70.アニスの機転
――必死に戦うアトラス。
だが、キング・ミノタウロスの装甲は厚く、いっこうに倒せる気配がない。
それでもちゃんと戦っているだけ、アトラスたちはマシだった。
共に戦うべき兵士たちは、もう一体のキング・ミノタウロス相手になすすべもない。
ただただやられていくだけであった。
その様子を見ていたアニスは、この状況を打開する方法を必死に考える。
そして、一つの可能性に行きついた。
「(ジョージ王子の時みたいにアトラスさんを強化できれば!!)」
アニスはジョージ王子が魔剣に憑りつかれて暴走した時、皆のバフ魔法をアトラスに集中させて戦ったことを思い出した。
今回も仲間の人数はいる。だから同じことができるはずだ。
問題は――兵士たちにどれだけ理性が残されているかだ。
将軍は逃げ出し、混乱のさなかにある。
しかもそんな「上司」からは、アトラスたちに協力するなと命じられている。彼らにとって「上司」の命令は絶対だ。アニスが協力を呼びかけられても拒否される可能性は高い。
だが、それでもやるしかない。
アニスはキング・ミノタウロスに背を向けて、混乱する兵士たちに大声で言い放つ。
「皆さん! アトラスさんにバフを集中させれば、相乗効果でみんなのステータスが飛躍的にあがります! それならキング・ミノタウロスを倒せます! バフが使える人は協力してください!」
アニスは、生まれてきてから一番大きな声でそう言った。
だが、兵士たちは懐疑的な視線を向ける。
「たしかにアイツは強いみたいだけど……それで勝てるのか?」
「そもそも将軍からアイツに協力するのは禁止されてるし」
予想通りの反応が返ってくるが、アニスはめげなかった。
「このままじゃ全員死にます! キング・ミノタウロスに勝つにはこれしかありません」
アニスの必死の訴えに、後衛の兵士たちは耳を傾け始めていた。
だが、それでも踏ん切りがつかない。
それほど、彼らにとって将軍の命令は絶対のものだったのだ。
――そこで、アニスは行動に出た。
「なら――私が証明します!」
次の瞬間、アニスは自身が持つ最高級のバフをアトラスにかけた。
倍返しの恩恵でアニスのステータスが急激に上がる。
そしてその強化されたステータスをもって、もう一度アトラスにバフをかける。
「これでッ!」
アニスは防戦一方の兵士たちを横切って、アトラスが戦っているのとは別のキング・ミノタウロスに斬りかかっていく。
「ハァ!!!!」
強烈な斬撃を繰り出す。
「ガァア!」
キング・ミノタウロスの心臓部分に当たった攻撃は、わずかにではあったが確実にHPを削り取った。
それはキング・ミノタウロスの大きなHPの前で大したことがない値であった。
だが、それでもダメージを与えられたことに変わりはない。
「あ、アイツ、ダメージを与えたぞ!?」
わずかばかりの反撃。
だが、それによって潮目が変わった。
絶望していた兵士たちの目に、希望が戻る。
「このままじゃ死ぬだけだ……! あいつらの力に賭けよう!」
隊長の一人がそういった。
それに、周囲の人間はうなずいていく――
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