手紙/リリア
「うわあああ……!!」
朝から何度も読み返している手紙を、置こうとしては読み返し、読み返しては置こうとし、というループを何回も繰り返している私を見て、最初は微笑ましく眺めていた侍女のアンナが引いている。
今朝、エリック様から手紙が届いた。
猫のぬいぐるみ付きである。
金色の毛並みを持ったふわふわのそれは、以前資料室でエリック様と一緒に見た猫に似ていた。あの子に似て美猫であるが、それ以上に愛おしい。今日から生涯、いや、お墓でも一緒に寝る。この子もぬいぐるみ冥利につきるだろう。
エリック様の手紙は、お手本のような美しい字で綴られていた。
内容は、破壊力がすごい。意中の男性からこんな手紙をもらったら永久保存せざるを得ない。読み終わったら原本コピーの上、コピー版をラミネートして壁に飾りたい。この世界にコピー機もラミネーターもないのが口惜しい。
その手紙はざっと、こんな内容だった。
先日は遅くまで引き止めて申し訳なかった。
君は風邪などひいてないだろうか?
本はどうだったろうか。君が気に入ってくれたら嬉しいのだが。
本題だが、妹がぜひ君に足を運んでみてほしいというレストランがある。味の好みが一緒だからきっと君の趣味に合うだろうということだ。
君さえ良ければ是非一緒に行こう。
文章の後、小さく絵が描かれている。
ややガタガタの線だが、おそらく猫だ。左右の目の大きさは違うし、口元が奇妙に歪んでいるが、多分猫だ。ヒゲも三角の尖った耳もある。エリック様の署名の隣に、猫が描かれている。
食事に誘われた! デートみたいた! 噛んだ!
そして猫! 猫ちゃんかわいい! 字に比べて絵が著しく下手なところ、かわいい! 保存だ保存だ!
手紙を抱えてにまにまにまにまし、IQが著しく低くなった私に、アンナが苦笑して「仲がよろしくて結構なことです。お返事を書いたらいかがでしょうか」と言った。
そうだ、お返事書かなきゃ。
◇◇
エリック様に手紙を書いた。書きたいことは山ほどあったが、あんまり長くても迷惑だろうと思い、短めに書いた。
お手紙ありがとうございます。
可愛いぬいぐるみ、とても嬉しいです。
お借りした本はとても面白く、何度も読み返しました。
お食事、ぜひご一緒させてください。
シャロン様にもよろしくお伝えくださいませ。
あとは予定のある日と、それ以外で都合が合えばぜひ、と書き足した。
ちょっと素っ気ないかなとは思ったけど、まあクラスメイトとしてならこんなものだろう。私は割と身の程を弁えている。
その分、腕がぷるぷるするほど丁寧に書いた。何度も書きすぎて集中力は切れたし、若干腕が痛い。
手紙を従者に届けるよう頼んでしばらく休んでいると、アンナがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
甘めのパイが疲れた脳に染み渡る。ああ、幸せだなあ。
お茶を飲み終わり、さあそろそろ課題に取り掛かろうか。貴族令嬢にとっての長期休暇はかなり忙しい。断れるものは断っているが、茶会なんかの誘いが多いのだ。嫌われ者のリリアが行くと、まあ居心地は良くはない。最近少しずつマシになってきてはいるが。
他にも家庭教師に学園では学ばない授業を教えてもらう。ダンスや会話術なんかがそうだ。課題も効率的にやっていかないと終わらない。
そんなこんなで課題を進めていると、ドアがノックされた。返事をすると執事が手に手紙を持って入ってくる。
「お嬢様。先ほどフォンドヴォール公爵家からお手紙がまいりました」
入れ違いに手紙が来たのかな?
開いてみると、エリック様からの手紙だった。先ほどの手紙よりもほんのわずかにラフな字だ。慌てて書いてくれたのかもしれない。
返信をありがとう。
それでは明日の昼に迎えに行く。
突然か!
やっぱり公爵家ともなると時は金なり、思い立ったが吉日なのか、それとも私が出した日程が都合が悪かったのか。
返事も明日以降になるかと思っていた私はびっくりして慌てて課題をしまった。こんなことしてる場合じゃない。
明日の服を決めなくては!
ここまで読んでくださってありがとうございます。
つい1ヶ月半前から小説を書き始め、こんなに読んでくださる方がいるんだと嬉しい気持ちでいっぱいです。
皆様よいお年をお迎えください。2021年が皆様にとって良い一年になりますように。





