40.【ギルマスside】ギルマスから奴隷へ
冷たさと湿気だけが支配する牢屋の中。
<ブラック・バインド>のギルドマスターであるクラッブは、恐怖にうち震えながらその片隅に座り込んでいた。
やることといえば1日2回の粗末な食事を食べることだけで、それ以外にやるべきことはない。
無限とも言える時間がそこには広がっていた。
そして、その時間でクラッブは自らに与えられるであろう罰を考える。
――人は殺していないのだ。だから死刑はあるまい。
しかし、それでも未遂には変わらない。
それ相応の罰が待っているはず。
……罰金で済むことはあるだろうか。
もしそうでなかったら。例えば何年間もの強制労働……?
そうなったら、ギルドは――俺の<ブラック・バインド>はどうなるというのだ。
俺がいなきゃギルドはおしまいだ。
そうだ……。
そんなことになったら、ギルドにいる百人以上の冒険者が路頭に迷うことになる。
そうだ。そんなことあっちゃいけない……!!
俺は王国公認ギルドのギルマスなのだ。
皆を守る義務がある!
流石に情状酌量の余地はあるはずだ!!
「おい囚人」
と、突然クラッブは看守に呼ばれる。
「判決が下る。いくぞ」
「…………!」
ついにその時がやってきた。
クラッブはよろよろと立ち上がる。
†
クラッブは、王女によって断罪されたあの裁判所の一部屋へと再び通された。
その中央には、やはり王女ルイーズが立っていた。
そして傍聴席にはコナンなど幾らかの<ブラック・バインド>の隊員たちがいた。
拘留されている間、ただの一度も面会に来なかった不義理な奴らだ。戻ったら……ただじゃおかない。クラッブはそう歯ぎしりした。
そして、その奥にひっそりと佇むアトラスの姿を見つける。
――諸悪の根源ッ!
俺をこんな状況に追い込んだ悪人!
必ずや、復讐してやる……
クラッブはアトラスを睨みつけながら、王女の前へと歩いて行った。
「――判決である」
ルイーズは、厳然たる口調で述べ始める。
「罪人クラッブは、鞭打ち50回の後、ノース・グラン鉱山の奴隷とする」
「む、鞭打ち50回!?」
クラッブは下された判決の重さに思わず目をひんむいた。
「お、王女様! む、鞭打ち50回など、し、死んでしまいます!」
鞭打ちの刑は、もちろんHPを全て削られて身を守る魔力が全くなくなった状態で行われる。
当然、モンスターに攻撃される時は感じない激痛を感じることになる。
とても正気を保ってはいられないだろう。
しかも、例えそれを耐え抜いたとしても鉱山の奴隷とは。
強制労働の何年という罪であれば、その期間を終えれば戻ってこれるが、奴隷は一生そこで働き続けるしかない。
まして、ノース・グラン鉱山は<死の山>と呼ばれるほど過酷な場所として有名だった。
だが、
「黙れ!」
近衛騎士の一人がそう一喝した。
そして王女はその判決の理由を語り出す。
「逆恨みで人二人を殺そうとした。それだけでも重罪だが、他にも<ブラック・バインド>のギルドマスターとしての不正がいくつも上がっている!」
「ふ、不正ですと!? そんなこと私は……」
「黙れ! 言い訳は無用だ。ギルドの会計担当が全てを明らかにしてくれた。経費の架空計上に始まり、役所への賄賂によるダンジョン攻略の受注。それに従業員への不当な賃金未払い。数々の不正が帳簿から明らかになっている」
「……そ、そんな……」
「情状酌量の余地は一切ない」
「わ、私が<ブラック・バインド>を作ったんです! 私がいなくなれば<ブラック・バインド>はおしまいですよ!!」
クラッブはなんとか情状酌量を得ようとするが、しかし王女とて残されたギルドのことはちゃんと考えていた。
「ギルドのものに聞いたが、誰一人お前が必要だとは思っていない」
「なっ!? そんなバカな!」
「部下へのパワハラ、長時間労働の放置、挙げ句の果てに気に入らない人間は容赦無くクビにする。そんなお前を必要とするものなどただの一人もいない」
「!! し、しかし……」
「今までお前のせいで人生を狂わされてきた人間たちのことを思えば、これでも足りぬくらいだ。判決は以上、連れていけ!」
――クラッブの処遇は全て決まった。
もう助かる道はないと知ったクラッブは、ただ恐怖に震えながら叫ぶ。
「お、お許しを!!!!! む、鞭打ちだけは!!!!!」
しかし近衛騎士は容赦無くクラッブを立ち上がらせる。
クラッブは恐怖のあまり失禁しながら刑場へと引きずられて行くのだった。
「た、助けてくれぇ!!!!!!!!!!!!」
しかし、その声に答える部下たちはただの一人もいなかった。
†
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ざまぁはまだまだ続きますので、ぜひ引き続きよろしくお願いします!
(次は王子編に続きますのでお楽しみに……!)




