洲崎早紀の相談
10月3日、修正しました。
人付き合いするには、相当のエネルギーが必要だと思う。
それが異性と付き合って結婚とかするなら、相当のエネルギーが使われると思う。そのエネルギーが切れる瞬間ってのは、ふとしたキッカケがあればすぐに無くなるものだ。熱と一緒で、水をかければ一瞬で消えてしまえる儚くも淡い泡沫の夢のようなものだ。
俺―――赤崎大和がそれを覚るにはあまりにも遅く、死んでしまってようやく気付かされた。
高校時代に初めて出来た彼女。美人で優しく、絵に描いたような大和撫子だった彼女は同じ大学へ行って卒業したら結婚するとか話すくらいゾッコンだったが、サークルの良き先輩に寝取られた。
たまたま開催した飲み会で言い寄られ、酒に酔わされてそのまま致して関係を強要され続け、いつの間にか堕ちちゃったらしく、ある日にラブホでハメ撮りしたヤツを送ってきて、それを見た俺は愕然として鬱々としながら闇雲に街中を彷徨っていたらスピード超過した乗用車と塀にサンドイッチされ、気づいたら赤ん坊になっていた。
最初は何が何やら理解できず忘却し、年を経て高校生となり、ふとしたキッカケでようやく理解して気分が悪くなる。
ここは俺がいた時間から何年か後の世界だった。
キッカケなんて些細なことだ。
嫌いなものを『人間』と公言するくらい、筋金入りの人間不信でいたら、生徒指導を兼任している担任が、俺に社会奉仕活動を通して人と触れ合うことを目的として部活動という括りで俺に生徒やその他大勢の悩み事などを解決させる部活―――『社会活動部』と名付けられた部活へ入れられたのが始まりで、そこで記念すべき第一号の少女の顔がかつて俺の彼女だった女性に酷似していたことに端を発する。
少女―――洲崎早紀は俺が用意した紅茶に口をつけ、落ち着いた後に話す。
「悩み事を解決してくれるって本当ですか?」
「本当です。申し遅れました。俺は1年の赤崎大和です。よろしくお願いします」
「あっ、同級生だったんだ。ごめん、知らなかった」
微笑を浮かべる姿も似ており、それが酷く気持ち悪く感じてしまう。あの微笑を向けられていた後には、サークルの先輩と致してアヘ顔を晒してたのが思い起こされるからだ。
まあ、彼女が知らないのも無理はない。俺はクラスでは目立たないボッチを貫いているし、おまけに彼女はクラスも違う。
見た目は清純な大和撫子で名字も彼女と同じであることから、恐らく血縁者だろう。それにこの名前……もし、俺があのまま彼女と結婚して子供が出来たらつけようとお互いに相談していた名前だった。
「それで、用件はなんですか?」
「はい。こういうのは同級生に明かすのって変なんだけど……それでも構わないかな?他に相談できるような人いないし」
クラスで浮いてるから、と自嘲するように笑う彼女にはなんと言えばいいのかわからない。
「さらっと悲しいことを言ったのは置いておいて、悩み事ってなんだ?」
「私、生まれてからずっとお父さんの顔を知らないんだ。それをネタにイジメられてきたんだけど、お母さんはいつも決まって悲しそうな顔で謝るだけで教えてくれないの。写真見たり、道端に花束を置いては悲しそうな表情を浮かべるの。
何かあるんだなって薄々思っている。でも、それを知ったらきっと駄目なんだなって思うんだ。これって私は知ってもいいと思うのかな」
「洲崎さんは知りたいのかな?」
「私は―――」
一拍置き、洲崎早紀は答える。
「知りたい。お母さんが何に苦しめられてるのか私は知りたいの」
「答えが出てるじゃないか」
まあ、問題はそれを知る行為だ。子供の財力では探偵を雇うことは出来ないだろう。その手のテレビ番組があるが、あれを頼ってしまえば知りたくない事実まで明らかにされてしまうだろう。それは本意じゃないだろう。
「つかぬ事を聞くが、君のお母さんの名前を教えてほしい」
「お母さんの名前? 早苗だよ。洲崎早苗。それが私のお母さんの名前」
「……そうか」
彼女だった女の名前だった。ここまで若い頃の彼女に似ているのならば、俺が知っている人で合っているハズだ。
もし、これで洲崎早紀が全てを知ることとなれば相当に厄介な事態になることは確実だろう。
「まあ、頑張ってやってみようか。全力でサポートするよ」
それでも、知りたいと言うのならとことん付き合ってやろう。俺も知りたい。
好奇心がある。
ここが俺が死んで十数年後の未来であるならば、俺も洲崎早紀と同じように知らないといけないと思うからだ。