告白ができない理由/エリック
「……ごめんな。もう一回言ってくれ」
「僕はリリアが好きなようだ。人間としてではなく、女性として」
「知ってるわ! 今更!?」
エリックが勇気を出して告げた言葉に、ユリウスが驚愕する。
何を言っているんだ、と言いたげだ。
「しかしリリアは僕を恋愛対象として好きだとは思っていないようで……好きな女性以外にこんなことをしたら、みんな僕を好きになるから、リリア以外にやったらダメだと叱られてしまった」
「俺は一体何を聞かされてるんだ、惚気なのか自慢なのか……」
思い出して、やや落ち込んだ。
彼女は、自分にならやってもいいと言っていた。恐らくリリアはエリックを好きになることはないから、やってもいいと言いたいのだろう。
エリックは好きな女性以外に、このような分別のないことはしない。それくらいの弁えは当たり前にある。
リリアにはそれさえも伝わってはいなかった。
「まずさ、言えばいいじゃん。僕の好きな人はリリアだよ! ってさ。なんで言わないのか疑問だよ、相手は婚約破棄突きつけられてるんだから、お前が言わなきゃ始まんないよ」
「僕が告白をすることは、プロポーズすることと同義だ。彼女が僕を好きにならないうちにそんなことを言えば、また追い詰めてしまうのではないかと……」
リリアは、自分を嫌ってはいないだろう。
きっと彼女と一番親しい男友達は自分だろうと自負しているし、休みの前日、家に来た彼女からは、微かに匂い立つような好意を感じた。彼女は自分が好きなのだろうかと、一瞬錯覚しそうなほどに。
しかしすぐに思い直した。避けられたこともその理由も記憶に新しい。
彼女の言っていることが全て本当だとは思わないが、いずれにせよ自分と関わらなくても平気な種類の好意なのだ。
「……なるほどねえ」
ユリウスの呆れ顔は見飽きたな。リリアを目で追うようになるまでは一度も見たことがなかった親友の顔を見る。
「説得したらいいじゃん。お得意だろ」
フォンドヴォール公爵家は心理学の権威である。限られた人物しか学ぶことのできない禁忌もエリックは学んでいた。洗脳方法についても、もちろんあらゆる方法を知っていた。
「僕はリリアを無理に好きにさせたいわけじゃないんだ」
「もったいないね。折角のお家芸なのに」
エリックは乾いた笑い声をあげる。確かに、素直なリリアなら、こともなげに洗脳、いや、それより前の前の段階の説得で絆されてくれるだろうと思った。
しかし、何より尊重したいのは彼女の気持ちだ。今自分に気持ちがないのなら、何とかして振り向いてもらいたい気持ちに変わりはない。
けれどもし力技で彼女を手に入れても、心の底から笑い合えることは二度とない気がする。
自分が得たいのは、あのきらきらとした瞳で拗ねたり笑ったりするありのままのリリアだった。自分の欲に負けて、あの輝きを曇らせたくない。
考え込むエリックをじっと見ていたユリウスは、にっと笑った。満足している時、楽しい時の笑い方だ。
「今しか楽しめない青春だな。俺はこの焦れる時期が見ていて一番好きだよ」
完全に面白がっているだろうユリウスに眉根を寄せた。いや、毎回相談を持ちかけているのは自分なのだが。
それよりも、とユリウスが急に真面目な顔をした。
「最近またリリエンタール嬢に変な噂が流れてるよ。何でもお前と思いが通じ合っている令嬢を引き裂くために色々な画策をしてるって。そしてお前が婚約破棄を持ちかけるって噂がまことしやかに流れてて、すぐ消えるかなって思ったけど根強いな。消えない」
「……いつ頃かわかるか?」
「一ヵ月くらい前だな。お前がリリエンタール嬢に避けられて落ち込んでた前後」
馬鹿げた噂が流れるものだ。
捨ておこうかと思ったが、微かな不安がかすめた。
一応念のため、用心するに越したことはない。
「なんかお前を見てたら俺も彼女に会いたくなってきたわ。デートしてこよっかな」
「良かったな。楽しんできたらいい、お帰りはあちらだ」
「したらいいじゃん、デート。お前も」
いそいそと帰り支度をする親友を見て、エリックはぽかんと口を開けた。
ユリウスがにかっと口を開け、今日一番楽しそうな笑顔を見せた。
話楽しみにしてるな、と言い残し、彼は軽い足取りで出て行った。
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