39.あなたのお言葉、録音してましたけど?
「アトラス!!」
探していた人物が突然現れたことで、ギルドの本部は騒然となる。
「よかった! 生きてたんですね!」
真っ先に言葉をかけたのはルイーズ王女だった。
「すみません、王女様。ご心配をおかけいたしました……」
自分を巡るやり取りは部屋の外からも漏れ聞こえていたので、ルイーズが心配をしてくれていたことはアトラスも知っていた。
「いえ……本当に、無事でよかったです」
続いてギルマスのエドワードも声をかけてくる。
「とにかくよかった」
「すみません、ギルマス。私のために時間を割いていただいて」
「ギルドの隊員がトラブルに巻き込まれたのだから当然だ。しかしアトラス、一体何があったのだ?」
「それがですね……」
アトラスはそれまでの経緯を説明し始めた。
†
一方、<ブラックバインド>のギルマス執務室。
「ふひひ。無能がいない世界というのはこんなにも気分がいいものなのか」
朝からタバコをふかしながら、クラッブはほくそ笑む。
アトラスのせいで大きな仕事を失い、王女様の前で恥までかかされたクラッブであったが、「諸悪の根源」であるアトラスを跡形もなく始末できたことで「ざまぁみろ」と逆にカタルシスさえ感じでいた。
「私に逆らったものはこうなるのだ」
穴に落ちていくアトラスの姿を思い出して恍惚とした表情を浮かべるクラッブ。
――だが。そんな彼の気分を妨げるものが現れた。
「ぎ、ギルマスぅ!!!!」
許可も取らず突然部屋に入ってきたのはコナンだった。
「なんだ勝手に部屋に入ってくるなんて、失礼すぎるぞ!!」
だが、そう一喝されてもコナンは言葉を続ける。
「大変なんです! お、王女様からギルマスに、裁判所へ出頭せよとの命令が!」
「さ、裁判所!?」
「いますぐ来いと!!」
クラッブはいきなりのことに動揺を隠せなかった。
……ま、まさかアトラスを殺したことがバレたのか?
い、いや。しかし証拠はないはず……
……とにかく、裁判所に呼ばれたのだから、いい話であるはずがない。
クラッブは爽快な気分から一転、恐怖のどん底へと突き落とされた。
†
クラッブは体を震わせながら裁判所へと向かった。
審判が行われる部屋に着くと、そこには近衛騎士に囲まれた王女が待ち受けていた。
「<ブラック・バインド>ギルドマスター、クラッブ。今日呼ばれた理由はわかっているな?」
ルイーズは厳しい口調で問い詰める。
「な、なんのことでございましょう、王女様。突然のことにただただ驚いております」
当然クラッブは白を切る。
しかし、それがさらにルイーズの怒りを買った。
「とぼけるな! 調べはついているのだぞ!」
「お、王女様、私は何も……」
だが、そんなクラッブの言い訳を一喝するように、王女が鋭く言う。
「入りなさい!」
王女がそう言うと、部屋に二人の人物が現れた。
「……なッ!!」
現れた二人を見てクラッブは目を見開く。
その驚きようはもはや自白したも同然だったが、しかし無理もないことだ。
――なにせ、殺したはずのアトラスとアニスが目の前に現れたのだから。
……ば、バカな!!!!
誰一人生きては帰れぬと言われる<奈落の底>に突き落としたはずなのに、なぜここにいる!!!
クラッブは滝のように汗をかく。
「お前はアトラスとアニスを<奈落の底>に突き落とした。決闘で負けたことへの腹いせにな。許しがたき蛮行だ」
「ち、違います、王女様! 神に誓って私はそのようなことはしておりません!」
クラッブは声を震わせながらそう主張する。
「まだとぼけるのか!」
「あ、アトラスは嘘をついているのです!! そいつのたわごとを信じるつもりですか!」
クラッブは声を張り上げる。
しかし、それにルイーズはただただ冷酷に告げる。
「……アトラス、あれを」
ルイーズがアトラスに言うと――彼はポケットから黒い石を取り出した。
……あ、あれは録音石!!
クラッブはそれを見て目をひん剥く。
……ま、まさかあれで録音を。
クラッブの心臓は高鳴り――
そして次の瞬間、録音された音が部屋に響き渡る――
『――妹ちゃん、大人になったら結婚しよう!』
「…………」
突然聞こえてきた愛の告白に、裁判所が静まり返る。
そう。この録音石は、アニスを助けに行く際に妹ちゃんに手渡されたものだった。アトラスはこれを使って、クラッブとのやり取りを録音していたのだが……
当然のように、そこには「アトラスは妹ちゃんのことが大好きである」と言う証拠の音声が詰まっていた。
「…………すみません、これは違います」
アトラスは顔を真っ赤にしながら首を振る。
「えっと、すみません。こっちです……」
――気を取り直して、アトラスは音声の続きを流す。
――――――――
――――
――
『良くきたな、アトラス』
『どうしてあなたが――』
『なぜ? 簡単だよ。目障りなお前を殺してやるためさ』
『お前のせいで、SSランクダンジョン攻略の受注を取り消された。王女様と謀って、俺に恥までかかせたんだ』
そこには<奈落の底>に呼び出された際のクラッブとアトラスのやり取りがバッチリ録音されていた。
それが何より動かぬ証拠だった。
流石のクラッブも、もはや言い逃れはできなかった。
「お、お、おっ おぅぅじょさ……あ……こ、これは……」
クラッブは震えすぎて、もはやまともに言葉を喋ることさえできなかった。
しかし少しでも自分の身を守ろうと、涙を流し、鼻水を地面に垂らしながら、頭を地面に擦り付ける。
「お、お、おゆゆるし……を……!!お、おううじょうさまぁあ!!!」
しかし、そんなことをしても――もう遅すぎる。
「お前は最後の最後まで自ら罪を認めようとはしなかった。情状酌量の余地はない。それ相応の罰が待っているから覚悟しておけ」
次の瞬間、ルイーズが近衛騎士に目配せをすると、近衛騎士たちがクラッブの腕を掴んで無理やり立ち上がらせた。
そのまま引きずられて、クラッブは牢屋へと連れていかれる――――
「お、おうじょさまぁ!!!!! こ、こ殺さないでくださいぃぃぃッ!!!!!」
クラッブの叫び声が響き渡る。
だが、もはやそれに耳を貸すものはただ一人としていなかった。
†
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