50. 【ジョージ王子side】禁断の剣を使えば、あいつを倒せる!
アトラスとの決闘の翌日。
ジョージ王子は結局一睡もできずに朝を迎えた。
格下だと思っていた平民の冴えない男に決闘で敗れ、その姿を多くの女性たちの前で見られた。
その事実に耐えきれなかったのだ。
いっそクエストを放り出して部屋に一生こもっていたかった。しかし今日行かなかったら、部下たちが何というかわかったものではなかった。
だからジョージは意を決してベッドから起き上がり、仕事場へと向かう。
馬車が徐々にダンジョンに近づいていくにつれて、憂鬱な気持ちは大きくなっていく。
「王子様、到着いたしました」
「ああ……」
ジョージは頷いて馬車を降りる。
ダンジョンの前に降りると既に団員たちの姿があった。いつものように王子の到着を迎え入れる。
そしていつも通りダンジョンの入り口にはファンの女性たちが待ち受けている。
昨日の情けない敗戦を知ってファンの心が離れたかと思ったが、勘違いだったようだ。
王子はそのことに一安心する。
――だが。
「アトラス様~~~~!!!」
聞こえてきた黄色い声は、なんと王子ではなくアトラスに向いていた。
振り返ると、ちょうどアトラスが見えてきたところだった。女性たちの視線はすっかりアトラスの方に釘付けになっていた。
それでようやくジョージはファンまでアトラスに奪われたのだと気が付いた。
決闘でアトラスに助けられた女子学生たちがアトラスのファンになっていたのはさすがに仕方がないと思った。
しかし、いつのまにかこれまで自分のおっかけをしていた人間までアトラスのファンになっていたとは。
「お、おのれぇ……」
やり場のない怒りが王子の中で湧き上がってくる。
†
王宮に帰ってきたジョージは、自室に戻るなりベッドに剣を叩きつけた。
「おのれぇ!!!」
一日抱え込んでいた怒りを、何度も何度もベッドに剣を打ち付けて発散する。
しかし、そんなことでは到底収まるものではなかった。
「こうなったら、絶対にあいつを殺してやる……」
王子はそう決心する。
しかし、わずかばかり残った理性が、それは難しいと伝えてくる。
アトラスが王子より強いのは認めざるを得ない事実だった。
そして王子はアトラスに出会うまで自分がこの世で最強の人間だと思っていた。
つまりいまだに自分は世界で二番目に強い人間ということになっていた。
だからほかの人間を頼るという手も考えられなかった。
――一体どうしたらいいのだ。
「……待てよ」
しばらく考えたのち、王子の頭にいいアイディアが浮かんだ。
「そうだ……!! あれを使えば!!」
すべてを解決する「素晴らしいアイディア」に王子は一転笑みを浮かべていた。
†
深夜、人々が寝静まり返った頃。
王子は王宮の地下へと向かった。
「お、王子様!? どうしてこんなところに」
守衛の人間が突然現れた王子の姿に驚く。
「静かにしろ。僕は王子としての使命を果たすために地下に行く。このことは極秘だぞ」
「ま、まさかこの奥にいくのですか? 誰も通してはならないと厳命されております……」
守衛の人間が抵抗すると、王子は彼の首に剣先を突きつける。
「ひぃ!」
「王室の威信をかけたミッションがあるのだ! 黙って鍵を渡せ。そうでないと大逆罪だぞ」
大逆という言葉に身を震わせる守衛。
「た、大逆!?」
大逆罪になれば、四肢を切り落とされて磔にされる。
鬼気迫る声で王子にそう言われてしまっては、守衛が言いなりになってしまうのも無理はなかった。
守衛は震える手で鍵を渡す。王子はそれをぶんどって、地下室への扉を開けた。
「いいか。このことは誰にも言うなよ! 言ったら大逆罪だからな」
守衛にそう言い残して王子は地下へ降りていく。
地下の通路を進んでいくと、大きな部屋に行きついた。
部屋の中央には、祭壇があり、そこには一本の剣が突き刺さっていた。
「……傾国の魔剣!!」
それは王室が代々受け継いできた“宝刀”であった。
その存在は限られた人間にしか知らされておらず、王室の人間であっても触れることは許されていない。
その名の通り国を傾けるほどの力を持っていると言われている。
全身漆黒の剣に、ジョージは吸い込まれていく。
そしてその剣に手を触れると――
王子は全身に力がみなぎるのを感じた。
「……ははッ!!!」
思わずこぼれる笑い声。
ジョージは自分が無敵になったように感じた。
「これであいつを殺してやる……」
†




