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第五話 「分岐点」

 

 頭が痛い。グラグラする。

 ああ、熱い。熱い熱い熱い。

 声を出そうとしても喉が焼き切れているようだ。

 苦しい。


 死にたくない。


 こんなのあんまりだ。

 だって俺はまだなにも――、

 死にたくない死にたくない死にたくない死――




「おい! 目を覚ませノア!!」




「………………………………………………………………はっっ!」


 俺はガバッと身を起こした。

 体には一切の傷も火傷もない。

 周囲を見渡す。

 前方にはモグリが全体防御で赤竜と格闘している。

 後方のレインは魔力の障壁でモグリの支援をしているようであった。

 目の前にはカルマとシルヴァが立っている。


「体の調子はどうですか? 痛みの残る場所などございませんか?」


 なるほど。

 シルヴァの超級回復魔法、完全回復(パーフェクトヒール)

 致死に至る傷をも回復すると言われる最上級の魔法。

 その魔法を全員に掛け、火傷も何もかもを回復させたというわけだ。

 シルヴァは魔力の使いすぎなのか、どこかグッタリしているように見える。


「大丈夫です。ありがとうございます。状況は?」


 俺の質問には、カルマが答えた。


「見ての通りだ。奴は飛んじまってから降りてこねえ。モグリとレインが今のところは奴からの攻撃を防いじゃいるが、ま、時間の問題だわな」


 絶体絶命。

 そんな状況において、彼は笑っていた。


「お前を待っていた。奴を落とすぞ」


 俺は呆気に取られた。

 何度も彼には助けられる。

 彼に引っ張られたから、俺はここまでこれたのだ。

 強い彼に憧れる。けれど俺は、彼にはなれない。

 彼は――いや、彼らは俺とは違う人種なのだ。

 冒険者。

 未知を探求する者。

 そして、困難を攻略する者。

 俺はきっとそうはなれない。

 臆病者だから。

 けれど、

 これで最後だとしても、今日まで俺は冒険者なのだから。

 ここは彼らの流儀に則るべきだ。


「了解」


 笑って。

 俺は腰に差した剣の柄に、そっと右手を置いた。



 ―――



「ノアが目を覚ました。レイン、例の作戦、やるぞ」


「おっけい。ノアくん、いけそう?」


 話すレインの表情に余裕はなさそうだった。

 それもそうだろう。

 赤竜は今なお、体当たりとブレスをひっきりなしにくらわせてきている。

 敵も必死なのだ。


「いけます。やりましょう」


 言葉を多く交わす時間などない。

 俺は端的に伝え、彼女の行動も迅速だった。


「モグリ!! 十秒耐えて! その後は作戦通りに!!」


「了解だべ~~!」


 レインは魔石の付いたロッドを、すっと手元に引き寄せた。

 魔法を再構築するのだ。


「ノア」


 隣に並んだカルマが不意に話しかけてくる。


「どうかしましたか?」


 するとカルマは頬を掻き、目を逸らした。


「いや、お前大きくなったなぁって……」


 どてっ。

 俺は転んでしまいそうになった。


「こ、こんなときに何言ってるんですか……」


 親戚のおじさんのようなことを言う彼に俺がドン引きしていると、

 カルマはハハッと笑った。


「俺に子供がいたらこんなもんかなって思っただけだ。気にすんな」


「いやそんなこと言われて気にしないって方が無理あるでしょう……。しかもこれ、カルマさんの言うところの死亡フラグってやつじゃないんですか?」


「はは、違いねえ」


 笑う彼は相変わらず視線を外したままだ。

 視線の先には、彼の愛剣がある。


「準備できたわよ!!」


 と、後ろから大きな透き通る声が届いた。

 俺たちは剣を構えなおす。

 おそらく最後となるやり取りで彼は言った。


「全力でやれ。あとは俺がなんとかする」


 彼はまた笑った。

 俺が返事をする前に作戦は始まった。


 ――俺たちは、地面からせり上がるモノに(はじ)き出された。


土壁(アースウォール)×2!!」


 それは土の壁。

 足元から出てきたそれは俺を持ち上げ、風を切る勢いで斜め前方に伸びていく。

 俺は赤竜の胸元まで射出された。


「ぐぅぅうううううう!!!」


 風の抵抗が激しい。

 しかし方向、威力共にこれがベストであろう。

 さすがは【魔女王】。

 並の魔術師ならここまで繊細な魔法コントロールはできない。

 奴に届かない、もしくは、天井に突き刺さるのがオチだろう。


「GRAAAAAAAAAAAAA!!!」


 が、敵も一枚岩ではない。

 グンという衝撃が前から迫る。

 奴の大爪が被さるように振りかぶられた。


「ふぅぅううう」


 闘力とは、物理法則や人の限界を突破することができる力の源だ。

 俺は闘力を流し、身体を支配する。

 左半身、背中、右半身。

 そうやって力を順番に流す。

 俺は空中で反転した。

 奴の攻撃を避け、振りかぶる。

 絶好の間合い。

 狙うは奴の胸部、魔石を抉り出すのだ。

 首を切り落としても死なない魔物など見たこともなかったが、

 さすがに体内活動の核ともいえる魔石なくして生きることなどできるわけもない。

 見るとすでに星の傷跡がある。


「あとは、俺がっ!」


 肉薄し、魔力と闘力を右の五指にかき集める。

 連撃流魔力混合中級剣技「炎ノ(フレイム・)三角刃(トライアングル)」。

 空中で放つ剣技、体勢など整わない。

 けれど俺は確かな手ごたえを感じた。

 炎の描く逆三角は、余すことなく赤竜の胸部にヒットした。

 グジュグジュと音を立てながら、血と肉の底にある魔石がまろびでてくる。

 ――が、


「AAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 絶叫、瞬間、熱。

 見上げると奴のぎょろりとした赤く血走った眼玉は、俺一人を捉えていた。

 炎の塊が膨れ上がる。

 奴のブレス攻撃、その前兆。

 俺は死を覚悟した。

 あと一手。

 あと一刃足りなかった。

 技を放ち終わった俺の右腕はビリビリと痺れている。

 硬直して動かない。

 三人が叫んでいる。

 けれど、もうその声も聞こえない。

 空中、逃げ場はない。

 俺はもう、その瞬間を待つしかないのだ。


 ――本当にそうなのかの?


 不意に聞きなれた、そのうざったらしい声に。


「――違う」


 俺は反発した。

 ここで負けるわけにはいかない。

 俺は一人じゃないんだ。


 ――くれぐれもお気を付けください。無理はいけませんからね


 ――お前はもはや、俺たちの家族も同然だべ


 ――ノアくんのことが大好きだからだよ!!


 俺が死んだら、悲しむ人がいる。

 家族がいなくなった俺に、優しくしてくれた大切な人たち。

 だから、ここで諦めるわけにはいかないんだ。



 ――強い強い自分をイメージするんだ。誰よりも強い自分を。

 そうすれば、できない技も魔法もないんだよ



 憧れる、彼の言葉を思い出す。

 俺にとって最強とは彼だった。

 思い出せ。

 彼は何度だって奇跡を起こしてきた。

 限界など乗り越えてきたじゃないか。


 誰に剣を習ったと思っている。


 最強の冒険者、【炎剣】のカルマだ。


 腕が動かない?

 技の限界?


 なら、それを今ここで超えて見せろ。

 ありったけの力を込めて、

 闘力と魔力をかき集めて、

 イメージしろ。

 最強の自分を!


 固まってしまった右腕が再び動き出す。

 中級剣士の俺には放てないはずの四撃目。

 心の炎は剣のみならず全身を燃やした。


「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 飛び掛かりながら、


 奴の魔石を左腕で抉りながら、接合部に剣を振り下ろした。


 直後、血と焦げた肉の臭い。


 灰が舞う。


 どさりと地に落ちた巨大な魔石。


 俺たちは勝利した。











 ―――



「よかったぁぁぁあああ!!

 生きててよかったよノアぐん~~~~!!!」


「うわっ!」


 右腕は動かない。

 体中ボロボロ。

 そんな状態で足を引きずりながら皆の元へと戻った俺を待ち構えていたのは、レインの抱き着きであった。てか痛い痛い。首きまってるから! ……この人、俺のこと殺すつもりなのかな?

 顔からは涙やら鼻水やらが滝のように流れ出ている。抱き着いてるから分からないが、おそらく成人女性がしてはならない顔をしているに違いない。


「お疲れ様だべ、ほれ」


 子供のように泣く成人女性(25歳)を抱きしめてヨシヨシしていると、傷だらけのモグリが回復薬を投げてよこしてきた。こういう咄嗟の気遣いにいつも助けられる。


「あ、ありがとうございます」


 小瓶に入っていた液体を流し込む。

 柑橘系の風味と、雑草を潰したような苦みがブレンドされたような味のそれを一気に飲み干すと、腕の痛みが引いていく。

 完全回復とは言わないが、普通に動くことができるくらいにはマシになった。

 シルヴァを見ると、座りこんでこちらに手を振っている。

 苦笑しているあたり、かなり疲れているようだ。


(完全回復連発してたもんな……本当、シルヴァさま様様だよな)


 と、俺がシルヴァに感謝していると、シルヴァの隣で立っていたカルマが笑いながら近づいてきた。


「やったな、ノア!」


 頭をグリグリとされる。痛い。


「ありがとうございます。カルマさんのアドバイスのおかげで何とか勝てました」


 チッチッチッと指を振って、彼は得意げだ。少しウザい。


「俺の力じゃねえ。お前の力だ。お前は限界を超えたのさ。

 分かっただろ、これがイメージの力ってやつだ!」


「いや結局それはよく分かりませんでしたけど」


「ありゃりゃ!!」


 彼はわざとらしくズッコケる。

 そんな姿をずっと見ていたかったけれど、残された時間は僅かだから、

 俺は「でも」と前置きして、


「いつか、理解できたその日には、

 あなたを超えて見せます」


 俺に似合わぬ言葉に驚いたのか、彼は目を見開いた。

 けれど、彼の反応を見る限り、それは予想外のことではなく、

 むしろ英雄譚、その期待通りの展開にワクワクしている少年のようだった。


「お前が一生かけても追いつけない場所で待っててやる。

 超えれるもんなら超えてみな」


 彼の焚きつけるような言葉に、俺もワクワクしていた。

 きっと今日は、俺の人生の分岐点に相違ない。



 ―――



 十分に休息を入れた後、俺たちは話し合った。

 攻略を進めるか、否かだ。

 普通なら激しいボス攻略の後だ。帰還するのがセオリーだろう。

 けれど、今日は俺の最後の冒険だ。

 俺は甘えた。

 もう少しだけ、冒険したいと。

 否定する者は誰もいなかった。

 しばらく歩くと、白い道は途中で途切れた。

 以降、同じような螺旋の道は続いているが、色が違う。

 黒。

 漆黒の道であった。

 ここからが新たな層ということだろうか。


「ここからが五十一層ってことでいいんですかね?」


 俺が聞くと、カルマは顎を触りながら答えた。


「分からんなぁ。なんていったって未知の道だからな」


 それもそうだ。

 未開拓のグランドダンジョン、その最前線。

 これまでの常識は通用しないのかもしれない。


「ふったりとも! そんなことよりあれ見てよ! あれ!」


「ん?」


 俺が見上げると、

 そこには、俺たちがこの「螺旋の道」に踏み入れたときと同じように、

 炎の文字が宙を浮かんでいた。


『Congratulation!!』


 俺たちを祝うメッセージ。

 ここからはやはり新エリアだということか。

 そんなことを考えていた矢先、天井から何かが落ちてきた。

 このグランドダンジョンを作った者がいるなら、よほど天井が好きなように見える。


「お! 宝箱じゃねえか!」


 本当に彼は子供のままだ。

 異世界ではきっと無職だったに違いない。


「も~う! こんなご褒美があるんならボス倒したあとにすぐ出しなさいよね!」


 そんな益体をつきながらも、彼女も頬が紅潮している。

 彼女は欲に忠実だ。男としては敵に回したくない。


 そんな冒険者らしい二人の後を、俺たち三人はついていく。


「お、これ鍵穴もなにもないぞ。このまま開けれそうだ」


 ん? 少し不安だな。

 ここまでの宝箱、三十層を超えてからというもの、すべての宝箱に鍵は掛かっていた。

 それを盗賊スキル持ちのシルヴァが開けてきたのだが、


「大丈夫です。鑑定しましたが、罠の可能性はありませんから」


 シルヴァの言葉にホッと息を吐く。

 迷宮の罠にかかって遭難や死の運命を余儀なくされる冒険者も多い。

 こうやって鑑定スキルを持つ仲間がいると本当に助かる。

 カルマはそれを了承と見たのか、嬉々として宝箱を開けた。


「おおお……お? なんだこれ、魔石か? 面白い形してるな」


「わぁ! でもカルマ! これすっごく綺麗よ! 売ったらいくらになるのかしら!!」


 大の大人(男)は未知の物体にワクワクを隠しきれず、

 大人な女性(25歳)は憶測で金額をつけ始めた。


 俺たち三人も追いつき、それを眺める。


「おお」


 確かに綺麗だった。

 それは手の平ほどの大きめサイズの宝石のよう。

 色は無色透明で透き通っている。

 形は丸く、まるですでに磨かれたかのように、完璧なバランスでそこにあった。

 丸い石。

 そう言ってしまえば単純なものだが、そこに神秘性を感じられずにはいられなかった。


「おお、おおおおおおおおおおお!!!」


 ビクッとして後ろを向く。

 そこには恍惚とした表情のシルヴァがあった。

 まあ、サブ職業として盗賊をやっているくらいだ。

 あんな珍しいものを見たら、こうもなるか。

 そう、普段と異なる彼の反応を無理やり納得しようとしたが、

 次の瞬間、放った言動は理解の範疇を超えていた。


「おいカルマ、それを私に寄こしなさい」


 いくら口調を柔らかくして隠そうとしても、十数年も冒険者をやっていたら分かる。

 これは殺気だった。

 決して、仲間に向けてはいけないものだ。


「はあ? お前いったい何の―――」


 カルマの言葉が終わらぬうちに、事は動いた。

 シルヴァがパチンと指を鳴らす。

 口を開ける。


「t場%g四rh#潮れr銀b反りghjふぃhsjlrgbhぢおぐsf具h汁bsgジュhs日jbhsぃgbslsぉりjgh真hsりそいbjmb子grjンg絶hfvbfjhbdyhンvびゅbkンfkgjンxjfg神jkンbdぉうfghldkjbngkm5おんびうjszdjhfvbぢkhb」


 シルヴァを中心にして、


 銀の稲妻が拡散した。


 カルマの両手足が弾け飛び、


 モグリの首が灰となり、


 レインの下半身がずり落ちた。


 肉の焦げた臭いと血の臭いが鼻をつく。


 俺の悪夢が始まった。





















 ―――



 ステータス

 名前:シルヴァ

 種族:人間

 称号:【A級冒険者】【???】

 年齢:???

 魔力:???

 闘力:???

 魔法:《回復魔法(超級)》、《索敵魔法(上級)》、《?????魔法(?????級)》

 剣術:??流(?級)

 スキル:鑑定スキルS 盗賊スキルS ????? ????? ????? ?????

  ????? ????? ????? ????? ????? ?????

 耐性:????? ????? ????? ????? ?????



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