42.王子様
42.王子様
「アニスと申します。1日も早く戦力になれるように精進してまいりますので、今日からよろしくお願いします!!」
<ホワイト・ナイツ>ギルド本部の執務室に元気な声が轟いた。
――役員に昇進したアトラスの人事によって、<ホワイト・ナイツ>に引き抜かれたアニスは、今日からアトラスパーティの一員として働くことになっていた。
アニスの一言の後に、隊長のアトラスがパーティメンバーたちを見渡して言う。
「みなさん、私に引き続き新しいメンバーを迎えて色々大変だとは思いますが、一つ面倒を見てあげてください。よろしくお願いします」
アトラスがそう伝えると、隊員たちは温かい拍手でアニスを迎えた。
それから各々の隊員たちがアニスに一通り自己紹介をする。
「……ええッと。また改めて歓迎会は行いますが……とりあえず紹介はこれくらいにして仕事に行きましょうか。……今日からいよいよSSランクダンジョン攻略が始まります」
アトラスパーティは次なる任務として、宮廷騎士団とのSSランクダンジョン攻略クエストを請け負っており、今日から攻略が始まることになっていた。
<スーパー・サイズ>のSSランクダンジョン攻略はアトラスにとって初めてであり、しかも共同攻略の相手はこの国の王子様が率いる宮廷騎士団。その責任は大きく、アトラスは気を引き締めていた。
「それではダンジョンに行きましょう!」
アトラスは仲間たちにそう宣言した。
†
目的のSSランクダンジョンは、王都からそう遠くないところにあった。
アトラスは集合時刻まであと10分ほどというところでダンジョンの前にたどり着いたが、まだ宮廷騎士たちの姿は見えなかった。
――しかし。宮廷騎士の代わりに、ダンジョンの前を取り囲むように人だかりができていた。
「……あれは、何でしょう……?」
アニスは思わず眉をひそめる。
人だかりは、全て若い女性たちだった。
学生から二十代くらいの女性たちが、ダンジョン前に大挙して押し寄せていたのだ。
近づいていくと、その手には旗が握られており大抵「ジョージ王子様」という文字が刺繍されていた。
ジョージ王子は、ルイーズ王女の異母兄である(ジョージ王子は妾の息子、つまり庶子である)。
そして、今日からアトラスたちが一緒に仕事をする予定である<宮廷騎士団>の団長でもある。
一体この女性たちは何者なのか……とアトラスたちが不審に思って尋ねようとしたその時だ。
後ろから馬車の音が聞こえてくる。すると女性たちから黄色い声援が飛んだ。
馬車はアトラスたちの前で止まり、中から一人の男が出てくると、女性たちはさらに大きな悲鳴をあげた。
「ジョージ王子様ぁぁぁ!!!!!!!!」
それでようやくアトラスたちは全てを理解した。
女性たちは、ジョージ王子の<ファン>なのだ。
確かに黄色い声が飛ぶだけのことはあり、馬車から降りてきたジョージ王子は相当なイケメンだった。
「みなさん、ごきげんよう」
ジョージ王子は白い歯を光らせ、ファンの女性たちに手を振った。
その様子を唖然と見ていたアトラスたちに、ジョージ王子は自ら歩み寄ってきた。
「君たちが<ホワイト・ナイツ>のみなさんかな?」
先頭にいたアトラスはお辞儀をして返事をする。
「<ホワイト・ナイツ>、役員、Sランク隊長のアトラスです。どうぞよろしくお願いします」
「この国一番と言われる冒険者たちと仕事ができて光栄だよ」
王子は再びその真っ白な歯を光らせ、アトラスに握手を求めた。
「こちらこそ光栄です……」
その手を握り返すアトラス。
――――と、王子の握手はやけに力強く、アトラスはわずかにHPが減るのを感じた。
「それでは、早速行きましょう」
ジョージ王子は仲間の宮廷騎士たちを引き連れ、颯爽とダンジョンへと入っていく。
「王子様ぁぁ!!!! 頑張ってください!!!!!」
王子の背中に、再び黄色い声援が飛ぶ。
アトラスたちはそれに黙ってついていくのだった。
――――SSランクダンジョンは迷宮型だが、入り口付近の通路はかなり広く、二つのパーティが向かい合うことができるほどのスペースがあった。
しばらく歩いて行き、外の女性たちの目が届かなくなったところで、先頭を歩いていた王子は立ち止まってアトラスたちの方に振り返った。
「いやぁ隠密にしてるつもりなんだけど、なぜかファンたちは僕の居場所を嗅ぎつけてしまってねぇ。困るねぇ」
王子はやれやれと首をすくめる。
すると、横にいた騎士が頭を下げて言う。
「我々の管理が行き届いておらず申し訳ありません! しかし王子様を一目見ることを生きがいとする女性があまりに多く……」
「副団長。君たちのせいでないことはわかっているさ。国民に好かれることは悪いことではないよ」
「さすがは将来この国を担う王子様です」
王子と副団長のそのやりとりを黙って聞くしかないアトラスたち。
側から見ると、副団長が露骨に王子を持ち上げている痛い絵に見えるのだが、当の本人たちは気にしている様子はない。
「さて事前の調査によると、このダンジョンはミラー型のラビリンスになっていて、途中二手に別れる必要があるようだ」
王子がダンジョンの概要を説明してくれる。そして、そのまま作戦を説明する。
「基本的には宮廷騎士団が先頭を行く。しかし、道が別れている時や、我々がピンチに陥った時は君たちの助けを借りる。そういうフォーメーションで考えているんだが、いいかな?」
ジョージ王子は柔らかい口調でそう尋ねてきたが、アトラスたちに拒否権などあるはずはなかった。
「わかりました」
「では、早速進んでいこう!」
ジョージ王子は、再び白い歯を見せて、そう宣言した。
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「何が困るねぇ、だ。毎回行くダンジョンの場所をリークしてるくせに」
……どこかで。
騎士の一人がボソッと、自分にしか聞こえないような小さな声で、そう呟いた。
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