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半分だけ、伝わる/エリック

 



 帰りの馬車の中、リリアが胡乱げにエリックを見ている。



「あの、婚約破棄の件はどこまで進んでらっしゃるのでしょう?」

「……まだ、全く」


 困った顔をしているリリアを見て、エリックは絶望に近い気持ちを味わった。


「私達の婚約は破棄されるのですから……舞踏会に行くのはどうかな、と思うのですが……」




 明らかにリリアに気がありそうなアンバー・ウォルターに舞踏会について聞かれた時、苛立った勢いでリリアの承諾も得ずに言ってしまったのは良くなかった、と思う。



 ただ、二人で行かない選択肢があるものだと思っていなかった。

 舞踏会は通常、婚約者や夫婦と共に行く。特定の相手がいない者でも兄弟や身内や友人をパートナーにするのが通例だ。


 婚約破棄を進めていない以上、対外的に紛れもない婚約者であるリリアと当然一緒に行くものだと思い込んでいた。

 リリアの立場に立ってみれば、婚約破棄を申し渡されているのだ。誘われない限り一緒に行くとは思わなかったのだろう。


 リリアがそう思っていることは知らず、事前に尋ねることをしていなかった。今日、帰りの馬車の中ででも、念のため一緒に行こうという確認やドレスを贈りたいことは伝えるつもりでいたのだ。しかし遅かった。

 自分は言葉が足りないと、つくづく後悔する。



 悲痛な暗い顔で考え込むエリックを見て、リリアは怪訝そうな顔をする。逡巡し、何かを思いついたように顔を輝かせた。こんな最悪の気分でも、リリアは可愛らしい。



「……もしかして、ですけど、今すぐの婚約破棄はしたくないんでしょうか?」

「……わかるのか!?」

「いえ、今思いついたことですけど。やっぱりそうなんですね」


 神妙な顔のリリアに、動悸がひどく激しくなる。



(リリアに、気持ちが伝わった)


 この表情は何を表しているのだろう、やはり自分の気持ちは迷惑なのだろうか。それとも少しは受け入れてくれる余地があるのだろうか。



(何でもする。君が幸せでいられるように。君が好きだ)



 直接伝えようと口を開いたとき、リリアが力強くエリックの手を握った。



「大丈夫です、エリック様。何か事情があって今は進められないんですね。全然進まないからおかしいなと思ったんです」


 一瞬、理解するのに時間がかかった。


「言い出し辛かったですよね……でも私、全然気にしません。エリック様にはいつも助けてもらいましたし、事情が変わることなんて誰にでもありますから。私のほうは急いでないので。あっ、全然、婚約続けたいとは思ってませんから! お気になさらず。早く解決するといいですね。それまでこの状態、続けましょう」


「……ありがとう」



 リリアはどうやら、エリックが今は(・・)婚約を続けたい事情があると思っているようだ。

 本人は婚約を続けたいとは微塵も思ってないらしい。


 現在十八のリリアは、結婚相手を見つけるなら一刻も早いほうが良く、また婚約破棄された女性の評判は多かれ少なかれ傷つくというのに、そんなことは気にせず急いでないのだと笑う。

 エリックの下心しかなかった優しさを、助けてもらったと言うリリアの心は清らかだ。自分の浅ましさがつくづく嫌になる。

 けれど、それでも諦めることはまだできない。



「すまないが、もう少しだけ。婚約者として付き合ってもらえるだろうか。卒業までには、必ず」



(必ず、君の意思に沿う)


 心の中で、それ以上無理強いはしないことを誓った。あくまでもリリアが幸せにならなければ意味はないのだ。

 そして幸せにするのは、自分でありたい。


「もちろんです!」



 嬉しそうに笑うリリアを見て幸せと不安で胸が詰まる。


 この笑顔を独り占めにできたら、と思う。

 先ほどウォルターに会った時の、笑いかけた顔を見て胸が焼き付きそうだった。


 ウォルターと会った時に勢いよく手を解いた彼女の手を思わず握ってしまったけれど、彼女は嫌ではなかったろうか。子どものような牽制だ。ウォルターにも伝わったろう。


 ウォルターは美しい銀髪に知性を感じさせる端正な顔で、女生徒に人気の高い男だ。

 それにしても人の婚約者にあからさまな態度を取るなど、許されることではない。内心舌打ちしてやりたい気持ちでいっぱいだ。それにしても自分の余裕の無さに、ウォルターも驚いたことだろう。


 自分の振る舞いを思い出し恥じていると、リリアが何か焦ったようにエリックに話しかけた。

 おそらく、エリックが何か思い悩んでいると思ったのだろう。


「そういえば、アンバー様と仲が良いんですね。意外でした」


 心外の意味を込めてリリアを見ると、不思議そうに首を傾げた。


「先ほど冗談を言って笑い合ってたではありませんか」

「あれは冗談じゃない、本気だ。友人というよりは、好敵手に近いな……」


 リリアはなるほど、と頷いた。多分成績についてだと思っているに違いない。

 その顔を見ていると、急にふっと気持ちが安らいだ。



「僕は君に助けられてばかりだな」


 リリアがぱちくり、と瞬きをした。


「助けたことなんて、今日くらいじゃないでしょうか?」

「いや、存在が和む。佇まいというか、表情が可愛い。癒される」

「それ、ペットに言うセリフです」

「そんなことはないと思うんだが……」



 憮然としたリリアに焦る。

 ペットへの愛ではなく、恋愛としてなんだと言えたらどんなに良いだろうか。




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8/12 コミカライズ1巻発売です!
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