【コミカライズ1巻発売記念SS】彼の妹
8/12のコミカライズ1巻発売記念SSです。
舞踏会の直前あたりのイメージです。
「お兄様が好きなもの、ですか?」
日曜日の昼下がり、シャロンはリリアの問いに驚いて首を傾げた。
「はい! エリック様がものすごく喜ぶものを教えて頂きたくて」
そう真剣な顔でシャロンを見つめるリリアは、兄の婚約者だ。
先日舞踏会のために兄からドレスを贈られたお返しをしたいのだが、何も思い浮かばないのだという。
「素敵なドレスを頂いて本当に嬉しかったので、私もお返しをしたくて……」
(ああ、あの、独占欲が強いドレス……)
確かにリリアによく似合いそうなきれいなデザインだけれど……と、家族全員が微妙な気持ちで見ていたドレスのことを思い出す。
しかし嬉しそうにはにかむ表情を見る限り、リリアは本当に気に入ったのだろう。
だからこそわざわざ、兄の好むものをシャロンに聞きにきたのだろうから。
(だけどお兄様なら、リリア様からもらうものは何でも喜んでしまうのではないかしら)
最近やけに浮かれた様子の兄の姿を思い出し、シャロンはそんなことを思った。
正確に言うなら、今のリリアからならば、だろうか。
以前のリリアと兄の仲は、けして良いとは言えなかった。
リリエンタール侯爵家からの熱心な申し出により結ばれた兄とリリアとの婚約だが、婚約して一月後には父は「この婚約は間違いだった」と言い始めた。
一人娘を溺愛しているリリエンタール侯爵家も悩んでいたようだが、日々傲慢さを増していくリリアは社交界からも敬遠されかけていた。
一向に改善されないその状態に、父も婚約の解消を念頭に入れ動き出していたし、兄の様子からも間もなく婚約はなくなるだろう。そう思っていたのだが。
(いつの間にかお兄様の様子がおかしくなって、そのうちリリア様のお名前を出すと、そわそわするようになって……)
と思えば落ち込んでみたり、浮かれてみたり。
気になって屋敷にやってきたリリアと一緒にお茶をしてみたら、シャロンの知っているリリアとはまるで別人になっていた。
(今のリリア様とお兄様なら、きっと幸せな夫婦になるはずだわ)
そう思いながら、シャロンは微笑んで口を開いた。
「お兄様はああ見えて、心のこもった手作り品なんかに弱いと思いますわ。あとは二人でのお出かけに誘うだけで飛び上がるほど喜びそうです」
「た、確かに両思いの婚約者なら喜んでくれそうですが……」
そう言いながらもリリアは、ううん……と悩まし気な顔をする。その様子に、もしかして二人はまだ思いが通じ合えていないのだろうかと気付いて驚く。
(あのドレスを贈るのも、受け取って喜ぶのも、どう考えても両思いの婚約者だと思いますけれど)
しかし自分が何か口を出すのは、やめておいた方がよいだろう。
「それでは……そうですね、お兄様は書き物をすることが多いので、万年筆などいかがでしょう?」
「わあ……! それは良さそうですね!」
リリアがパッと顔を輝かせる。
「エリック様に似合うような、格好良くて最高品質の万年筆を贈ります! ありがとうございます、良かったあ、これで一安心です。ずっと悩んでいて……」
ようやく胸のつかえがとれたといった様子で、リリアがニコニコと微笑んだ。
「本当に助かりました! シャロン様にもお礼をしなくちゃいけませんね」
「お礼なんて結構ですわ。いずれ家族になるんですもの」
「あ、うーん……そうですね……」
また急に歯切れが悪くなるリリアに首を傾げると、リリアは誤魔化すように笑った。
「それじゃあ、次は私がシャロン様にアドバイスができるよう頑張りますね!」
「アドバイス?」
「はい、好きな人への贈り物とか! 自分のことになると急にわからなくなるものですから」
好きな人、との言葉に、一瞬だけ初恋の人が頭によぎる。
そんな自分に苦笑をしつつ、「ありがとうございます」と返した。
婚約者である王太子、アンドリューとは幼馴染だ。
生まれた時から婚約者として決められていて、お互いに恋心はないけれど、それなりに仲良くやっていると思う。
アンドリューを支えるために、頑張らなければ。
王妃となるために努力を続ければ、恋愛感情はなくとも末長く信頼関係が続くとシャロンは信じていた。
「……ではいつか、アドバイスをお願いしますね」
好きな人へのアドバイスをお願いすることはないだろうけれど。
それでもにこにこと兄を語るリリアにちょっと羨ましさを感じながら、シャロンはそう微笑んだ。
8/12十分前1巻、8/17娼館2巻発売です。
娼館の方でも、結婚から2年後のリリア視点から見たシャロンのお話を投稿しますので、もし良ければご覧ください!
コミカライズ、ぜひよろしくお願いします!





