18.【トニー隊長side】逃亡
泥だらけのまま現れた隊長を見て、部下たちは驚いた。
しかし、誰も話を聞こうとする者はいなかった。
とてもそれができる雰囲気ではなかったのだ。
「お前たち……行くぞ」
トニー隊長は力なくそう言って、先頭を切ってダンジョンへと入っていく。
今日のダンジョンはBランクの迷宮だった。
アトラス抜きのパーティの実力では、とても太刀打ちできないレベルだった。
だが、クビを回避するためにはやるしかなかった。
――トニー隊長は慎重に、ダンジョンを進んで行く。
当然、ダンジョンのモンスターは簡単には倒せない。
だが、隊長はここに来る前に、貯金をはたいて自腹で高価な上級ポーションを買い込んでいた。
それを惜しみなく使っていくことで、なんとか序盤のモンスターたちを倒していく。
そして半日かけて迷宮の中階層へ入っていく。
「隊長、ゴブリン・エリートです!」
向こう側から上級モンスターの群れが現れる。
複数の敵を一気に焼き尽くすべく、トニー隊長は大魔法を準備する。
大魔法の詠唱が完了するまでの長い時間、なんとか部下たちは持ちこたえた。
しかし――
「“ファイヤーランス・レインズ”!」
隊長が放った火の槍が、雨のようにモンスターたちに降り注ぐ。
それによってかなりの敵が倒れていく。
「やったぞ!」
トニー隊長はようやく自分の魔法によってモンスターを倒したことに自信をつける。
だが――
大量の炎攻撃を放ったことで――敵以外の物にも当たってしまった。
――突如鳴り響く、大音量のアラーム。
「な、なんだ!?」
未経験の事態に戸惑う一行。
そして次の瞬間、パーティメンバーとトニー隊長の間に、突然鉄の格子が降りてきた。
「なんだよこれ!!!」
それはパーティを分断する迷宮の罠だった。
格子によって、前衛と後衛が分断されたことで、パーティは機能不全に陥る。
しかも格子はちょっとやそっとでは壊れない仕様になっていた。
――アラームの音はいまだに鳴り響いている。
そして、それを聞きつけたモンスターたちが一気に通路の前後から押し寄せて来た。
「た、隊長! どうすれば!」
部下たちが隊長にすがりつくように尋ねる。
しかし――
「――な、なんとかするんだ!!!」
トニー隊長は自分のことで精一杯だった。
自分の方にもモンスターたちが押し寄せているからだ。
各々応戦するも、全く勝てそうにない。
そして――
「た、助けてくれ!!!!!!!!!!」
トニー隊長は、部下たちを置いて、ダンジョンの入り口の方へと逃げ出した。
「た、隊長!!!!!!!!!!!!!」
呼び止める部下たちの悲鳴が迷宮に鳴り響くが、アラームのけたたましい音がそれをかき消すのだった――
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