64.女連れ込むなんて許さないから! ……って、王女様!?
いつも読んでいただき本当にありがとうございます。
長らく、お待たせしました。書籍化作業・会社員のお仕事などがひと段落しましたので、更新再開いたします。
「アトラスさん、来ちゃいました♪」
自室に戻ってきたアトラスを、満面の笑みで出迎えるルイーズ。
「お、王女様……? ど、どうしてここに?」
アトラスは突然の事態に、思わず声を上ずらせる。
王女は満面の笑みを浮かべて返事をした。
「アトラスさんが東方防衛軍で働かれると聞いて、ちょうど東の領地に用事があったので思わず来ちゃいました」
アトラスはやっぱり状況が呑み込めず混乱する。
「軍での慣れない勤務でさぞお疲れでしょう。そんなところで立っていないで、こちらにいらっしゃってください」
ルイーズはアトラスの手を取って、そのまま部屋の奥に引き込む。
そしてまるで退路を断つように部屋の扉を閉める。
「ようやくこうしてお会いできてうれしいです」
ルイーズは、満面の笑みを浮かべて言った。
しかし、アトラスはダンジョンの行き止まりにでも追い込まれたような感覚になるのだった。
†
「あのクソ野郎が!!」
アドルフ将軍は自室に戻ってくるなり、そうして地団駄を踏んだ。
部下たちが見ている前で、アトラスが自分よりも活躍したことに我慢がならなかったのだ。
「今に見てなさい。大恥をかかせてあげる……」
アドルフはそう決意したが、すぐさま具体的な策が思いつくわけではなかった。
だが、このままでは怒りが収まらない。なので、ストレスを解消するために、「吊り上げる」部下を探しにいくことにした。
部屋を出て、部下たちが暮らす宿舎のほうへと向かう。
と、入り口に入ると、アドルフの嗅覚が過敏に反応した。
「ねぇ、ちょっと!!」
入り口で受付をしていた男を怒鳴りつける。
「しょ、将軍様! なんでしょうか」
「女の臭いがするわよ! まさか女が宿舎に来たの!?」
アドルフは、辺りに漂うほのかに漂う香りを嗅ぎつけたのだった。
「えっと、おっしゃる通り……女性の方が来たのですが」
男は歯切れ悪く答える。
「宿舎に異性を入れるのは禁止よ! 誰のところに行ったの?」
アドルフは規律を破った者がいるとわかると、生き生きと部下を怒鳴りつけた。
「ええっと……アトラス様のところですが……」
さらに、どうやら女性を部屋に「連れ込んだ」のがアトラスだとわかると、内心笑いすらこみあげてきた。
「(いくら強くても、ここは駐屯地! 規則を破ったのだから軍法会議にかけてやるわ!!)」
アドルフは嬉々としてアトラスの部屋へと歩き出した。
「しょ、将軍様! お、お待ちを! 恐れながら申し……」
受付の男が慌ててアドルフを止めようとする。
しかし、アドルフは聞く耳を持たない。
「黙れ!言い訳は無用! ルールを破った男は、いますぐ罰してやるわ」
アドルフは部下の制止を振り払って、アトラスの部屋へと向かう。
そしてアトラスの部屋の前まで来ると、確認もせず中に踏み込む。
真っ先に目に飛び込んできた長い金髪、そして甘い香り――
「女を連れ込むなんていい度胸ね!!」
アドルフは女の肩を押しのけるようにして、アトラスのほうへとグイっと歩を進めた。
将軍の腕力によって、倒される金髪の女性――
だが、
「お、王女様!!」
アトラスが突然そう声を上げた。
それで、アドルフは事態に気が付く。
アドルフが横に押し倒した女性。
地面に倒れる女性の顔を見て、アドルフは青ざめる。
「お、お、お、王女様!?」
――アドルフ将軍が押しのけたのは、まさしくこの国の王女、ルイーズ・ローレンスその人であったのだ。
†




