53.集結
「お兄ちゃん!」
――突然現れた妹ちゃんにアトラスは驚く。
「どうしてここに!?」
「帰りにお兄ちゃんの部下の人が走っていくのが見えたから。定時後だし、なんかあったのかと思って」
確かに<ホワイト・ナイツ>はホワイト職場なので定時後に働くことはまずなかった。
だから必死な形相で街の外へ行く部下の姿は目立ったことだろう。
しかし、それだけでここまで来るとは……。
妹ちゃんのカンの良さに驚いた。
「とりあえず危ないからここから離れてくれ」
妹ちゃんに言うアトラス。けれど妹ちゃんは杖を構えて、その場を動く気はないことを示した。
「私がいなかったら危なかったくせに!」
「う……。まぁそれはそうなんだけど」
「これでも王立冒険者学校の首席なんだから」
妹ちゃんは、天下の王立冒険者学校の中でも最も高い実力を持っており、既に一流レベルの力を身に着けていた。
学生故その力を思う存分発揮する機会はさほど多くなかったので、今こそいい機会と思ったのだろう。
「――――“ドラゴン・ブレス”!!」
妹ちゃんは上級魔法を繰り出す。
突然学生がベテランの冒険者でもなかなかできないスキルを発動したことに、アトラスの部下や宮廷騎士たちは驚きを隠せなかった。
だが、それでも。
「……ほとんど効かない!?」
巨竜に大きなダメージを与えることはできなかった。
巨竜は炎攻撃を受けてもほぼ無傷。一瞬立ち止まって妹ちゃんの方を見るが、興味がないとばかりにそのまま街へ向かって進んでいく。
妹ちゃんは無視されて、苛立ちを覚えた。
「――お兄ちゃん、倍返し、借りるよ!」
妹ちゃんは杖を兄に向ける。
「――“魔力強化”」
妹ちゃんのバフによってアトラスの魔力が強化される。そして倍返しによって、その効果が倍返しで妹に跳ね返ってくる。
そしてさらに強化された魔力を生かして、もう一度兄にバフをかける。
「――“魔力強化”!!」
妹ちゃんのバフは元から強力だったが、兄の“倍返し”によって魔力ステータスが上がった今、さらに強力になっていた。そして、それが再び自分に帰ってくることで、従来の何倍もの力を手に入れる。
「――――“ドラゴン・ブレス”!!」
そして再び妹ちゃんの炎攻撃が巨竜に放たれる。
「グァァッ!!!!」
はじめて悲鳴を上げる巨竜。
それは全体からすればかなり小さいものであったが、確かに巨竜にダメージを与えることができた。
「これでもダメなの!?」
今の攻撃は、理論上妹ちゃんの最高火力だった。
確かにダメージを与えることには成功したが、しかしこれを繰り返しても巨竜を倒せるほどではなかった。
魔力強化は、次に使う魔法に対してのみ効力を発揮する。
再び強化してから攻撃すればダメージを与えることはできるが、巨竜のHPが半分になる前に、魔力が尽きるだろう。
「……どうすれば」
妹ちゃんは唇を噛み、悠然と歩いていく巨竜を黙って見る。
屈指の力を持つ妹ちゃんが、兄の規格外の力とタッグを組んでも勝てない。
そうなるといよいよ勝ち目がない。
――――いよいよ、本当にもう街までもう数十メートル。
そして街の入り口の所には、何十人かの冒険者たちが待ち構えていた。
巨竜を迎撃するために急遽集められたのだ。
だが、Sランクメンバーが束になっても叶わない相手にはまったく意味をなさないだろう。
「どうすれば……」
――だが。
「もしかして、全員でアトラスさんを強化すればいいんじゃないですか!?」
アニスがそんなアイデアを出す。
考え方はとてもシンプルだ。
だが、今回に限ってはとても強力なアイディアだった。
普段のダンジョンでの戦いでは、ダンジョンの広さの都合があり、一度に戦えるパーティメンバーが限られる。
けれど、今回はダンジョンの外での戦いだ。
既にアトラスのパーティに加えて、宮廷騎士団、そして街の前に駆け付けた冒険者たちもいる。
それが一斉にアトラスに“魔力強化”をかけ、倍返しを受けた後、もう一度“魔力強化”をかけるという風にすれば、アトラスの攻撃力は飛躍的に増していく。
「急いでそれを試しましょう!!」
街は目前。
「“魔力強化”!」
これが最後のチャンスだった。
「わかった!」
「“魔力強化”!」
妹ちゃんがアトラスに魔力強化をかける。そして倍返しによって自身の魔力が強化されたところでそれを利用してさらにもう一度、
「“魔力強化”!」
周囲もそれに続く。
「“魔力強化”!」
「“魔力強化”!」
「“魔力強化”!」
「“魔力強化”!」
アトラスの部下はもちろん、宮廷騎士団のメンバーも一心になってアトラスにバフをかけていく。
そして街の前を守っていた冒険者にも現状を説明し協力をお願いする。
「“魔力強化”」
「“魔力強化”」
「“魔力強化”」
「“魔力強化”」
アトラスはすぐに敵の正面から突撃して敵を挑発し、わざと攻撃を受ける。
アトラスはこれまでにないほど自身のステータスが高まっていくのを感じる。
そして、ほぼ全員が限界まで魔力強化をかけたところで、アトラスは意を決して巨竜の前へと立ちはだかる。
真正面から剣を掲げて、全力を出して突撃していくアトラス。
巨竜は目の前に現れたアトラスに、再び最強の攻撃“ドラゴン・ブレス”を放つ。
――豪火がアトラスに降り注ぐ。だがアトラスはなんとかこらえる。
そして、
「――――“倍返し”ッ!!」
極限まで高めた一撃が、圧倒的な火力をもって巨竜の心臓へと突き刺さる。
「グァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
巨竜はつんざくような雄たけびを上げる。
――アトラスの反骨の力が、その固い鱗を突き破り、核となっていた剣にまで達した。
砕け散る魔剣。
次の瞬間、巨竜は力を失い、地面へと倒れこんだ。
「か、勝ったッ!!!」




