リリアの悩み
記憶を取り戻した直後はどうなることかと思ったけれど、思ったよりもまあまあ楽しい生活ができた。
両親は変わった私に戸惑いながらも喜んでくれたし、友人もできたのだ。
子爵令嬢だという彼女の名前はリーナ・フェルマー。
貴族ではあるが、あまり飾らない彼女の側にいるとほっとした。
姉御肌といえば良いのだろうか、面倒見の良い性格で、急に性格の変わった私に「変わりたい時が変わる時ですよね。応援します!」と声をかけてくれた。
リーナと仲良くなったことで、クラスの雰囲気も柔らかくなったが、私への評価は変わらない。
話しかけるとみんな一瞬緊張するのがわかる。本当に申し訳ない。ごめんなさい。居た堪れなさに心が折れる。
なのでこの辺で一度、ハイスペ婚約者から婚約破棄をされた、という事実を公表したい。
愛しの婚約者に振られてしまったから、私は心を入れ替えます、という風に動けばこの腫れ物生活から抜け出せるのではないだろうか、と思う。
嗤われるとしても、こんな時限爆弾みたいな扱いは嫌だ。いつ元に戻るんだろう、とみんな賭けていることも知っている。
私はすぐにでも正式に婚約解消されるかな、と思っていたがうまくは進んでいないらしい。
一週間が過ぎた今でもフォンドヴォール公爵家から正式な連絡が来ていないのだ。
それだけ政略結婚とは重いのだろう。申し訳ない。リリアがせめてちょっとわがままな女の子だったら、こんなことにはならなかったのに……私もエリック様と制服デートとか、廊下ですれ違って胸がキュンとか、憧れの学園物の恋愛生活ができたかもしれないのに。リリアが憎い。
進捗をエリック様に尋ねたいが、あまり話しかけられるのも嫌だろうかと中々聞くことができないでいる。
きっとリリアのことが嫌いだろうから、気を遣う。いつかはちょっと苦手、くらいになってもらえるよう、挨拶だけはしてるけど。
「最近のエリック様、怖いくらいリリアを見ているわね」
リーナが小声で私に言った。
周りを見渡すと、今はエリック様は見当たらない。でも確かにここ一週間、割と彼の視線を感じていた。目と目が合うと、ゲテモノを見るような目でぎょっとした後顔を逸らすのだ。さすがに傷つく。
「私が心を入れ替えたから気になるのかな?」
「キャラ変ってレベルじゃないもんね。中の人変わった?」
屈託なく笑うリーナは正直で、笑ってしまう。変わったわけではないのだけど、個人的には確かにリリアという意識より、前世の意識のほうが強い。
だからこそ、かつてのリリアの振る舞いに困ってるんだけど。
「リリアってエリック様のことをどう思ってるの?」
リーナが唐突に聞く。
私は少し悩んだ。リーナ以外に聞いている人はいなさそうだけど、下手なことは言えない。
「……顔がいい?」
「何で疑問形なのよ」
すかさずツッコミが入る。
「でも本当に綺麗な顔立ちをされてるわよね。それを言ったらリリアもそうだけど」
えへへ、と照れた。前世では平坦な平たい顔族の私だったが、今では自他共に認める絶世の美女だ。ふふふ。
「うーん、エリック様は、真面目すぎる方かなあ」
何せ裏工作なく性悪リリアに真正面から婚約破棄を告げたのだ。
まあリリアが暴れたらそれはそれでリリア側の瑕疵として破棄できたのかも。そもそも公爵夫人としての資質無さすぎたし。
「でも誠実で努力家で、素敵な人だと思う」
リリアの記憶を遡っても、ここ一週間見ていても、エリック様は眉目秀麗、品行方正、謹厳実直、私が知ってる四字熟語を全て体現しているような人だった。
誰にでも優しく、凛々しい。彼のことを好きじゃない女の子なんて、きっといないだろう。
廊下から男の人の呻き声が聞こえたような気がして振り向いたけど、何も見えなかった。





