32.暗殺
「……ギルマスがあのFランクのアトラスと決闘して負けたらしいぞ」
「……それも瞬殺だって。瞬殺」
「……まじかよ? あんなに偉そうなギルマスが、Fランクに瞬殺なんて笑うな」
クラッブがアトラスとの決闘に破れたと言う話は、あっという間に<ブラック・バインド>の隊員たちの間で広まっていった。
「……SSランクダンジョン攻略の受注もなかったことになるらしいぞ」
「……こりゃ引責辞任だな」
今日は世間では休日。
<ブラック・バインド>の求人広告でも土日はちゃんと休日になっているが、実際のところほとんどの隊員が休日出勤していた。
もちろん、残業代など出るはずもなく、サービス残業である。
そんな中で彼らがクラッブに対して忠誠心を抱いているはずもなく、ギルド内がクラッブの無能さの話で持ちきりになったのも当然だった。
隊員たちの陰口はどんどん大きくなり、もはやギルマスの耳にさえ届くようになっていた。
けれど、クラッブにはそれを怒る余裕さえなかった。
「くそッ!! あのビッチ王女め!!」
執務室に帰ってきたクラッブは、置いてあった椅子をあらん限りの力で蹴飛ばす。
「ぎ、ギルマス……お、お声が大きいです!! 流石に王女様をそのよう言っては……」
コナンは珍しく正論を言う。長いものに巻かれるコナンにとって、ギルマスより王室の権威の方が怖いのである。
しかし、クラッブは勢いのままにコナンを殴りつけた。
「ぎ、ぎ、ギルマス!! な、何をするんですか!!」
完全な八つ当たりだった。
「あのクソ女が、全部仕組んだに違いない。最初から俺を貶めるために、何か細工をしていたのだ。でなければ俺がアトラスに負けるはずがない!」
クラッブは自分がアトラスに――Fランクの無能と貶めてきた相手に負けた事実が受け入れられなかったのだ。
だから「自分は王室の権力によって貶められた」とそう考えることで、理性を保っていたのだ。
「しかしギルマス……王女様相手ではどうにもなりません……」
流石にそのことは無知なクラッブでさえ理解していた。
王室に直接楯突けば、命が危ない。
「ならば、方法は一つしかなかろう」
「……と言うと?」
「――アトラスを殺すのだ」
クラッブの口からでてきた言葉にコナンはヒィっと息を飲む。
だが、クラッブは本気だった。
「……お前の隊にはアトラスを慕っていた若い隊員がいたな」
「あ、アニスのことでございますか」
「あいつを人質にして、アトラスを<奈落の底>に呼び出す」
<奈落の底>はとあるダンジョンの奥にある有名な大穴だ。
その穴に落とされた、あるいは自分から進んで入っていった者たちは、誰一人として戻ってきていない。
一説には地獄へ通じていると言われている。
「<奈落の底>……ですか!?」
「これなら証拠も残らない。完璧なプランだ……」
クラッブはそこまで考えて、笑みをこぼした。
「あの無能アトラスを殺し、我々の栄光を取り戻すのだ!!」
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