりにくい場所にある映画館だな」
「映画館のせいにしないの。勇太が方向音痴なだけでしょ」
私たちはチケットを購入し、勇太が「何か食べ物買ってくるから中で待ってて」と売店に向かいました。ロビーに残された私はこれから観る映画のポスターを眺める。ポスターを見た限りでは、登場人物は緊迫感のある表情をしており、私はサスペンスかアクション映画なのかなと、少し期待して薄暗い劇場に吸い込まれた。
「お待たせ。ポップコーンの味を何にするか悩んだわ~」
「遅いよ勇太。上映開始ギリギリじゃない。スマホの電源切るの忘れないでね」
「わかってるよ。スマホは鞄に入れとくから。おっと、暗くなった。もう始まるな」
虜になる映画と言うので期待していましたが、私には映画の内容が特別面白いとは思えずまぶたが重くなり、気づくとエンドロールが流れていました。お腹空いたなと考えながらエンドロールを見ていると、勇太と同姓同名の名前が目に飛び込んできました。
「ねぇ、さっき勇太と同姓同名のスタッフがいたね。ちょー珍しくない?」
私は劇場が明るくなると隣にいる勇太に声を掛けました。しかし、私の隣の席からは軽やかな返事は無く、カップから半分ほどポップコーンを残されていました。私がウトウトしている間にトイレにでも行ったのか。私は仕方なく持ち主から置き去りにされた荷物を持ちロビーで待つことにしました。
10分待っても勇太は来ないので、私は彼に電話をするため自分のスマホを耳にあてた。途中で勇太は鞄にスマホを入れたことを思い出し、耳からスマホを離したと同時に先ほどまで鑑賞していた映画のポスターが目に入りました。なぜ、ポスターが気になるのだろう。よく目を凝らすと、ポスターの右下隅には、昨日買ったはずの赤いシャツを着た勇太が叫ぶような表情で写っていたのです。
数多の作品がある中で読んでいただきありがとうございます。
文章の練習として小説家のなろうラジオ、「タイトルは面白そう」の「映画」というテーマで短編を書きました。
今年は「なろう大賞」は開催されるのでしょうか。
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