20.救出
――置き去りにされたトニーのパーティメンバーたちは、なんとか必死にモンスターたちの追跡を振り切って、ダンジョンの中をさまよっていた。
ポーションは主に後衛である隊長が持っていたので、残されたメンバーたちはほとんど持っていなかった。
だから極力戦闘を避けながら、出口を目指すしかなかった。
しかしダンジョンは迷宮。
来た道が塞がれてしまうとどうやって外に出るのか――そもそも出られるのかもわからなかった。
「一体、どうすれば……」
アニスの体は恐怖心で震えていた。
ただでさえ力不足なのに、後衛のアシストもポーションも足りない中で、突然迷宮に放り出された。
もう、死ぬしかないんじゃないか。
そんな思いが頭を駆け巡った。
前からパーティの雰囲気は最悪だった。
でも、そこにはアトラスがいた。
危険があれば、いつでも守ってくれた。
けれど、今ここにアトラスはいない。
いるのはアトラスを無能と罵ってきた、なんの力もない愚かな人間たちだけだ。
「……これでポーションは最後だ」
隊長の腰巾着だったコナンがそう呟いた。
――まさかダンジョンで置き去りにされるなどとは思っていなかっただろう、絶望の表情を浮かべていた。
これで全員が持っていたポーションを使い切った。
もうHPは回復できない。
この状態で強いモンスターに襲われれば、HPを削り切られて――死ぬしかない。
誰もが死を意識した。
けれど覚悟なんてできていなかった。
こないだまでSランクパーティだとチヤホヤされてきたのに。
惨めに死んでいくなんて信じられなかった。
「――グァァァ!!!!」
ダンジョンの向こうから次の敵が現れた。
再び現れたリザードマン。
ボロボロのパーティでは勝てるわけがなかった。
「クソッ!!」
コナンたちがどれだけ剣を振るっても、リザードマンたちにまともなダメージを与えることはできなかった。
――そしてどんどんHPが削られていく。
ジリジリと後退して、気がつけば一行は壁際に追い込まれていた。
逃げ場所はない。
「もうダメだ……!!」
コナンが諦めの言葉を呟く。
アニスは必死に剣を振るって応戦を続けるが、やはりHPはあとわずか。
死神は目の前まで迫っていた。
そして、あと少しでHPが尽きる――
――――――――――――――
―――――――
―――
だが、
「――――ハァァッ!!!!!!」
迷宮にこだまする声。
現れたのはアトラスだった。
次の瞬間、現れたアトラスはリザードマン相手に無謀な突撃を敢行した。
それに対して、リザードマンたちは蚊を払うように攻撃を浴びせる。
だが、その攻撃は二倍になってリザードマンたちへ跳ね返った。
「ぐあぁぁ!!」
次々に倒れていくリザードマンたち。かつてのパーティメンバーたちがぼう然と見守る中、アトラスはわずか数分でリザードマンを全て倒した。
「……大丈夫ですか」
一息ついて、アトラスはメンバーたちを見渡した。
皆疲弊しているようだったが、幸いメンバーは全員無事のようだ。
「……アトラスさん!!」
アニスはアトラスの顔を見て、それまで押さえつけていた恐怖心が、堰を切ったように流れ出した。
そのまま、アトラスの胸に飛び込む。
「あ、アニス……」
アトラスは年下の女の子に抱きつかれてあたふたする。
「……まぁ、とにかく間に合ってよかった」
アトラスはおどおどとアニスの背中を撫でるのだった。
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いつも読んでいただきありがとうございます!!
おかげさまでハイファン日刊1位になりました。
ここからトニー隊長へのざまぁのクライマックスです。
ちなみにトニー隊長の次はギルマスへのざまぁが続きますので、
次回以降の更新もよろしくお願いします。




