38.あれ、SSダンジョン攻略しちゃったらしい。
38.あれ、SSダンジョン攻略しちゃったらしい。
妹ちゃんは<ホワイト・ナイツ>のギルマス、エドワードの元を訪れたが朝まで不在にしているとのことだったので、一度家に戻った。
そして、朝日が昇ったところで再びエドワードの家を訪ねると、ちょうど邸宅から彼が出てくるところに出くわした。
「あ、あの! <ホワイト・ナイツ>のエドワードさんですか!?」
突然、話しかけてきた学生に少し驚きながらエドワードは答える。
「ああ。そうだが、何か御用かな?」
「私は、<ホワイト・ナイツ>に勤めているアトラスの妹です。実は兄のことで大至急ご相談したいことがありまして」
「ほう、アトラス君の妹さんか。お急ぎとは、何かただならぬことが?」
「実は、昨日の夜、兄の元同僚が誘拐されて、それで……」
妹ちゃんはエドワードに経緯を説明する。
「なんと……それは……」
「それから帰って来ていなくて……」
「それは、すぐに捜索しなければ」
†
エドワードたちはすぐさまSランクパーティを引き連れて、<奈落の底>へと向かった。
しかし、当然そこには人っ子一人いなかった。
「まさか穴の底にいるんじゃないですよね?」
隊員の一人がそう呟く。
「……そうだったら事は慎重に進めなければならないな……」
<奈落の底>の下は全く未知の領域だ。しかも入ったものは誰一人帰って来ていない。そんな状況では迂闊に捜索もできない。
「ひとまず<奈落の底>を探索する作戦を練りつつ、憲兵に依頼してさらわれたと言う女性がどこでどうさらわれたのかを追ってもらう」
エドワードは冷静に指示を飛ばす。
「はい、ギルマス」
†
一方。
アトラスとアニスは、ボスである<奈落の王>を倒した後、しばらくボス部屋で仮眠をとっていた。
そして数時間経ってMPがある程度回復したところで立ち上がり、来た道とは反対側の扉を開けた。
再びダンジョンの通路。だが、ここがボス部屋である以上、進んでいけば出口があるはずだった。
「反対側も大穴に繋がってる……なんてことがなければいいけどね」
もちろんその可能性は十分あった。だが考えても結果は変わらないのだから今は進むしかない。
アトラスとアニスは再び緊張感を高めながらダンジョンを進んで行く。
ボスの部屋にたどり着くまでと同様にSランクやAランクレベルのモンスターに遭遇するが、しかし二人は危なげなく倒していく。
ボスを倒したのでモンスターたちもだいぶおとなしくなっているのが幸いだった。
特に危なげなく進んでいき、二時間ほど歩くと出口が見えてくる。
「アトラスさん! 出口です!!」
「ああ……よかった……」
ダンジョンの先に光が見え、アトラスたちの足取りは軽くなった。
そして半日ぶりに外に出ると、太陽の光が、二人を照らす。
だが、二人には開放感に浸る暇がなかった。
「……って、あれ?」
ダンジョンを出たところで、アトラスたちは思わぬ人々と遭遇したのだ。
「みんな、どうしてここに……?」
そこにいたのは――<ブラック・バインド>のSランクパーティの面々だった。
ギルマスクラッブと隊長コナンの姿はなかったが、他のメンバーは概ね勢揃いしていた。
<奈落の底>を抜け出したところで、突然元同僚たちに会ったことに驚くアトラスとアニスだったが、同じように元同僚たちの方もアトラスたちがダンジョンから出て来たことに驚いた。
「なんでって、そりゃこのSSランクダンジョン攻略は俺たちが受注したんだからな」
それを聞いてアトラスとアニスは顔を見合わせる。
つまり――実は、アトラスたちが攻略したのは、<ブラック・バインド>が嘘をついて攻略を受注した例のSSランクダンジョンだったのだ。
<ブラック・バインドの>パーティメンバーたちは、まだ受注を取り消された事実を知らなかったので、攻略が行われるものと思って、集まっていたのである。
「やっぱりここSSランクダンジョンだったんだ。どうりでボスが強いと思った……」
アトラスとアニスは、ボスの強さがこれまで経験したことのないものだったので、おそらくSSランクではないかと予想していたのだが、その認識は正しかったのだ。
「なんとアトラスさん、私たちSSランクのボスを倒しちゃったんですね……」
とアニスは驚く。
だが、その言葉を聞いて、ざわつく<ブラック・バインド>の面々たち。
「ぼ、ボスを倒した? まさかとは思うが、このダンジョンのボスを倒したのか?」
「うん、まぁ、なりゆきで」
「え、ええええええ!?」
<ブラック・バインド>の元同僚たちは、驚愕の叫び声をあげた。
†
<奈落の底>に何も手がかりがないことを確かめたエドワードたちはギルド本部へと引き返してきた。
そして優秀な隊員を急遽集めて、捜索のための作戦会議を始める。
――だが、そんなところに、思わぬ客が訪れた。
「あの、突然すみません」
突然に現れたのは、他ならぬ王女、ルイーズ・ローレンスその人だった。
「お、王女様!? なぜこちらに」
エドワードは王室の依頼を何度もこなしてきたので、王女とも知り合いではあった。
しかしギルドの本部を直接訪ねて来たのは初めてで、しかもいきなりのことだったので驚く。
「実はですね、<ホワイト・ナイツ>にアトラスさんという人がいるはずなのですが、その方にお仕事を頼みたくて……」
王女がギルドに来たのはアトラスにSSランクダンジョン攻略の仕事を依頼するためだった。
普通なら使者を送るか、宮廷に来てもらうのが常だったが、どうしてもまたアトラスに会いたかった王女は、「<ブラック・バインド>の後任を探すために急いでいる」と言う名目で自ら足を運んだのである。
しかし、肝心のアトラスは不在にしている。
「王女様……恐れながら、実は今アトラスは不在にしておりまして……」
エドワードは正直にそう告げる。
SSランクダンジョン攻略の依頼というのはものすごく魅力的な提案だったが、今はそれどころではなかった。
「不在? どこか出張に?」
エドワードは正直に状況を説明することにした。
どうせ憲兵に話すのだから、隠すことではない。
「それが、アトラスの元同僚の女性がさらわれて、アトラスは彼女を助けに行って行方不明になってしまったのです」
「な、なんですって!?」
王女は目をひん剥いて驚く。
「なんでも何者かに<奈落の底>に呼び出されたとのことで、今から捜索部隊を出そうかと……」
「な、奈落の底って、あの? 誰も帰ってこないという!? な、何としてもアトラスさんを救わなければ! いますぐ近衛騎士を動員して……」
王女はエドワードにまくし立てる。近衛騎士が力を貸してくれるというのはエドワードにすればありがたい話だったが、王女様がアトラスに入れ込んでいるのを知らなかったのでその動揺っぷりに驚いていた。
――と、その時だ。
「あ、あの……」
その控えめな声が、エドワードたちの耳に確かに届く。
――――部屋に現れたのは、申し訳なさそうな表情を浮かべたアトラスだった。
「……アトラス!!!」
エドワードたちはひょっこり現れたアトラスの顔を見て声をあげた。
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