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アンバー・ウォルター/リリア

 




 先程、私はデート開始二時間後に失恋した。


 彼には好きな人がいるそうだ。可愛らしさが天元突破のはにかみ笑顔で、肯定していた。

 正直に言うと、エリック様は私が好きなのでは? と、思う時があった。


 婚約破棄への罪悪感かなと思ったけど、ぬいぐるみや手紙、一向にされない婚約破棄、食事のお誘いなど諸々の流れで、彼の好きな人は私では……?という気持ちがほんのりと、ある。


 しかし、私を好きならば早々に婚約破棄を撤回するだろう。

 やっぱり私じゃないんだろうかと、恐る恐る好きな子のタイプを聞くと、私とは真逆の女性だった。

 以前よりは遥かに良くなったものの、クラスメイトから未だにやや距離を置かれている私は朗らかではないだろう。特別努力家でもない。ましてや私に、ポーカーフェイスなどできない。

 私ではないことは確かだ。



 エリック様は、スマートに女性を喜ばせることができるんだ。貴族としての常識なのかもしれない。確かにリリアの記憶では、舞踏会の前なんかに高価な贈り物をたびたび頂いた。

 その度にケチをつけたり、ろくなお礼を言わなかったりもしたけど……。改めて思い出すと最低だな……。


 婚約破棄の件だって、エリック様のお父様がまだ忙しいのかもしれない。もしくは私には話せないような事情があるのかも。私の与り知らぬところで進んでいるのかもしれない。


 冷水を浴びせられたようだ。

 だけど悟られてはいけない。好きな人が幸せになることは、とても良いことだ。ちゃんとうまく笑えていると思う。

 しかし私の動揺が出ているのか、なんだか会話がぎこちない。ああ、もう泣きたい。



 食事を終えて店を出ると、エリック様が馬車に乗るために手を差し出してくれるが、それすらも恥ずかしい。


 直視に耐えず、視線を逸らしながら手を取ろうとした。逸らした視線の先に私が好きな画家の個展が開かれているのが見えた。

 宗教画や肖像画が好まれるこの国で、その画家は風景画を中心に描いている。色使いがとても綺麗なのだ。



 一度見てみたかったが、正直今日はそれどころではない。

 私の視線に気づいたエリック様が誘ってくださったけど、これ以上気を遣わせるのも嫌で断ろうとした。けれどエリック様は私の手を繋ぎ、ちょっと強引に歩き出した。



 今日は頭が混乱することばっかりだ。

 大きくて、ゴツゴツした男の人の手。

 これから先、もう二度とこの手を繋ぐことはないだろう。



 ◇



 店内についてもエリック様は手を離さなかった。忘れてるのかも。私も何も言わなかった。


 集中できないまま、店内を見て回る。紅葉が描かれた絵が美しかった。日を浴びて輝く池と燃えるような紅葉のコントラストが綺麗だ。じっと見ていると、エリック様から声をかけられた。



「この絵が気に入ったのか?」

「そうですね、こんな場所に行ってみたいです」



 旅行雑誌へのコメントか! この国にはないけど!

 もっと葉の落ちる角度がうんたら、水面に映る日差しが何かを表してる云々とか、頭のいいこと言えたらいいのにわからない。



「確かに綺麗だ。機会があれば、紅葉を見に行こう」



 優しい。しかし秋には、エリック様はきっと好きな人といるだろう。私との婚約破棄もさすがに成立してるはずだ。



「エリック様、リリエンタール様」


 背後から声をかけられた。振り向くと銀髪を下ろしたアンバー様がいた。少し驚いているようだ。

 その視線の先が私とエリック様の繋いだ手に向けられているのを見て、慌てて手を解く。


「ご、ご機嫌よう、アンバー様」

「やあ、ウォルター。君も来ていたのか」


 エリック様がアンバー様に挨拶を返しながら、私が解いた手を繋ぎ直す。驚いて勢いよくエリック様の顔を見たが、彼はこちらには目を向けずアンバー様に笑顔を向けていた。婚約者らしい振る舞いをしていた方が良いのだろうか。戸惑う。


「ええ。前にリリエンタール様がこの画家を好きだと仰っていたのを思い出しまして、一度見てみたいと思っていたのです」


 アンバー様は私を見て柔らかく微笑んだ。確かに前、美術の授業で偶然席が隣になった時に話したかもしれない。


「まさかお二人(・・・)に会えるとは思いませんでした。リリエンタール様、今日はいつにもまして美しいですね」

「ありが」

「僕も毎回驚くよ。出かける時はいつも、普段より美しく装ってくれるんだ」

「光り輝くようですね。まあ僕は、着飾らない素のままのリリエンタール様が一番美しいと思いますが」



 今日おしゃれしてるのがバレてる。めっちゃ恥ずかしい。一緒に出かけたのは舞踏会以外では初めてだけど、確かに普段より頑張った。

 アンバー様は「張り切りすぎだよ」と暗に窘めているのかもしれない。いやそんなことはないか。被害妄想が捗るな〜。



 恥ずかしいやら困るやら周りがちらちら見てくる視線やらに耐えきれなくなった私は引き攣った笑顔で「やめてください」と小声で呟いた。



「失礼。そういえば来月の王宮舞踏会へはお二人で参加されるのですか?」

「ああ、それは……」


 うちに招待状が来ていたし、本来行かなければならないのだろうけど私は何とかして行かないつもりでいた。婚約破棄目前でエリック様にエスコートしてもらうのも気まずいし、社交界でのリリアの評判は地に落ちている。



「ああ、二人で行く予定だ」

「えっ」



 また驚いてエリック様の顔を見る。素知らぬ横顔だ。

 誘われていないし、行くとも言ってない。


「そうでしたか。僕も行く予定ですので、その時はよろしくお願いします。その前に学園で会いましょう」



 そう言ってアンバー様は流れる銀髪を揺らし去っていった。








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