34. 罠とわかっていても
もう少しだけシリアス展開が続きますが、特大のざまぁが待っているので、お付き合いいただければ嬉しいです。
――王女様から呼び出され元上司と決闘するという謎イベントが終わった夜。
アトラスは自宅で妹ちゃんと食卓を囲んでいた。
本当は王女様から夕飯に誘われたのだが、兄がたじろいでいる間に、妹ちゃんが「用事があります!!」と力強く宣言し、帰宅することを余儀無くされたのである。
「……用事なんかないのに王女様のお誘いを断っちゃって、大丈夫かな」
アトラスが不安げにため息をつく。
「家族で団欒! これ以上の用事なんてないでしょ!?」
妹ちゃんはビシッと言い放つ。
「……いや、でも……」
「お兄ちゃんは、私と王室、どっちが大事なの!?」
いや、だからそれは嫁が旦那に言うやつ(以下、略
って言うか、自分と王室を天秤に掛けさせる人を初めてみました……
アトラスはまた心の中でため息をつく。
ちなみに、王女様からはまた日を改めて夕食に誘われる運びとなっていた。
なんか「ぜひ父とお会いしてほしい」とか言ってたけど、当然父って国王陛下のことだよな…
アトラスの不安は止まらない。
と、不安だらけの兄の腕を揺すって、妹は宣言する。
「って言うか、来週こそ、二人でデートに行くから!」
……これは「お前、来週は王女様の誘いを断れよ」という「お達し」でしょうか。
「は、はい。王女様には再来週以降にと伝えます……」
「再来週も用事あるから!!」
「さ、再来週も!?」
妹ちゃん、なぜか意地でも俺と王女様を会わせない気か……
一体なぜ……
と、そんな風にアトラスたちが「一家団欒」していると――
突然、玄関から扉をノックする音が聞こえてきた。
「夜に一体誰かな? 最近、うちに来る人が多いね……」
妹ちゃんは来訪者を怪しむ。
「ちょっと見て来る」
「私も行く」
と、アトラスたちは二人で玄関まで行く。
扉を開けると――そこには誰もいなかった。
「あれ?」
アトラスは周囲を見渡すが人っ子一人いない。
だが、代わりに扉の前に一通の封筒が置かれていることに気が付いた。
封筒を拾い上げると、中から短いメッセージと、何かのカードが出てきた。
カードを見ると――そこには見覚えのある名前が記載されていた。
「……アニス? アニスの隊員証!?」
<ブラック・バインド>のものではなく、転職したギルドの隊員証だ。身分を証明する大事な書類が、なぜこんなところに――
と、アトラスは同封されていたメッセージに手を伸ばす。
――<奈落の底>で待つ。誰かを呼んだらアニスの命はないものと思え。
「ゆ、誘拐!?」
アトラスは思わず小さな悲鳴をあげた。
後ろから妹ちゃんが駆け寄って来る。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「……あ、アニスが誘拐された!」
「え!?」
「<奈落の底>に来いって」
「お兄ちゃんを呼び出すために人質として誘拐されたってこと?」
つまりはそう言うことだった。
「……助けに行かなきゃ」
アトラスは一も二もなく、罠に飛び込む決意をした。
自分の身が危険だなんてどうでもいいことだった。
アトラスは急いで家の中に入り、冒険道具一式を手に取る。
妹ちゃんはそんな兄を止めることはしなかった。
兄の無類の強さを誰よりも信じているからだ。
でも、
「お兄ちゃん、これ持って行って!」
妹ちゃんは兄にあるものを手渡す。
それは妹ちゃんがずっと大切にしているものだった。
「ありがとう!」
それを受けとり、アトラスは勢いよく家を飛び出した。
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