65.起死回生
「お、お、お、王女様!?」
アドルフは一気に血の気が引くのを感じた。
アトラスが軍規を破って「連れ込んだ女」を張り倒したはいいものの、
その「女」は、ルイーズ王女その人だったのだ。
すなわち、アドルフはこの国の王女様に暴力を振るってしまったのである。
「だ、大丈夫ですか!」
アトラスが王女の近くにひざまずき、その様子を確認する。
「ええ、大丈夫です」
ルイーズはアトラスの顔を見て答える。
そしてそれから、立ち上がり自分を張り倒した男の方を向いた。
「いきなりなんのつもりですか?」
ハッキリとした声と、冷たい視線を送るルイーズ。
「お、王女様! もももも、申し訳ありません!!!」
アドルフは勢いよく膝まづいて謝罪する。
「……てて、てっきりそこの新入りが軍規を乱し、女性を部屋に連れ込んだものだとばかり思いまして……しょ、将軍としてこれは罰せねばと思って早とちりしてしまいました」
アドルフは懸命に言い訳を並べる。しかし王女は指摘する。
「なるほど、何かあれば確認もせず人に手を上げるわけですか」
「そっ、それは……!!」
「どうやら、上に立つものとしての資質に問題がありそうですね。このことは、しっかり王様にもお伝えしますのでそのおつもりで」
王女がそう言うと、アドルフは絶望の表情を浮かべるのであった。
「おお、王女様! どど、どうかお許しを!!」
アドルフは言うが、王女は意に介さない。
「言い訳は無用。反省して明日からは人に対する態度を改めなさい」
†
自室に戻ったアドルフは、怒りに震え、持っていた剣を机に叩きつけた。
「おのれっ!!」
小娘に叱責されたことへの怒りはもちろんあった。
だがそれ以上に大きかったのは、将軍としての地位が脅かされたことへの焦りだった。
「こんなことで将軍の座を奪われたりしたら……」
相手が王女だけに、そんな想像が頭をよぎる。
そうなると汗が止まらなかった。
そして考えた末、頭をよぎったのは、これまでの成功体験だった。
これまで軍人として何度も功績を立ててきた。
今回もそうすればよいのだと気が付いた。
「そうだ……<魔境>のダンジョン攻略を成功させれば!!」
アドルフの頭の中で完ぺきな筋書きが思い浮かんだ。
本来アドルフの率いる東方防衛軍は<魔境>から現れるモンスターたちを討伐し、<魔境>を平定するのが任務である。
しかし現状、やってくるモンスターを撃退するのが精一杯で、モンスターの拠点であるダンジョンを攻略するには至っていない。歴代の将軍が挑んできたが、ことごとく失敗してきたのである。
ダンジョンは複数あるが、これを一つでも攻略すればアドルフの名声は一気に高まる。
「あのクソ女が王様に告げ口してなにかが決まってしまう前に動かねば!!」
こうしてアドルフは無謀な戦いへと繰り出すのだった――――
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