48.て、手加減はいらないって本当ですか?
アトラスは王女からの激励?を受けた後、決闘の会場に入る。
そこには宮廷騎士の面々もいた。
決闘の件を伝えてきた副団長と目が合うと、ぺこりと頭を下げてきた。
アトラスは、遠目にわかるほど申し訳なさそうな表情を浮かべている副団長を見て、お互い大変だなという気持ちになる。
「諸君、おはよう!」
少し待っていると、王子が颯爽と会場に現れる。すると宮廷騎士たちが表情を引き締めた。
「アトラス君。今日は君の本当の力を計らせてもらうよ」
なぜか上から目線で言う王子に、騎士たちは内心苦笑いする。先日アトラスに助けてもらったことなど、なかったことになっているようだ。
「王子様。時間より早いですが、始めますか?」
副団長はダメもとで伺いをたてる。くだらないことでアトラスを呼び出していることが申し訳なさすぎて、せめて早く終わらせようと思ったのである。
だが、ジョージ王子は首を横に振る。
「まぁ慌てるな。約束の時間に始めよう」
ジョージはちらっと観客席の方を見た。それを見て、副団長は全てを察する。
「……それは失礼しました」
――例によって、王子の自作自演でこの決闘のことは事前に街に漏らされていた。
“ファン”が“自然と”集まってこないと、この王子は満足しないのである。
すると。
会場に、女子の一団が入ってくる。
ジョージはそれを見て、わざとらしく素振りをしながら様子を伺った。
だが、次の瞬間、思わぬことが起こる。
「――――アトラス様〜〜!!!!」
「「へ?」」
ジョージもアトラスも、思わず女子たちの方を振り返る。
見ると女子たちは、「アトラス様!」とか「ファイト!」とか書かれた横断幕を持って、それをこちらに掲げていた。
そして、よく見ると、彼女たちは先日ジョージの“自作自演”のせいでボスに襲われかけた冒険者学校の女学生たちだった。
それを見て王子は副団長の首根っこを捕まえて、建物の中に入っていく。
「おい、どういうことだ! なぜあいつのファンがいる!」
ジョージが詰め寄ると、副団長はオロオロしながら答える。
「申し訳ありません……。おそらく守衛たちがいつも通り王子様のファンだと勘違いしたのだと思います」
「……バカ言え! そもそもなぜあんな冴えない男にファンがいるのだ!?」
心底バカバカしく理不尽な理由で詰められる副団長。
「い、一時の気の迷いかと……。お、王子様がお強いことを証明すれば、きっと目を覚ますでしょう」
そう言うと、ジョージは副団長の服を離す。
「確かにその通りだ。あんな冴えない男に夢中になっているようでは人生の時間を無駄にしている。目を覚ましてやらなければ」
ジョージはそう言って、決闘場の方へ戻っていく。
そしてアトラスに対峙して言う。
「それでは始めようか」
王子が宣言すると、アトラスは気持ちを切り替えて「はい」としっかりとした口調で返事をした。
「これはお前の力を測るためだ。念のためではあるが、手加減は不要だぞ? 思いっきりぶつかってこい」
と王子は胸を張ってそう言う。
それに対して、アトラスは――
「へ?」
思わず驚いて間抜けな返答をする。
……本当に本気で戦っていいのか?
アトラスは半信半疑のまま、剣を取る。
「アトラス様ぁ!!」
「頑張ってください!!」
そんな黄色い声援が再び跳ぶ。
「それでは――――試合、開始!」
副団長がそう宣言する。
すると、
「うぉぉぉぉッ!!!!!!!」
ジョージ王子は、雄叫びをあげながら渾身の力で突進してくる。
それに対して、アトラスは「本当に本気出していいのか?」という迷いから、一瞬判断が遅れた。
その結果、王子の攻撃に対応が間に合わず、もろに攻撃を食らってしまう。
そして反射的に“倍返し”スキルを発動してしまう。
あ、やっちまった……!
次の瞬間、王子はそのまま自分の攻撃の倍の攻撃を受けて後ろに吹き飛ばされた。
「――ぐぁぁッ!!!」
そんな情けない声とともに放物線を描いて飛んでいく王子。次の瞬間、地面に叩きつけられ、駄目押しのダメージを受ける。
「……勝者……アトラス」
副団長が申し訳なさそうにそう宣言した。
「アトラス様!!」
「きゃぁぁ」
女学生たちは、吹き飛んでいった王子になど目もくれず、アトラスに黄色い声援を送るのだった。
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