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68.将軍、逃亡


 東方防衛軍の一行はダンジョンの奥へと歩を進めていく。


 しかし兵士たちはどんどん疲弊していた。


 普段、東方防衛軍はダンジョンの外にあふれ出してきたモンスターと戦っている。だが今はダンジョンの真っただ中。相手のレベルも、量も普段とはけた違いなのだ。


「まだ半日経ってないのに、こんなありさまじゃな……」


 兵士がぽつりとつぶやく。もちろん将軍には聞こえない声でだった。


 将軍は部下たちの疲労など気にする素振りもなく、胸を張って進軍を指示するだけだった。

 これまで誰も成し遂げられなかった攻略を成功させる。その高揚感が将軍を上機嫌にさせていた。


 ――だが、それも長続きしなかった。


「しょ、将軍!! 東から巨大なモンスターが来ます!!」


 突然、悲鳴のような報告が上がった。

 最初、将軍は特に気にする素振りもなく、情けない部下が大げさにしているのだろうと思っていた。

 だが、その実一行は窮地に陥っていたのだ。


「て、て、敵はキング・ミノタウロスです!」


 ――――キング・ミノタウロス。


 長年モンスターと対峙してきた将軍も遭遇したことがない敵だ。

 SSランクモンスターであるが、目撃例は数少ない。

 ――なぜかというと、対峙した者の多くは死んでいるからだ。


 現れた敵の姿を見て、さすがの将軍も冷や汗をかく。


 キング・ミノタウロスは、通常のミノタウロスの数倍の大きさがあった。


「迎撃態勢用意!!」


 金切声を上げて指示を出す将軍。

 だが、かつてない敵を前に部下たちはうろたえる。


「“ファイヤー・ランス”!!」


 後衛の魔法使いたちが遠距離魔法を打ち込む。

 しかし、その攻撃は、キング・ミノタウロスの鎧に当たると、すぐさま四散して消え去った。


「ダメだ!! まったくダメージを与えられない!」


 SSランクの敵を前に、兵士たちのスキルはまったくもって無力であった。

 そして、キング・ミノタウロスは兵士たちをまっすぐ見据え、着実に距離を詰めてくる。


「あんたたち! なにビビってんの!! 攻撃を続けなさい!!!」


 将軍のその言葉によってか、あるいは恐怖心からか、兵士たちは次々に魔法を放つ。だがどれもキング・ミノタウロスにとっては蚊に刺される程度の攻撃だった。


 そして前衛のところまでキング・ミノタウロスがやってきて、手に持った大きなこん棒を振りかざす。

 それが振り下ろされた次の瞬間、辺りに爆風が巻き起こり、兵士たちはいとも簡単に薙ぎ払われた。


「なにッ!?」


 虫けらのように吹き飛ばされる部下を見て、将軍も事態の深刻さに気が付く。

 今の東方防衛軍の戦力では、キング・ミノタウロスを倒すどころか、食い止めることさえできない――

 自分たちが決して足を踏み入れてはいけないところにいるのだとようやく気が付いたのだ。


 だが、そんな一行をさらに追い詰める事態が起こる。


 将軍は、背後から大きな物音がしたことに気が付いた。

 ――振り返った時、目に飛び込んできたのは、死神の姿であった。


「に,二体目!?」


 背後からも、キング・ミノタウロスが現れたのだ。

 一行は、魔境の奥地で、SSランクモンスター二体に挟まれてしまったのだ。


「ああああ、あんたたち!!! ははは早く倒しなさい!!」


 将軍は周囲の部下に震えた声で命じる。

 しかし、部下たちが敵に立ち向かう前に、二体目のキング・ミノタウロスが近づいてきて、将軍の方に向かってこん棒を振り下ろした。


 将軍はとっさに回避して直撃こそ避けたが、そのまま一帯の地面ごと吹き飛ばされる。


「うわぁあぁ!!!」


 将軍は脇の壁に叩きつけられる。

 そしてしばらく動けないでいると、キング・ミノタウロスはそのまま将軍の元に近づいて行った。


 自らにとどめを刺そうとやってくる敵を見て、次の瞬間――



「たたた、助けてぇぇえええええええええええええ!!!!!!!!」



 将軍は、全速力でその場を逃げ出した。


「しょ、将軍!!!」


 走り出した将軍の背後から、部下たちがそう叫ぶが、将軍にその声は届かない。

 将軍はキング・ミノタウロスに背を向け、一心不乱にその場から逃げ出したのだった。





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▼アメカワの新作です。本当におもしろいので、ぜひお読みください。▼

☆『ドM勇者は追放を悦ぶ。~ダメージを受けるほど強くなるマゾヒスティック勘違い無双~』
― 新着の感想 ―
[一言] 遅れてすみません…。 書籍化おめでとうございます!買います!
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★
[良い点] 書籍化おめでとうございます。購入させていただきます。 [一言] 私も七月の初めに1回目のワクチンを受けましたが、副反応が辛かったです。
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