60.パワハラ将軍
新章「アドルフ将軍編」開始です!
パワハラ将軍の元でのアトラスとアニスの活躍ご期待ください!
「アトラス、そなたをローレンス騎士団、第一等級・ナイト・コマンダーに叙します」
跪いたアトラスの肩に、王女が剣の腹を乗せる。
そしてその儀式が終わると、今度は騎士団の団員であることを示す勲章が手渡される。
勲章には<三ツ星>があしらわれている。これは<ナイト・コマンダー>が3等級ある内の最上級であることを示していた。
勲章が手渡されると、見守っていた人々から拍手が沸き起こった。
「ますますの活躍を期待しています」
王女が笑みを浮かべながらそう言った。
「は、はい、頑張ります」
――そして、そんな様子を後ろで見守っていたホワイトナイツの面々。
その中でもアニスは特に真剣にアトラスの晴れ姿を凝視していた。
「(隊長、どんどん遠いところに行っちゃうなぁ)」
アトラスの出世は、アトラスのことを心の底から尊敬してやまないアニスにとってもうれしいものだったが。
だが、同時に複雑な心境でもあった。
冒険者になってからずっとアトラスのことを尊敬して追いかけてきたが、アトラスの成長・出世のスピードが早すぎて、自分との差がどんどん広まっていたからだ。
何とか追いつきたいと思っても、とても追いつけそうになかった。
「(……そのうち、隊長は遥か高みに上って――会うこともできないくらい遠いところに行っちゃうのかな)」
アニスはそんな心配に襲われるのであった。
†
騎士叙勲の式典を終えた翌日、アトラスはいつも通り<ホワイト・ナイツ>に出勤すると、ギルドマスターに呼び出された。
「実は、アトラスに特別な任務を任せたい」
「なんでしょう」
「東方防衛軍への出向だ」
「……出向ですか?」
思ってもみない話にアトラスは驚いた。
出向というと、前にいたギルド<ブラック・バインド>では、ほぼリストラに近い意味合いのものだったからだ。
「安心してくれ。あくまで一時的なものだ。たまたま軍で人手が足りないという要請を受けたので貸しを作る意味があるんだが、一方で教育の側面も強い」
確かに軍に近いところで仕事をした経験は高く評価されるというのが人材市場の常識であった。
「民間の仕事と、国の仕事とでは勝手が違うからな。その辺りを体感するいい機会だし、なにより軍にコネクションを持っておくのは重要なことだ」
エドワードの言うこともアトラスには理解できた。
今は平時なのでなにもないが、いざというときは民間のギルドが軍と協力して戦うこともある。それは<ホワイト・ナイツ>のように高い実績があるギルドの特権であった。
「期間は半年程度。その間、アトラスパーティのリーダーは代理で副隊長に任せようと思っている」
「わかりました」
「それから一緒に出向するメンバーを一人選んでくれ。若手にも早めに経験を積ませたい」
「それではまたご報告します」
「頼んだぞ」
アトラスはギルマスの部屋を後にする。
「東方防衛軍か……」
東方防衛軍と言えば多くの魔物が闊歩する<魔境>と面した場所で国を守るために戦っているということは知っていたが、それ以上の知識はなかった。
「軍隊だし厳しいとは思うけど、まぁ短い期間だしいい経験になるかな」
アトラスはそうつぶやいてから、出向に連れていくメンバーに声をかけに行く。
アトラスの中でその候補は既に決まっていた。
「アニス、ちょっといいかな?」
「は、はい! 隊長!」
アトラスが呼び止めると、アニスは勢いよく返事をする。アトラスはそのまま会議室にアニスを連れて行った。
「実は今度東方防衛軍に出向することになったんだけどさ」
アトラスがそう言うと、アニスは驚いた表情を浮かべる。
「しゅしゅ、出向!? パーティを離れるんですか!?」
「と言っても、半年だけなんだが。隊長もそのままで、不在の間は副隊長にそのまま仕事を任せる」
アトラスがそう説明すると「な、なんだ……」と安堵の表情を浮かべた。
「それでパーティから一人連れて行ってもいいと言われているんだけど、アニスにもしその気があればどうかなと思って」
アトラスが言うと、アニスは満面の笑みを浮かべた。
「隊長と一緒に行けるんですか!?」
「うん。当然俺も軍で働くのは初めてなんだけど、たぶんいい経験になるとおもうんだよね」
「でも……私なんかでいいんですか?」
アニスが心配そうな表情を浮かべた。
「むしろアニスだと助かるんだけど。俺も慣れない環境だし、せめてパートナーくらい信頼できる人と仕事したい」
アトラスが言うと、アニスは「ぱ、ぱーとなー……」とつぶやいた。その顔は少し赤らんでいた。
「どうかな」
「も、もちろんお願いします!!」
「よかった」
†
一週間後。
ローレンス王国の東方。
東方防衛軍の駐屯地。
「あんたたちたるんでるのよッ!!」
一人の男の声が寒空の下に響いた。
男の名前はアドルフ将軍。東方防衛軍の長であった。
体格は大きいが、脂肪ではなく筋肉が大きいウェイトを占めていた。
その筋肉隆々な巨体に、キレイに切り添えられた顎髭。そして右手には、部下を叩く用の木の棒を持っている。
そして、そのアドルフの前には、部下が三人並ばされている。
――それも、パンツ以外全て脱がせた状態で、である。
「あんたたち、死ぬ気で戦えって言ったでしょ!」
そう言って部下の一人を棒でたたく。
「ひぃぃ!! お、お許しください!!」
棒はマジックアイテムで、相手の結界が残っている状態でも、痛みだけを与えることができる。まさしく「しつけ」のための道具であった。
痛みと恥辱に耐える部下の姿を、後ろで他の兵士たちが固唾を飲んで見守っていた。
今日はたまたま自分ではないが、いつそうなるかわからない。
その恐怖の中で部下たちは震えていたのだった。
†
――アトラスとアニスは坂を上り切り、駐屯地の広場を見下ろせるところにやってきた。
見ると、なにやら兵士たちが広場に集合しており、その中央で一人だけ豪華な鎧を着こんだ巨体の男に、三人ほどの兵士たちが棒で叩かれている姿を発見した。
「……なんか、もしかしてお取込み中?」
「みたいですね」
顔を見合わせるアトラスとアニスであった。
†
 




