47.自分の弱さを認められない王子
モンスターから女学生を救うという作戦が完璧に裏目に出て、面目丸つぶれのジョージ王子。
しかし彼は自分が倒せなかったボスを、アトラスが倒してしまったという現実を受け入れられないでいた。
これはなにかの間違いだ……!
この僕が、あんなやつより劣っているはずがない。
そうだ。
僕がいいところまでボスを追い詰めていたから、あいつは簡単に勝てたんだ。
つまり、手柄を横取りされたッ!
それが彼の出した結論。
それが彼の中で事実になった。
そうだ。ダンジョン攻略で遅れを取ったのも、パーティーの宮廷騎士が弱すぎるからだ。
一対一で戦えば、僕が負けるはずはない。
……このまま「僕が弱い」なんて評価のままじゃ終われない。
真に強いのは僕なのだと証明しなければ。
そのためには……そうだ。決闘だ。
どちらが強いのか、白黒ハッキリさせるのだ。
王子は早速、宮廷騎士の副団長を呼びつける。
先日孤島へ左遷された男の跡を継いだ新任副団長である。
「おい! あの生意気なアトラスと決闘をする!! 準備しろ!!」
そう命令すると、副団長は苦い表情を浮かべる。
王子以外の人間は、王子がアトラスより弱いと理解していた。
だが、肝心の王子だけがそのことを理解できていなかった。
ただ恥を上塗りするだけになる。それが副団長の本音だった。
しかしそんなことは口が裂けても言えない。
もしそれを指摘すれば、クビは間違いなかった。
「承知しました……」
副団長はしぶしぶ指示に従う。
――――負けたときに、王子の怒りの矛先が自分に向けられないことを祈りながら。
†
「決闘……ですか?」
宮廷騎士副団長によって、決闘の件を伝えられたアトラスは突然のことに困惑する。
「王子様はアトラス様の真の実力を図りたいと仰っています。他意はありませんので、どうか引き受けていただければと……」
流石にいきなり決闘を申し込むという行為が非常識だということは副団長にもわかっていたので、下手に出てアトラスをなんとか決闘の場に引き摺り出そうとする。
言うまでもなくアトラスは乗り気ではなかった。
その大きな理由は――王子相手では、本気を出していいのか、手を抜いていいのかわからないからだ。
露骨に手を抜けば流石にわかるだろうし、かと言って勝ってしまってもそれはそれで気まずいし。
「王子様のお望みです。何卒よろしくお願いします」
副団長は深々と頭を下げる。
「……えっと、そのまぁ王子様が言うなら仕方がないですが……」
アトラスはしぶしぶ了承するのだった。
†
――翌日、アトラスは決闘場にやってきた。
ここに来るのは<ブラック・バインド>のギルマス・クラッブと決闘して以来だった。
「まさかまたここに来るとは……」
ギルド隊員の性として、アトラスは約束の30分前に王宮に到着していた。
すると入り口のところで、前回の決闘をセッティングした張本人が姿を現した。
「……王女様!!」
アトラスは、突然王女が目の前に現れたことに驚く。
「お久しぶりです!」
ルイーズは明るい声で駆け寄ってきて、アトラスの手を取った。
突然手を握られて困惑するアトラス。
「お、王女様……ど、どうしてここに」
「うちのダメ王子がアトラス様に決闘を申し込んだと聞いて。これは応援に行かないとと思って!」
と、王女は脇に抱えていたカバンから、何やら旗を取り出す。
そこには「あとらす・ふぁいと」の文字が。
「えっと、王女様は私の応援を?」
アトラスは思わずそう聞き返す。
当然ルイーズ王女とジョージ王子は兄妹である。
だから当然ルイーズは、ジョージ王子を応援するとばかり思ったのだが。
「まさか。あのダメ王子を私が応援するわけがありません」
どうやら違うらしい。
まぁ、二人は異母兄妹だ。普通の兄妹とは事情が違うのかもしれない。
アトラスはひとまず自分を納得させる。
「王子相手だからって手加減はいりませんからね!」
アトラスに念を入れるルイーズ。
「わ、わかりました……」
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